見出し画像

環境問題を解決する思考法〜システム思考とワールドシフト

文:谷崎テトラ(アースデイ ジャパン ネットワーク共同代表、京都芸術大学客員教授)

◯「環境問題を解決させる「思考法」とは?

僕は環境問題に関わるようになって、その解決方法をどう導くのか、その「思考方法」について興味を持つようになりました。

地球上での人間の活動が発達し、社会が進化し、経済成長を続けようとしても、地球の大きさ、容量には限界があります。この有限の世界で、この先もずっと経済成長を続けたり、何かが無限に増え続けることはできません。この単純な事実にうすうす気づきながらも、私たちの多くは「もっと、もっと」という姿勢を変えられずに、さまざまな地球環境問題を引き起こしているわけです。
いったいどのような「思考方法」があるのでしょうか?

◯「様々な課題を抱える環境問題

環境問題を解決するための一つの思考法として、「システム思考」があります。「システム思考」は、物事や状況をその表面だけで捉えるのではなく、見えないものも含めて、さまざまな部分がからみあった全体をシステムとして見るアプローチを指します。
 気候変動、生物多様性、プラスチック、砂漠化、海の問題、森林の問題・・・。地球環境の問題は様々な領域、あるいはエリアで深刻な危機を抱え、一刻も早い対応を迫られています。
 しかし表面的な危機に対応したとしても、抜本的な解決に至らないケースが多いです。それぞれの課題の原因は複雑に絡み合い、影響しあい、表面的な危機に対する対処療法だけではまた別の問題を引き起こしてしまうんですね。
 アインシュタインは課題解決について、このような言葉を残しています。
「いかなる問題も、それが発生したのと同じ意識レベルでは解決することは出来ない」

 問題を捉える思考法、考え方そのものを変えていく必要があるわけです。考え方そのものを変えていくことを「メタ思考」と言いますが、その基本的な思考法に「システム思考」というものがあります。
 今回は「環境問題や社会問題など、様々な視点や要因が複雑に絡まる分野で注目されている「システム思考」と「ワールドシフト 」を紹介していきましょう。

◯「生命とは何か」という問いから生まれた「システム思考」

 システム思考とは、物事を部分ではなく、システム全体として捉える思考のことです。表面だけでなく、その背景、繋がりや全体を通して捉える、という発想法です。

 そもそもシステム(system) とは、複雑な要素から構成されながら一つの統一体を作っている組織のことです。政治・経済・社会などの)機構、制度、(支配)体制。また学問・思想などの体系、通信・輸送などの組織網もシステムです。山・川などの系統、身体の器官なども「システム」という言葉で言い表されます。 
 もともと「システム思考」は、1940年代に生物学者のルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィによって提唱された一般システム理論から始まりました。
 近代科学の中で「生命とは何か」を定義しようとしたときに「機械論では捉えきれない」ことがわかり、自然の中での「全体性」=「システム」として捉える視点としてはじまりました。
 現象のマクロな挙動を直接的にモデル化して扱う科学理論として、始まったものです。
 これが「地球環境」や「社会システム」さらには「コンピュータエンジニアリング」や「哲学」の領域でも応用可能であることがわかり、学術分野の一つとして確率していきました。

◯環境問題をシステムで捉えると人類文明の問題になる

 哲学者アーヴィン・ラズロは、1970年代に「システム哲学」の視点を提示しました。システム哲学は、システムの全体性や相互作用、組織性などを理論的に考察する学問です。全体論的な視点を持ち、デカルトの還元主義と対照的です。つまり、個々の部分を超えて全体を理解しようとする考え方です。
 そして同時期に地球環境や様々な社会課題が浮上してきました。それらを個別の問題ではなく「システム全体」として捉える生命文明論へと発展させていきます。ラズロ博士は「生態系」「経済」「社会」の危機はすべてつながっていることを指摘し、「人類文明の転換が必要=ワールドシフト 」を提起しました。
 システム哲学は 文明論としてのワールドシフト思想へと発展すると同時に、思考法としての「システム思考」へとつながっていきます。
 システム哲学はシステムの全体性や相互作用を理論的に考察する学問であり、システム思考はその理論を具体的な問題解決に活用する方法論と言えます。両者は互いに補完し合う関係にあります。
 「システム思考」とは、全体性をみること。複雑な問題に対して、その「プロセス」や「パターン」を「観察」し、「課題」を設定し「解決法」を導く「思考法」というように捉えることができます。

◯システム思考の「氷山モデル」

 システム思考は海の上に浮かぶ「氷山」として例えられます。
 これを「氷山モデル」と言います。
「氷山モデル」は、システム思考のフレームワークの一つで、問題を捉える際の「視点の深さ」を4段階で示すものです。これらの4段階は以下の通りです:

1. 出来事の視点:具体的に何が起きているのかを見る⁵。
2. パターンの視点:時間と共にどんなパターンで変化しているのかを見る。
3. 構造の視点:問題に関わる様々な要因をつなげて考えてみて、どんな構造が、このパターンを生んでいるのかを考える⁵。
4. メンタルモデルの視点:どんな思考の前提が、この構造を生んでいるのかを考える。

「地球課題を考える視点」においても、目の前で起きてる出来事だけでなく、見えないものも見ていく視点、考え方がとても大切です。
 実際に起きている出来事の背景にはそれを起こすパターンがあります。また社会システム、関係性、歴史などの構造があります。またそれを引き起こす 全体像や隠れている本質を見つけていくことです。ある一部分だけを理解して、解決できたとしても、根本の原因が変わらなければ、同じ問題が再発したり、別な問題を引き起こしてしまうわけです。

◯システム思考で「森林問題」を考えてみる。

 このモデルを環境問題に当てはめると、例えば、森林伐採という出来事を見たとき、それがある一部の地域で頻繁に起こる「パターン」であること、その背後には製材業の経済構造や法律、政策などの「構造」が存在し、さらにそれらは「利益を最優先する」という「メンタルモデル」に基づいていることがわかったりします。
 これにより、単に伐採を禁止するだけでなく、製材業の経済構造を変える、または「利益を最優先する」メンタルモデルを見直すなど、より根本的な解決策を見つけることが可能になります。
 このような思考で問題を捉えていくのが「システム思考」。
氷山モデルは問題の全体像を捉え、より深い理解と効果的な解決策を導くための有用なフレームワークと考えられているんですね。
 システム思考で地球環境問題を分析した『地球のなおし方』(デニス・メドウズ・ドネラ・メドウズ+枝廣淳子著、ダイヤモンド社)ではさらに詳しくこういった事例や考え方について書かれているので、ぜひ参考にしてみてください。本日はここまで。

<参考図書>

『地球のなおし方』(デニス・メドウズ・ドネラ・メドウズ+枝廣淳子著、ダイヤモンド社

<参考HP>

(1) はじめてのシステム思考 #3 氷山モデル|磯村幸太 @ファシリサーチャー
https://note.com/kota1106/n/n3892d0f79472
(2) 氷山モデル システム思考|チェンジ・エージェント
https://www.change-agent.jp/systemsthinking/approach/the_iceberg_model.html
(3) 何もない環境では問題行動はおきないか?/氷山モデルシートで考える https://bouzan-note.com/jiha/5960.html
(4) 気になる行動には理由があります(氷山モデルで考える) https://bouzan-note.com/jiha/6648.html
(5) 【氷山モデルシートについて】 - 大阪府ホームページ https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6430/00185307/4-2_kaisetsuoyobi%28hyozan%29.pdf
(6) 学習する組織入門(6) 「システム思考」
https://www.change-agent.jp/news/archives/000115.html
(7) システム思考とは|実践する手順と有効なフレームワークを解説 https://library.musubu.in/articles/29610


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?