「誰かにとっての居場所になること」
やっとこさ札幌を離れる。まだ知り合って間もなかった僕を迎えてくださったサムズバイクの奈美さん、そしてサムズバイクのスタッフとファミリーのみなさんには感謝しかない。たくさんの出会いと思い出、そしてまたひとつ「帰る」場所が増えたことに感謝して、僕は札幌を離れた。
あらためてサムズバイクは不思議な場所だった。セレクトしているバイクにパーツのセンス、メカニックの技術がいいことは言うまでもないけれど、それだけでないものがここにはあったのだ。それはありきたりだけれど「居場所」と言える場所だった。
「なにをありきたりな」と思われるかもしれない。
けど確かにそこは「居場所」だったのだ。
お店に来る人たちが必ずも「イケてる」人たちばかりじゃない。どちらかというと地味だったり、興味が偏っていたり、お話するのが上手じゃなかったりする。たぶんこのお店じゃない場所で会ったら、あまり印象に残らない人なのかもしれない。けれどみんなこの場所に集う。何か買っても、買わなかっても。
心に少しキズを抱えているであろう、また繊細で大変だろう人たちも来た。短くはない時間をこの場所で過ごし、何かを充電しているように少しだけ表情明るく帰っていく姿を何度も見た。
間違いなくここは居場所なのだ。
職場に、身の回りに少しだけ居心地の悪さを抱えているような人たちの。
もちろん自転車を愛してバリバリイケてる人たちにとっても。
はじめて来た人や、僕のようなまだ入りたての人たちにとっても。
ここにはどこか心をすんなり預けられるような空気がある。低い人は持ち上がり、高い人はちょっとだけそれを下げて、みんながフラットのようになる不思議な空気感が。それが僕にはとても居心地がよかった。
いつ、どんなタイミングでも。ここには「おかえり」と自分をむかえてくれる笑顔があり、なんとなくよそ行きの自分から一枚上着を脱いでほんとの自分に近いところで入っていける空気がある。それがこの店をつくり、この店に集まる人たちを癒やしているのだろう。
経営ということ。
それはお金を儲けて運営していくということだ。
サムズバイクだってそこから例外的に外れているはずもない。
きっとここを続けていくうえでの悩みや見えない努力もあるだろう。
けれど、この場所の、ここにいる奈美さんの「受け入れる」というスタートラインは僕には真似できないほど懐の広いものだった。すげーな。というそれを言葉で説明することを放棄しているような、けどそれでしかあらわせないすごさだった(また言ってる)。
旅も受け入れることがスタートだ。
けどお店も受け入れることがスタートラインかもしれない。
価値というものは、目に見えるものかもしれない。
けれど誰かの心に残る、支えになる価値だってあるはずだ。
その両方がないと店を続けていくということは困難だろう。
続けていくことは、変わらないことであり、変わることなのだろう。
店なんてやったこともない僕の考えをうんうん聞いてくれた奈美さんは、きっと変わりながら、変わらずにこれからもサムズバイクを続けていくに違いない。
お店もいいもんだ。誰かの居場所になるってすごいものだ。
http://www.samsbike.jp/
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