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迷子の無一郎くんを保護したらパグに不審者認定された

いい天気だなーと外を歩いてたらチャリに乗った女子高生が華麗なドリフトを決めて自転車ごと転倒した。
突然のことに唖然とした私は口をポカンと開けて間抜け面を晒しながらドーモくんと化した。

女子高生はピクリとも動かなかったので、まさか先立たれてしまったかと不安になりつつ、「大丈夫ですか?」と声を掛けると、彼女はゆっくりと起き上がり「あ、大丈夫です…ありがとうございます…」と言いながらフラフラと立ち上がり、自転車を立て直した。

しかしすぐに「あれ?無一郎…?」といいながら何かを探し始めた。
どうやら彼女の鞄につけていた無一郎くんのアクキーがなくなってしまったらしい。
転倒した際にカゴの中のものも飛び出してしまったので、恐らくその勢いで鞄から取れてしまったのだろう。

一緒に探そうと思い、「もしかして無一郎くんいなくなっちゃいました?」と、まるで無一郎くんが家出したような問いかけをしてしまった。

すると彼女は「そうなんです。このくらいの大きさで…」と特徴を説明し始めたので、恐らく気にしていなかったのだろう。
不運なことに、彼女が転倒した近くには草が元気に生い茂っており、小さなアクキーを探し出すには中々骨が折れそうだった。
それでも同じ推しを肌身離さず身につける者として放っておく訳にはいかず、共に探すことにした。

そしてガサガサと草むらを漁っていると無事に無一郎くんを発見したので、「無一郎くんいらっしゃいました!!」と後ろを振り返ると、私の後ろには見知らぬおっちゃんが居た。
犬の散歩をしていたのだろう。
タイミングよく私の後ろを通ってしまったがために、突然初対面の女からアクキーを差し出されるという不気味な体験をさせてしまった。

おっちゃんは困惑したように「あ、あぁ…」と静かにカオナシと化した。
おっちゃんの連れてるパグも心做しか私の顔を見て警戒の眼差しを向けている。
突如自分の飼い主をカオナシへと変貌させる恐ろしい不審者に見えているのかもしれない。

私は慌てて「すみません!!」と言いながら逃げるように女子高生の元へ駆け寄った。
彼女は「この子です!ありがとうございます!」と笑いを堪えてお礼を言ってくれたが、私の顔を見ると吹き出してしまうためか、視線が交わることはなかった。
それからは各々が何事も無かったように自分の日常へと戻って行った。

爽やかな日差しの降り注ぐお昼の一コマであった。
私はせめてパグにだけは不審者ではないと誤解を解きたかったと今だに後悔している。

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