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エンジンサマーを読む。

夏が終わると秋が来る。
秋は終わってもそのまま冬にはならない。
季節には晩秋から初冬にかけて、晴天が続き日中は高温で夜は冷たく冷え込む時期がある。
アメリカのインディアンはこの時期を利用して厳しい冬に向け作物を貯蔵した。この2度目の夏のことを人々は〈インディアンサマー〉と言い、日本語では小春日和と訳される。

タイトルのジョンクロウリーの小説〈エンジンサマー〉は文明社会が崩壊したアメリカの未来を描いている。生き延びた人々は地上で様々な失われた遺物の中で独自の文化を築き、一種の牧歌的なユートピアを形成していた。
物語は主人公の〈喋れる灯心草〉と呼ばれる少年が天使と呼ばれる少女に語りかけるところから始まる。

リトルビレアと呼ばれる集落で産まれた〈喋れる灯心草〉は幼馴染の少女〈ワンス・ア・デイ〉と恋に落ちる。だが〈ワンス・ア・デイ〉は旅の商人〈リスト〉に従って集落を出ていってしまう。〈喋れる灯心草〉はそんな彼女を追って旅に出る。

物語の背景として、かつての文明の遺産が出てくる。延々に続く環状道路や同じ型で出来た住居跡、かつての宇宙船の残骸、クロスワードパズルが深遠な謎を含んだ遺物となっていたりと(クロスワードパズルを何か壮大な謎だと思っている老人が出てくる)かつての用途を失い、全く別の扱いをされているものが出てくる。笑えるというよりなんだか物悲しく悲哀に満ちている。タイトルのエンジンサマーもインディアンサマーの語感が変化して伝わってしまったのだろう。
そんな世界観で話は進んでいく。

読んだ方は解ると思うが〈エンジンサマー〉は悲劇の物語だろう。切なく哀しい、読後はやるせない気持ちになる。
文明という足枷が失くなった人々はどのようにしてモノを語り、経験を語り、恋をしていくのか。全編を通して美しい世界観で描かれている。

物語中盤で主人公が冬を超す場面が出てくる。来たる厳しい冬に向けて家を補修したりせっせと食料を備蓄したりする。
冬が来たらじっと動かず、熊のように体を丸め毛布に包まり、うつらうつらと煙をくゆらせ冬を乗り越える。
仕事もない、やることもない、ただ春を待つだけの生活にちょっとだけ羨ましさを感じる自分がいた。

ワンス・ア・デイ、冬なんかないといってくれ

冬なんか来ないといってくれ

そうしたらきみを信じるから

エンジン・サマー (扶桑社ミステリー) https://www.amazon.co.jp/dp/4594058019/ref=cm_sw_r_other_apa_i_Zek5EbKRKPR41

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