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「あの頃。」ふたたび考

映画「あの頃。」を2回目観ました。
つらつらと思ったことを書きます。

友達がいなくなっちゃった

長渕剛の「友達がいなくなっちゃった」という歌が好きで。古い友達と集まっても昔話ばかりで、自分だけ今を生きてる感じがして孤独だけど「今がいちばんいい」から前を向いて生きる、という歌(レゲエ調)。

長渕剛「友達がいなくなっちゃった」 アルバム『JEEP』収録


地元、学生時代、社会人になっても「昔話をする人」が次々と現れる。

それがいやで、「あの頃はよかった」みたいな話をひたすら避けていた。「おしゃべりな人」も好きじゃなくなった。

だけど、「昔話はしない」「同じ話は一回しかしない」とひとり決めていたら、見事に過去の記憶が消えてしまった。

同じ話を何度もする人は話術に磨きがかかり、鉄板エピソードを持つ。面白い話をたくさん覚えている。羨ましさを感じる。自分には鉄板エピソードと呼べるものがあまりない。

「あの頃はよかった」みたいな話は今でもしたいとは思わないけど、たまにはこうして肩を並べて飲んで、ほんの少しだけ立ち止まってもいいなと思う。

「今を生きる」ってなんだ?

「あの頃はよかったなんて言わない」「今の時代がいちばんいいよ」というのは自分がずっと考えてきたことであり実践してきたつもりのことで、映画「あの頃。」のテーマと重なる。「あの頃はよかったという映画ではなく、あの頃があったから今がある」というのは、映画のPRの場でも繰り返し言われていた。

輝かしいあの頃があるわけでもなく、戻りたいあの頃があるわけでもないけど、あの頃の解像度が低すぎて思い出すこともできないのは悲しい。

「詰め込み型の受験勉強の弊害で記憶力が悪くなったし、もうこれ以上覚えられない、新しい知識をひとつ入れると古い記憶がひとつ消える、それはもう仕方ないことだ」と自分を慰めていたけど、「記憶力が悪いんですよ」と言いはじめて20年以上経つ。

好きな映画や好きな小説はたくさんあるけど、「好きだ」という気持ちがあるだけでストーリーや内容はまったく覚えていない。好きな映画や小説を人にオススメするような言葉をほとんど持たない。

記憶が定着しなかったもうひとつの理由は、「誰かに何度も話して共有しなかったから」ではないか、ということ。「自分のものにする」という作業をしてこなかったのだろう。「好きなものを、どう好きかちゃんと伝えたい」という気持ちはある。仕事でもプライベートでも、咄嗟に好きなものの話ができたほうがよい場面もたくさんあった。スラスラと昔観た映画のストーリーを話せる人をすごいな、と思っていた。「また同じ話かよ」とも思っていたが。

自分にとって、記憶力がないことへのひとつの対処法が「今を生きる」だったのかもしれない。今起きていることなら、さすがに覚えている。現場で体感していることは自分のものだ。

今はスマホがあるから、思い出す手助けをしてくれるし、記憶してないことが致命的になる場面は減ったかもしれないけど、「自分にインプットしたものを人に話す」というのも「今を生きる」ということなんだろう。

「あの頃。」をもう一度観た

試写で観た「あの頃。」をもう一度観た。もちろん覚えている場面もたくさんあるけど、大部分は忘れていて、いつものことながら自分の記憶力に呆れる。

初見のような感じで驚いてみせるが、仲野太賀さんという役者、本当にすごい役者だなと思った。プライドが高く、すぐに「失礼だろ」と人を責める人が身近にいて、その人を思い出した。コズミンは良いところがほとんどなく、ダサくて情けなくて、どこまでも嫌な役を見事に演じていた。

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役者に詳しくなく、はじめて観たときは松坂桃李、コカドケンタロウ、西田尚美の3人しか知らなかった。ほかの役者は見事に冴えないから実際も冴えない感じなのかなと思っていたら、舞台挨拶とかを観て、あの情けない役をやった人と同一人物とわかるまでに時間がかかった。それくらい実物は役柄と違った(かっこよかった)。

「愛がなんだ」に出ていて好きだなと思った役柄の人が、実は「あの頃。」にも出ていたことも後になって知り、その別人ぷり(演技力)に驚いた。若葉竜也さんという役者だった。

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「誰かに話す」という行為をしなくても「文章として残す」ということで記憶が定着するだろうと思い、これを書きました。記憶力が悪くても「今がいい」と言えるように。


あ、忘れないうちに書いておくと、映画館を出たあと、自然と「恋ING」のフレーズを口ずさんでいた。ミドルテンポが歩きながら歌うのにちょうどよい。好きな人も出来なくて、って部分。そこしか知らないから、そこをリピートしながら歩いた。


「あの頃」と「今」という話はこれからも「進行形」で考えて、更新されたらまたどこかに書きます。

圓尾公佑(劔樹人さんの担当編集)


■原作本


「僕らの輝き」には「そして、恋愛研究会。は」という描き下ろしの後日談も入ってます。


映画「あの頃。」






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