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からだのなみにのるアーユルヴェーダ料理「立夏」-気分爽快-

風薫る5月。暦の上では夏が立つ、と書くその言葉通りの晴れ渡る青空が続く時季。夏の始まり。
新緑の青い若葉を吹き渡る初夏の風が私たちの身体の中にもすり抜けて、春の終わりに別れを告げるべくこれまで溜め込んだものを洗い流していくタイミングです。

eatreat.ruciでは、そんな季節の変化に身体のリズムを心地よく合わせていく「からだのなみにのる」ランチコースを始めました。お出しした料理を食べていただいたお客様側の気持ちを想像して日記調で書き記していきます。実際に体験した方も、そうでない方も、このお客様と同じカウンターに居合わせたことを想像して読んでみてください。

世田谷駅からテクテク歩いてルチへ向かう、あなたの頭上にはすこん、と抜けるような青空が広がっています_______

食前の飲み物:ハイビスカスとバラのソーダ

空に「立夏」と書いてあるような青空の下、ルチのアーユルヴェーダ料理のコースを食べに世田谷駅に降り立った。
少し歩くとほんのり汗ばむ陽気。緩やかな坂を登ってたどり着き、着席すると、お白湯かお水か選ぶことができた。
いつだって白湯を選べばいいわけじゃないらしい。

「それでは、食前にハイビスカスのソーダ、もしくはかりん酒のソーダ割りをご用意していますのでお好きな方を選んでください。かりん酒は昨年11月に漬けたもの。アルコールはすっかり飛んでいますから、喉の薬として飲んでみてください」と店主が言った。

ハイビスカスのソーダを選び、一口含むと、汗ばんでいた首元がすっと涼しくなる。

デトックススープ

食前の生姜を食べてから、最初のひと皿。
「ビーツ、アスパラガス、大根、人参をたっぷりの水で優しく煮込み、そのスープをギーと岩塩で仕立てたスープです。野菜のガラは全て捨ててしまうのでもったいないように思いますが、アーユルヴェーダでは最も良いとされるグループの食材の良いところを引き出した一杯です」

器の中を覗くとあったかい湯気に包まれてそれだけでほっとする。ゆらゆら揺れるスープの水面をしばらく眺めてから隣を見渡すと、ポテッとした形のスープカップを両手で抱えて、抹茶のようにゴクゴク飲み干す人もいれば、ガラスのレンゲでそっと一口ずつすする人もいる。
いずれにしても、みなが心に温かみと甘い幸せを感じて、顔に自然と笑みを浮かべている。

前菜:夏野菜と緑豆のパンケーキ

「お次は緑豆のパンケーキです。一晩浸した緑豆を撹拌し、玉ねぎ・生姜・青唐辛子・パクチーとともに作った種で焼きました。ガス防止にヒングを少し。秘伝豆のフムスと夏野菜のサラダとともにお召し上がりください」

スープを飲んでいる間、キッチンでパチパチいい音を立てながら次々焼かれていたのはこれだったのか。新緑の森から景色を切り取ってそのまま料理にしたような若々しい緑色。
手でちぎってフムスと野菜をのせ、食べると青々とした爽やかな風味が口の中に広がっていく。コリアンダーシードを噛むたび感じるほど良い酸味が身体の感覚を外に開いていく。

メイン:青山椒と木の芽のご飯、コラキャンダ、ミントチキン、ズッキーニのライタ、レモンアチャール、ワイルドクレソンのサラダ、カシューナッツとそら豆のテンペラード)
※写真の日はバラとハイビスカスのアチャールもつけました

いよいよメインの皿が運ばれてきた。
もう結構食べているはずなのに、さすってみると不思議とお腹が軽い。

「メインのお料理です。ご飯はフレッシュの木の芽と、中国のドライの青山椒をギーでタルカして混ぜた爽やかなご飯です。カトリに入っているのは、緑色がコラキャンダ。青菜のおかゆです。赤もち米をほんの少し粥にし、春菊のしぼり汁とココナッツミルクで仕立てました。メインはエジプトのドライミントがたっぷり入ったクールなミントチキン。焼いたズッキーニのライタ、レモンアチャールとともに味変しながらお楽しみください。惣菜はカシューナッツとそら豆を炒めたテンペラードと、ワイルドクレソンとざくろのサラダです」

言葉だけ聞いているとちょっと混乱しそうになったけれど、食べ始めるとどれもシンプルで素直な味。
「アーユルヴェーダの料理は、調理する工程で複雑すぎないようにする決まりがあります。あくまで消化によく、食べた人の身体にちゃんと浸透するようにするためにも、凝りすぎず、シンプルに仕上げます」とのこと。

前菜までの料理で胃腸に溜まっていたものが一度洗い流されて、メインの料理が滋養になってぐんぐん身体の中に入ってくるのがわかる。
コラキャンダやクレソンの甘くて苦い味が身体の熱を冷まし、木の芽のご飯とミントチキンを一緒に口に運んだ時には青い風が吹く。そら豆を噛むたびに春の芽吹きはしっかりと噛み締めて味わいたいものだと思う。

どれも爽やかなのに口の中がしっとりと潤い、全身の穴という穴の隅々まで心地よさが広がる。

夢中になっていると、カウンターに透明の茶器がずらりと並び、様々なハーブがふわり、そこにお湯が注がれていく。
「よもぎ・カキドオシ・花付きの黒文字を使った春の野草茶です」
これまでに感じたことのない、ほのかにスパイシーで鮮やかな香りが立ち上り、茶器の中は青竹色の湯に染まっていく。

よもぎ・カキドオシ・花付きの黒文字のお茶

デザートはワタラッパン。
ココナッツミルク・ジャガリー・有精卵のシンプルな材料を混ぜ合わせて焼いたシンプルなプリンに、甘酸っぱいあんず。
つるりとした喉ごしでするするとお腹に収まっていった。濃厚な甘さの中に清らかで良い卵の旨みが広がって、なんとも滋味深い。

ワタラッパン、あんず

最後の一滴までお茶を楽しみ、ふー、と息をつくと隣のお客さんが店主に向かって「こんなにゆっくりと食事に集中したのは久しぶりです」と言った。
そうなのだ、食事を楽しむ、というより食事に集中する時間だったと私も思った。

「今日は楽しくお話ししながら食べていただきましたが、その中にも集中する時間があったようで良かったです。アーユルヴェーダでは基本的に黙食を勧めています。今自分が何を食べているのか、何が自分の心身になろうとしているのか、普段はそんなこと感じないことも多いと思いますが、アーユルヴェーダの料理ではそれを感じることでより身体の糧にすることができます」と店主。

思えば年度が変わる頃から毎日毎日走りきっていて、いつの間にか体力がすり減っていた。それを補えたことに感謝して、店の外へとでて伸びをすると、身体の中が温かく潤いのある清涼感で満ち満ちていた。
夏を迎える支度、万端である。


「立夏」のレシピの作り方
暦の上では夏の始まり。夏の兆しが見え始め、歩いているだけで少し汗ばんできますが爽やかな薫風が吹いて乾かしてくれるので一年で最も気持ちのいい季節と感じる方が多いのではないでしょうか。
紫外線も陽射しも強くなってくるので、熱がこもったままにならないように日々、クールダウンを意識する必要があります。
スパイスは身体を温めるだけでなく冷性のものもたくさんありますし、フレッシュハーブも上手に使えば爽やかな仕上がりに。和食でも薬味を使ったり、香りのいい野菜(春菊、セロリ、紫蘇など)を使えばクールダウンの効果があって初夏の養生料理になります。一方、辛すぎるものや肉類・魚介類や酒類の過剰摂取を控えると、食事で熱を生みすぎることもなく楽に夏に向かって身体を整えていくことができますよ。
お出かけの際には頭上を守って、サングラスや帽子、首元のスカーフなどを忘れないようにしましょう。

このnoteは2022年12月1日に世田谷にオープンしたアーユルヴェーダ料理店「eatreat.ruci」で季節に合わせて定期的に開催するアーユルヴェーダのランチコースの記録用として綴っていきます。
ご来店いただいた方も、あいにくご都合が合わない方も実際に食べていることを想像しながら読んでみてください。


サポートしていただいた分は、古典医療の学びを深め、日本の生産者が作る食材の購入に充て、そこから得た学びをこのnoteで還元させていただきます^^