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【漫画紹介】夢と疑問と探求心 panpanya作品

今回は、「panpanya」という方の漫画を紹介する。
現在は白泉社の『楽園 Le Paradis』という雑誌で、基本1話完結の漫画を連載中。単行本は既刊8冊。

それとは別に、「1月と7月」という出版社から初期作品などが収録された単行本が1冊出版されている。

『楽園』という雑誌は「恋愛系コミック最先端」というキャッチコピーで恋愛漫画や変な漫画を連載している。
panpanya先生の漫画は“恋”ではなく“変”の方だ。

今回はそんな変な漫画の魅力をお伝えできるよう、言葉を尽くす所存である。

夢の中のような雰囲気

panpanya先生の漫画は、基本的に1話完結である。
雰囲気は日常系ながらも、どこか非日常的。

  • “海開き”があるなら“海閉じ”もあるのでは?

  • 夏祭りシーズンが終わったら、金魚すくいの屋台はどこに行く?

  • 日本では聞き馴染みのない、“グヤバノ”ってどんな果物?

  • ガードレールってどこでどうやって作ってる?

  • 町中にあるロープウェイは、どこから来てどこへ行くのか……

  • 町中の超長い流しそうめん。どこから来てどこへ行くのか……

  • 芋掘りをしていたら超長い芋づるが。どこまで続いているのか……

こうしたちょっとした“気付き”や“疑問”を膨らませ、話を展開している。
それらの“?”に必ずしも答えが用意されているわけではなく、謎のまま終わる回も多い。

例えるなら、眠っているときに見る夢の中のような雰囲気だ。
現実ではありえないようなことでも、夢の中ではそれが当然のこととして受け入れてしまう。
そんな感覚が得られるのが、panpanya作品の魅力の1つである。

道行く人はみなフランスパンをかじっている
フランスだから当たり前か

引用:panpanya『足摺り水族館』,1月と7月,174p

一九六〇年代にトランジスターやICを搭載した電卓が登場する以前にイルカの頭脳を演算処理装置として利用していた時代があったのだ。

引用:panpanya『蟹に誘われて』,白泉社,206p

あったのだ(断定)。
イルカが賢いという事実から発想を発展させ、咀嚼して漫画に落とし込んでいる。

また、作品の合間に時折作者の日記(文章)が入ることがあり、そこからもpanpanya先生の感受性や思想などを窺い知ることができる。
その日記を読むにpapanya先生は何か疑問を感じたとき、考えたり調べたりして答えを模索するタイプのようだ。
その“疑問”と“模索”が漫画にも反映されているのだろう。

緻密ながらも暖かみのある画風

緻密に描き込まれた背景と、それとは対照的にデフォルメされたキャラクター。
トーンはあまり使わず、白黒のコントラストがはっきりしている。
それどころかGペンも使っていないらしくボールペンや筆ペン、シャーペンを使い分けているようだ。

キャラクターは基本的に同じだが、回によって設定が異なる。
例えば主人公も見た目は毎回同じではあるが、回によって学生だったり漁師っだったり……エッセイ的な話では作者自身(?)として登場することもある。

これがリアル頭身の写実的な登場人物だったなら、同じ話でも受ける印象はまったく違うものになっていただろう。
先程述べた通り、この漫画は“疑問とその模索”が主題となっている。
主人公は好奇心旺盛で、町中で非常に長い流しそうめんを見かけたときは「これはどこからどこへ行くのだろう?」と上流と下流に向かう。
子どもが描いたようなタッチのキャラだからこそ、こうした行動を違和感なくさせられる。

超長い流しそうめんの回では、結局上流も下流も正体はよく分からないまま終わる。
この漫画では答えではなくその過程に重きを置いている。
リアルな成人男性のキャラがこの漫画の主人公であったなら、その根幹部分がブレてしまうだろう。
主人公はその過程を楽しんでおり、精神性に子どものような好奇心が感じられる。

デフォルメされたキャラに対して、背景はしばしば緻密に描かれる。
こう聞くと「ミスマッチなのではないか?」と思う方もいるかもしれないが、そんなことはない。

漫画では登場人物の行動や会話などが主体になることが多い。
そういった場面ではこの漫画でも背景が描かれないこともある。
しかし街中で超長い流しそうめんがあったり、おかしな標識があったりとこの漫画は普通の漫画よりも背景に目を向ける機会が多々ある。

そうして目を向けたときに、緻密に描き込まれていることによって読者も主人公と探索をしているような気持ちにさせられる。
この漫画は背景がただあるだけではなく、あるべくしてあるとも言える。

そんな背景とデフォルメされたキャラが合わさることで対比が生まれ、そのコマの主体がどちらなのかが分かりやすい。
背景はボールペンで、キャラはシャーペンでといったように画材が分けられていることも多く、対比させつつも決して埋もれていない。

背景とキャラのお互いが邪魔せずに、引き立て合っている。
どちらかに偏っていないからこそ独特かつノスタルジックな雰囲気が構成されているのだろう。

お洒落でこだわりのある装丁

panpanya先生の単行本は装丁も非常にこだわったものになっている。
まず1月と7月から出版されている『足摺り水族館』はビニールカバーがかかっており、表紙は段ボールに用いられている厚紙。そして中の紙は厚めの藁半紙のようなものが使われている。
そして天アンカット(本の上の部分が少し凸凹になっている)!!
洋書みたいでオッシャレ〜!

白泉社から刊行されている8冊の単行本も、非常に手が込んでいる。
まず、1冊1冊カバーの紙の質感が違う。
トゥルッ、シャラッ、サラッ、ツルッてな具合に(?)。
そしてカバーを外すと、タイルや磨りガラス、石のようになっており触った感触もそれっぽくなっている。

左から『枕魚』『二匹目の金魚』『おむすびの転がる町』『魚社会』

タイルはタイルっぽく、磨りガラスは磨りガラスっぽく……。
読むだけでなく触って楽しめる。
インテリアに使えそうなくらいお洒落だ。
こうした装丁へのこだわりを是非手に取って感じてほしい。

漫画の内容だけでなく書籍そのものが1つの作品としてかなりレベルの高い出来になっている。
そのため、電子書籍ではなく紙の本の購入を強く勧める。

1話完結でふとした時に読みやすく、独特な雰囲気を味わうためにまた読み返したくなる。
是非手元に置いて、経年によって変わっていく紙の風合いと共にこの作品たちを楽しんでほしい。


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