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【信州松本の説話を語りたい】4.松谷みよ子と泉小太郎

「泉小太郎伝説」について、実のところそのルーツを軽めの文体で掘り下げていく事をメインに書き始めたつもりが中々本題に入れなくなってる。

まぁ、いっか。

さて、松谷みよ子氏著「民話の世界」という本が気になり読んでみた。

「龍の子太郎」の創作の過程で松谷みよ子氏が信州でどんな冒険をどんな民話に触れてきたのか気になったのが、この本を手に取ってみた一番の理由。

結果、大正解。
特に序盤は長野県が舞台なのでスッと入り込めた。

少しばかり本書の内容を紹介。

生まれ育ちは東京。
意外にも幼少期には民話に触れる機会も少なく関心も薄く、むしろ避けてきたくらいだという松谷みよ子氏。

幼少期、ご親戚の方に聴かされ覚えている民話が「しっぺい太郎」(駒ヶ根市の光前寺に伝わる民話)であったり、戦時中の疎開先が長野県中野市と少なからず長野との縁があるのだが、決定的なのが、坪田譲治氏(児童文学者)との出会いによる童話作家デビューと、みよ子氏を民話の世界に引きずり込み、一時人生を共にする事になる瀬川拓男氏。

民話研究家でもあった瀬川氏は後に東京にて、人形劇団太郎座を立ち上げ「竜の子太郎」を上演するのだが、戦後間もない頃には上田市に住み、子供達に紙芝居や人形劇を見せて回っていたとか。

そんな経緯がありつつ、本書では冒頭から長野の各地での民話採訪を通して、民話への向き合い方が次第に変化していく過程が記されている。
(この辺りの事はこちらのインタビュー記事にも詳しく記されている。)

その過程で影響を受けた民話が紹介されるので、あたかも読者も一緒に民話採訪しているような、そんな気分で信州の民話の魅力にも接する事ができる。

著書の中で話題にされている信州の民話を列挙すると概ね以下の通り。

・興禅寺の狐(木曽福島)
・化狐 玄蕃允(げんばのじょう)(塩尻市)
・猫塚の孫左衛門(松本市)(上記、玄蕃允の家来の話)
・琵琶池と琵琶法師(山ノ内町)
・黒姫伝説(中野市)
・小泉小太郎(上田市)
・泉小太郎(松本市、安曇野市、大町市)
・鯨の夫婦(佐久市)
・塩田の海(上田市)
・唐猫と大鼠(上田市、坂城町)
・つつじの娘(上田市)
・犀川久米路橋の人柱(長野市)

これらの他にも秋田、和歌山など多くの民話を挙げながら作家として民話研究家として個人として様々な立ち位置からの考察、採訪の際の体験談、自身の想いなどを交え書き進められている。

例えば松本では地元の御老人から、塩尻の桔梗ヶ原を中心に伝わる狐の玄蕃之丞(げんばのじょう)の民話を聴き、その世界に魅せられた、といった趣旨の事が記されている。
(玄蕃之丞関連の話は個人的にいずれ深く追ってみたい話)

また泉小太郎に関しては、上田市塩田で「小泉小太郎」伝説に触れたのが松谷みよ子氏と小太郎のファーストコンタクトであり、その後松本で「泉小太郎」伝説を知り、その他の諸々の地域で語られる内容の違う小太郎伝説は元々一つの物語であったのではないか?という考えに至り「龍の子太郎」の創作に繋がった、といった趣旨の事が記されている。泉小太郎伝説そのもの他にも千曲川、犀川流域での過去幾度となくあった氾濫、水難や幾つかの湖伝説について触れられており興味深い。

また、採訪した民話は「信濃の民話」として出版されており、このような活動が無ければ埋もれてしまった民話もあったのでは?と思わずにいられない。

ところで僕は恥ずかしながら松谷みよ子氏を知ったのは泉小太郎について調べてから。
無知で恥ずかしい。

とはいえこれまで接点がなかったかと思えばそうでもなく、松谷みよ子氏の絵本には馴染みがあって例えば「いないいないばあ」は子供の読み聞かせで使っていたし、義母によれば家内にも読み聞かせてたそうで、親子三代お世話になってた。(作者を気にしてなかった)

とにかく日本の童話作家では超がつくほど著名な方だったわけで、そんな方に民話の再話を決意させるキッカケが長野の民話だったという話は別に自分が何したわけでもないのになんだか誇らしい気分である。
長野と松谷みよ子氏の縁は深いようで、信濃町にある「黒姫童話館」には「松谷みよ子の世界」という常設展示室もあるそうなのでいずれ訪れてみたい場所。

また、松谷みよ子氏は2015年2月28日に他界されている。
僕が「泉小太郎伝説」を知り、興味を持ち始めたのもちょうどその頃で、なんだか妙な気分であったりする。

さて、この本でも触れられているが泉小太郎伝説は一つではない。
この事が自分にとっては頭の片隅で引っかかっていたことの一つであった。
民話では近隣地域で似たようなお話が少しづつ話の内容を変えて点在するような事はよくあるらしいのだが、泉小太郎を知ってまだ間もない頃は、松本から安曇野あたりの伝説と捉えていた民話だった。

3年前の当時、小泉小太郎のお話が上田にもあるんだよ、教えてくれた知り合いの方もいたが、当時はそれ以上は追求もせず、よく似た名前の主人公で似たような話が松本と上田であるんだなぁ、とボンヤリ勘違いしつつ、別の伝説に心奪われるのだが、そこでまた「泉小太郎」と出会う事になるとは、当時は知る由もなかった。

続く

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