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催眠高速

雨の首都高。
一台のクルマが、横なぐりの雨を突き進んでいく。

運転できない私は助手席に座る。
運転をするのは、私の古くからの友人。

名は、岡島(仮名)という。

「なあ、そろそろ将来マジメに生きたほうがいいんでないの?」
氷の先をさされたかのように、ハダカの言葉が突き刺さる。

二人に重い空気が流れる。
まるでアイロンの底に押しつけられたような、息もデキないくらいの重圧。

時間がゆったりとふたりの中を流れる。
重苦しい空気に穴を開けるように、私がゆっくりと話しだす。

「ちゃんと将来のことは考えているつもり」

すぐさま「いやいや、ちゃんと考えていないかやこうなるんだって。」と否定に入る。

「別に説教するわけじゃないよ。でも日本はまだまだ若い人重視だからさ。今必至でやることが大事だから。」

クルマは首都高をすでに抜け、東名高速に入る。
道なりに進んでいくクルマと、道なりに進んでいけない今の私。

今、同じ場所にいながらもお互い進んでいく道は違う。

この先クルマはあといったい何キロ走るんだろう。私の心に少しずつ迷いを残して。

いつしか外は夜空に変わる。
10年前に見た夜空と、今見ている夜空は同じものだろうか?

目的地に着くと岡島は、私を車外に下ろす。

「またな」、と去っていき。
クルマはいつしか闇夜に消えて行く。

夜空に浮かぶ星を一つ一つ眺めていた。
今にも消えそうなあの星。
名前を語ることなく、どこかへと消えて行くのだろう。

後ろを振り返っても誰もいない。
あるのは私の影のみ。

油にまみれた涙を流し、月を見上げれば餅つきをしているウサギが今にも駆け寄ってきそう。

疲労は肩から、不調は脳から。
今やれることは、脳汁が出るくらい必死で頑張ることだ。



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