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書き間違い?「新選組血風録」土方と山崎の会話。

私の大好きな短編集、司馬遼太郎の「新選組血風録」。

「鴨川銭取橋」篇では、幹部隊士・武田観柳斎の言動を怪しむ副長・土方歳三が監察・山崎蒸を呼び、武田の内偵を命じる場面があるのだが、この会話が面白い。

書き間違いに思える部分があるのだ。

つまり、
山崎は日頃から、近藤と土方におべっかを使う武田が好きではなかったが、当の近藤、土方は武田を可愛がっている、と思っていた。

だから、土方に呼ばれ、ある事件の下手人として武田を疑っていることを聞かされると、
(ああ、この人は、武田の本当の人柄を知っていたのか)と思う。

そう言うと失礼だから、山崎は口にしない。

しかし、土方の次のせりふは、

ご存じでしたか、とはご挨拶だな。私は隊士のことならなんでも知っているつもりだが」

なのである! あれ? と読者は一瞬思う。
だって山崎は「ご存知でしたか」なんて言ってない。

この後、例えば
「私は何も…(申しておりません)」
「申さずとも顔に書いてある」
などと続けば自然に思う。

しかし実際の作品では、当の山崎は
「おそれ入ります」
と受けるのだ。

土方は、人の心の声まで聞けるのか。怖い!

と、土方の怜悧な人柄を分からせる司馬さんの演出か、と思ってみたり。いやしかし、さすがにこれは書き間違いで、司馬さんに怒られるから編集者も指摘できなかったのだろう、とも思ったり…

皆さんならどう読むでしょうか。
とにかく全編が面白い、おすすめの本です。
それではまたー。

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