見出し画像

エビデンスのある療育ープロンプト準備編②

こちらの記事HPの方でプロンプト設計編という形でリライトしました。よろしければそちらも合わせてご参照ください。


はじめに

本記事は前回のプロンプト準備編①の続きです。まだ読まれていない方はそちらを先に読まれることをお勧めいたします。
さて今回はプロンプト準備編②ということで、前回の基礎知識からプランニングの方法に関して紹介します。

準備1ー対象行動の特定とタスクの分類

プロンプトを使用する対象になる行動やスキルを、こちらの記事に書いてあるような方法で定義します。 定義した後で、スキルを使用するタスクが以下の2種類のうちいずれに該当するか確認します。

個別タスク
短い時間に一つの反応を返すタスク


・ものを指差す
・質問に答える

連鎖タスク
時系列に沿っていくつかの個別タスクを含んでいる、複雑なタスク


・手洗い(洗面所に行く、水を出す、手に石鹸をつける、こする、洗い流す、水を止める、手を拭く)
・着替え
・料理
・教室移動

連鎖タスクの場合には対象行動やスキルをしっかり特定するために、以下のような踏み込んだ分析が必要です。

・児童の行動を調査した結果やカリキュラムから、連鎖タスクに含まれるそれぞれの個別タスクを時系列に沿った順番で書き出す。
・連鎖タスクが完了する時点までの全てのタスクに関して書き出す。
・連鎖タスクを行っているのを観察しながら、ステップを書き出す。
・連鎖タスクに含まれるそれぞれの個別タスクの終了条件を書き出す。(手洗いの1つのステップである「水を出す」ステップの終了条件は蛇口を捻ることではなく、蛇口をひねって水が出ること等)

踏み込んだ分析の後で確認する項目
・ステップの数と時系列
・ステップごとに分解して教えることができるか
・一度に全てのステップを教えることができるか

準備2ーアプローチを選択する

前回の準備編①で紹介したプロンプトアプローチの中からいずれのアプローチを用いるか選択します。

画像1

使いどきの補足
最小ー最大プロンプト
・児童が対象行動やスキルを使用することができるが頻度が低いとき
・児童が学習した対象行動やスキルが、頻度や時間、クオリティの面で後退している時
段階的ガイダンス
・対象行動やスキルが既存のルーティンや活動に含まれている
・瞬間、瞬間でプロンプトをいつ使用するかまた使用しないかを判断しなければならないような場合
同時プロンプト
・新しく学習を始める時

準備3ー刺激を特定する

どのアプローチを選択しても、対象となる行動やスキルを使用するきっかけとなる刺激を特定する必要があります。というのは、いずれプロンプトを使用せずとも対象行動やスキルを使用できることを目標としているためです。きっかけとなる刺激は次の3つに分類されます。

自然発生する刺激

喉が乾く→飲み物を要求するきっかけとなる刺激
気温が上がり体温が上昇する→上着を脱ぐきっかけとなる刺激

ある出来事が終了するという刺激


問題文を読み終える→問題に回答するきっかけとなる刺激
パズルが完成する→次の活動に移行するきっかけとなる刺激

外的刺激

チャイム→次のクラスに移動するきっかけとなる刺激
先生が質問する→解答するきっかけとなる刺激

準備4ー合図や手引きを決める

刺激を特定した後で、対象行動やスキルの使用を促す合図やサインを決定します。重要なのはその合図やサインが、どんな刺激が起きたときに、どんな行動をすればいいのか児童が理解する上で役立つものである必要があると言うことです。そのため合図やサインは簡潔でわかりやすく特定しやすいもので、また児童の持つスキルや興味関心にマッチしたものである必要があります。実際に利用できるものとしては下記のようなものがあります。

ものや環境の利用
児童が課題に取り組む前に、すでに必要なものや状況をセッティングしておく。

お昼ご飯の時間の前に、あらかじめテーブルをご飯の配置にしたりランチボックスを置いておく。

手順を指示する
音声または視覚でもって、どのようにタスクを進めればいいのか教える。

コートを脱いで、ハンガーにかけてねと声かけをする
手洗いのステップをイラストで示す

自然発生するイベントの利用
日常生活の中で自然に発生する出来事を活用する。

バスが到着する
チャイムがなる

最小ー最大プロンプトのアプローチを使用する際にはどのタイミングで合図やサインを出すのかあらかじめ決めておく必要があります。タイミングは以下の2パターンです。

一番最初のプロンプトレベルの時のみ使用
合図やサインが繰り返し提示されることはなく一回のみ使用する。

児童が外から帰ってきたときに、コートを脱いでね、と声を掛けるがそれ以上指示を繰り返すことはない

すべてのプロンプトレベルにおいて使用
どのプロンプトレベルにおいてもつど合図やサインを使用する。

児童が外から帰ってきたときにコートを脱いでねと言う。
反応がない場合にはコートを指差しながら、コートを脱いでねと言う。
それでも反応がない場合には児童の手を掴んでコートに触れさせながら、コートを脱いでねと言う。

準備5ー強化子を選択する

児童の学習予定の行動やスキルの難易度と本人がどのくらいその強化子を好んでいるか勘案し、適切な強化子を選択します。この時強化子は児童が行なっている行動によって自然に得られるようなものであればあるほど望ましいです。強化子の見つけ方や強化の仕方に関しては、こちらの記事を参考にしてみてください。

準備6ー最小ー最大プロンプトを使用する場合のステップ

プロンプトレベルの設定
最小ー最大プロンプトのアプローチを採用する場合には、最低でも3つのレベルのプロンプトが必要になります。
どれだけレベルを増やしても最小のレベルは、必ず自立してできる(プロンプトなし)と定義し、また最大は必ず児童が対象とする行動や、スキルを使用できるようなプロンプトと定義する必要があります。最小と最大の間は好きな個数設定することができますが大抵の場合5個以上増えることはありません。プロンプトのレベル数を決めるときに考慮すべき事項としては以下のようなことが挙げられます。

タスクの性質
対象となるタスクが簡単な場合にはより少ないレベル数で、逆に対象となるタスクが難しい場合にはより多いレベル数と、必要なレベル数と難易度は比例しています。

児童の性格
レベル数が多い場合には、児童がなるほどそういうことか!と理解するまでに多くの時間がかかってしまう場合があります。このような場合には後になって提供するレベルの高いプロンプト(介入度の強い)であってもあまり注意を向けてくれなかったり、また問題行動が発生してしまうことなどがあります。
そのためずっとタスクに取り組み続けることが苦手な場合には多くのレベル数を使用するのは適切ではないと言えます。一方でタスクが完了するまでにたくさんの手助けが必要な児童に関しては複数のレベルがある方が適切だと言えます。

時間的制約
レベル数が多い場合にはより長く、レベル数が少ない場合にはより短くタスクを終えるまでの時間が変動します。そのため限られたセッションの中に収める形で提供するには、どの程度の時間をかけても良いのか考えることが必要です。

使用するプロンプトの種類を決める
それぞれのプロンプトレベルにおいてどのような種類のプロンプトを用いるかまた組み合わせて使うのかを決める必要があります。前回の準備編でもあったようにプロンプトの種類は、ジェスター、音声、視覚、モデル、身体プロンプトの5種類です。これらの活用方法を決めるときには、児童が今あるスキルや性格に沿って決めるとより効果的です。例えば、模倣は苦手だけれど音声指示の場合にはきちんと理解することができる児童の場合には、使用するプロンプトはモデルではなく、音声プロンプトの方が適切だ、と考えることができます。

レベル順が適切か確認する
最小レベルから最大レベルにちゃんと強度が上がっていくように使用するプロンプトのレベル順を決めます。この順番を決めるときにより考えやすくするには、以下のような観点で考えてみることが有効です。

・児童が新しいスキルを獲得するときに、これまでどのような種類のプロンプトをしようしてきたか?
・似たような種類のスキルをこれまでに学習したことがあるか、それとも全く別のスキルを学習してきたか?
・様々なスキルを学習してきたときに有効だったプロンプトの種類は何か?
・これまでで一番よく使われたプロンプトの種類は何か?
・他の児童が今回対象となっている行動を学習するときに使用されたプロンプトのレベルはどのような形になっていたか?
・それぞれのプロンプトが個別に用いられたときに、児童は正しい反応をするか?

レベル順の例

画像2

反応時間を決める
プロンプトレベルを上げるかどうか判断するには児童が正しく反応するかどうか確認しなければなりません。が適切に行動できた場合であってもそれが10分後、20分後では実際に児童がそのスキルを使用する時に困った状況になってしまいます。そのため行動の適切さに加えて適切な反応時間を決める必要があります。多くの場合刺激の提示から3〜5秒の反応時間があれば十分でしょう。この時間内に行動が起きない、スキルを使用しないのであれば次のプロンプトレベルに移行します。また反応までの時間と同様に、終了までの時間も考慮することが必要な場合があります(手洗いなど)。このような場合には、どの程度で他の児童は終えることができるのかなどを参考に、妥当な完了時間を決めておくことが大切です。

学習機会として活用するシチュエーションの特定
対象とする行動やスキルによっては1日の中で何回も学習することができるようなケースがあります(挨拶する等)。そのため、事前に児童の日常生活の中でどんな出来事やシチュエーションが学びの機会として活用できるのかあらかじめ特定しておくとよりたくさんの学習機会と効果が見込めます。
またあらかじめシチュエーションを特定しておくことで、どのタイミングで誰がプロンプトを実施することができるのかも明確になるためより実行しやすくなります。

準備7ー段階的ガイダンスを使用する場合のステップ

コントロールプロンプトを特定する
段階的ガイダンスを使用する際に用いられるプロンプトの多くは身体プロンプトになります。そのためあらかじめ、児童が必ず行動を達成できるプロンプト(コントロールプロンプト)を定義しておくことが必要です。また身体プロンプトを提供する時には、2点注意することがあります。1点はより自然に学習することができるように身体プロンプトを提供する時には児童の後ろに立って行うと効果的であるということと、もう一点は身体プロンプトは強制的に何かをさせたり、傷つけたりしないように細心の注意を払う必要があるということです。児童によっては身体プロンプトに抵抗する場合もありますのであらかじめ抵抗が生じた時にどのように対処するか決めておくとリスクヘッジができます。主な対処法は以下のようなものです。

主な対処法の例
・行動を強制させるのではなく、児童の手をぎゅっと握る。
・抵抗が収まるタイミングを見計らって、プロンプトを継続する。
・チームメンバー間で事前に身体プロンプトの性質とその目的を明確にして、強制的に動かしたり、傷つけてしまわないように対処の仕方を共通認識化する。

反応時間を決める
これは、先ほどの最小ー最大アプローチと同じで、対象刺激や、合図、タスクの手順等のきっかけが与えられた後に、児童が自分で行動するまでの時間をあらかじめ決めます。決め方も、同じように児童がどの程度の時間をかければ対象行動を開始することができるのか、同じタスクの時に他の児童はどの程度時間がかかるか、タスク完了までどの程度の時間が必要か、と先ほどのアプローチと変わりません。

フェードアウトの設計
児童が対象行動やスキルを使用できるようになってきたら、今度はその際に使用していたプロンプトを弱めていく必要があります。段階的ガイダンスを用いる場合には、連鎖スキルの中でどう弱めていくのかという判断を複合的に判断する必要がありますが、あらかじめどのような戦略で弱めていくか計画立てておくことが重要です。主なアプローチは下記の3種類になります。

プロンプトの強度を下げる
提供するプロンプトの総量を減少させるアプローチです。例えば全体身体プロンプトを使用していたところから部分的身体プロンプトに変更することがこれにあたります。

プロンプトの種類を変更する
使用するプロンプトの種類をより介入度の低いものに変更するアプローチです。例えば身体プロンプトを使用していたところから音声プロンプトに変更することなどがこれにあたります。

プロンプトを取り除く
児童が対象行動やスキルを使用し始めたその瞬間にすぐに使用していたプロンプトを取り除きます。

学習機会の特定
段階的ガイダンスは連鎖スキルに対して使用されるアプローチです。そのため1日の中で自然に学習できる機会があるかまず探します。もしなければ、対象の行動やスキルを使用できる連鎖タスクを設定します。

準備8ー同時プロンプトを使用する場合のステップ

コントロールプロンプトの特定
このアプローチの場合も同様に、コントロールプロンプトを特定します。が少し違うのはコントロールプロンプトの中で一番介入度が低いものを選択する必要があるということです。例えば、部分身体プロンプトを使用した場合の児童のタスク成功確率が95%、全体身体プロンプトの場合にも95%出会った場合に、コントロールプロンプトとして使用するのは前者のより介入度の低い部分身体プロンプトになります。

反応時間を決める
これも同様に決める必要がありますが、他の二つと違うのはこのアプローチが、2つのセッションを持っているということです。そのため2つのセッションにおいて反応時間を考える必要があります。

導入セッションの時

画像3

導入セッションの時は②の刺激の提示の後に児童が自分で反応する時間は与えません。4番目は全体身体プロンプトを使用する場合には、それで反応が完結するためいりません。児童が対象行動やスキルを使用できた場合には強化子を提供し、使用できなかった場合には反応しない、もしくは行動を正して次の試行に移ります。

確認セッションの時

画像4

確認セッションの時は、③で児童が反応するまでの時間をあらかじめ決めておく必要があります。大抵3〜5秒あれば十分です。
導入セッションや確認セッションで反応時間を決めるときには、他のアプローチと同様のことを考慮し決めます。

学習機会を特定する
これもまた他のアプローチと同様に日常生活の中や療育中で活用できる、学習機会を特定します。少し違うのはこのアプローチの場合、導入と確認2種類のセッションが必要になるためそれぞれのセッションを十分な数確保する必要があります。導入セッションに関しては少なくとも5回の試行が必要です。連鎖スキルの場合には繋がっている全てのタスクを合算して1回と数えます。

まとめ

非常に長くなってしまいましたが、これにてプロンプト準備編は完了です。選択するプロンプトアプローチによっては、少しやることが変わってきますが、ある刺激がきっかけとなったときに起こる行動を、プロンプトを補助として児童に理解し習得してもらう、という点は共通しています。どんな時にどんな行動をすればいいか伝わってないかもしれないという場合にはぜひプロンプトの使用を検討してみてください。

それでは次回プロンプト実践編でお会いしましょう

リファレンス
https://afirm.fpg.unc.edu/node/390

サポートしていただいたお金は、「試す事」に充てさせていただきます。