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はじめてのシステム思考 #3 氷山モデル

VUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性が高い)時代と言われる現代、複雑な問題に対処する能力がますます求められています。そのような能力の一つであるシステム思考は、戦略,組織,政策,地域,持続可能性など様々な課題領域で、複雑な問題の解決に役立つ思考法です。
このマガジンでは、私が15年ほどシステム思考を学び実践してきたことをもとに、初学者向けにシステム思考の基本を紹介します。(周南公立大学で受け持つシステム思考の講義の一部をnoteにまとめたものです)

この連載を読んでいただきシステム思考を更に学びたいと思った方は、日本におけるシステム思考の第一人者・小田理一郎氏が経営するチェンジエージェント社のHPをのぞいてみるとよいでしょう。システム思考に関連する様々な情報発信やセミナー、研修などが紹介されています。

今回は第3回「氷山モデル」です。システム思考の中核的な概念である氷山モデルと、氷山モデルを構成する4つの視点について解説します。


「氷山モデル」とは

氷山モデルとは、システム思考で問題を捉える際の「視点の深さ」を4段階で示すものです。なぜ氷山なのかというと、「氷山の一角」という言葉がある通り、氷山の海面から上の見えている部分は実は全体のごく一部に過ぎず、海面の下にはもっと大きな氷山が隠れている。全体を理解するためには、普段見えない部分にも目を向ける必要がある、というメッセージが込められています。
視点の4段階を上から紹介します。まずは出来事の視点。つまりこの問題で具体的に何が起きているのか?ということです。私たちが普段見ているのは、基本的にこの部分だけです。
次に2つ目が、パターンの視点があります。現在だけでなく、過去から未来への時間軸を広げてみたときに、時間と共にどんなパターンで変化しているのか?ということです。例えば、毎年春になると問題が起こるとか、3年前から急に増えてきたとか。長い時間軸を俯瞰するので、大局の視点とも言えます。
さらに3つ目は、構造の視点があります。問題に関わる様々な要因をつなげて考えてみて、どんな構造が、このパターンを生んでいるのか?を考える視点です。例えば、先ほどの利益改善の事例で見た因果ループ図がこの例です。幅広く要員を俯瞰するので、全体の視点とも言えます。
最後に4つ目は、メンタルモデルの視点が存在します。メンタルモデルとは、私たちが無意識のうちにいだいている思考の前提です。どんな思考の前提が、この構造を生んでいるのか?を考えます。例えば先ほどの利益改善の事例では、社員たちが無意識のうちに「早く結果を出して問題を収束させたい」という前提も持っているから、毎回セールという表面的な解決策を選んでいました。構造を生むおおもとの前提であるため、根本の視点とも言えます。
これが氷山モデルです。ここからはパターン、構造、メンタルモデルのそれぞれの視点について詳しく見ていきましょう。

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氷山モデルの視点②パターン

まずは視点の深さのレベル2、パターンの視点です。パターンの視点では、システムの主要な要素が、時間の経過とともにどう変化しているか?に着目します。それを表すものを「時系列変化パターングラフ」と言います。
例えば、システムの主要な要素がテストの成績、つまりテストの成績がなかなか上がらないという問題が起こっている場合、こんなパターンになっているかもしれません。これを言葉で説明すると、以前は、やればやるほど成績が上がっていたのに、ある時からだんだんと成績が伸び悩んで停滞してきた、という感じでしょうか。
こちらの例では、システムの主要な要素が利益、つまりビジネスで利益が上がらないという問題が起こっている場合、こんなパターンになっているかもしれません。これを言葉で説明すると、定期的に販促セールをしており、その時は利益が上がるが、長期的には利益は下がる一方、となります。先ほどの事例をパターンで表したものですね。
いかがでしょうか?「最近テストの成績がよくない」といった目の前の出来事だけを見ていては気づかない、長い時間に伴う変化が見えてきますね。私たちが直面している問題の一つ一つの出来事は、過去から時間軸を長くとってみると、何かのパターンが存在するのではないか?そう考えることが、システム思考の第1歩です。
そしてこのパターングラフの形を見ていると、なぜここで上がっているのか?なぜここで下がっているのか?この変化にはどんな要因が影響しているんだろうか?と考え始めることができます。これが、次の構造の視点につながっていきます。

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氷山モデルの視点③構造

視点の深さのレベル3は、構造の視点です。構造の視点では、先ほどのパターンを作り出しているのはどんな要素なのか?どんな因果関係なのか?その全体像を見ていきます。その際、システムの構造を可視化するツールを「因果ループ図」と言いますが、これについては第5回以降で詳しく説明し、皆さんにもこれを書いてもらいます。
この因果ループ図は先ほど販促セールの事例で説明したものですが、見方のおさらいをします。これらの文字は変数と言って関係者が気にしている物事、変数同士をつなぐ矢印は原因と結果の関係で、色によって結果の出方が変わります。そして丸のRやBと書いてあるのはループと言って、循環する構造を表しています。
こうやって構造を可視化することで、先ほどのパターンの動きを説明できたり、また望ましい変化のパターンの生み出し方を考えることもできます。例えば、「とりあえずセールでしのぐループ」という構造が、パターングラフの上向きの力になっていますが、「本質的解決から遠のくループ」が回っていることで、長期的には利益は下がり続けています。という説明ができます。さらに、現在はうまく回っていない「ブランドをじっくり育てるループ」を回していくことができれば、現状のパターンにはない、利益が長期的に上がっていく望ましいパターンを創り出せるかもしれません。
いかがでしょうか?先ほどのパターンの視点よりもさらに深いレベルで、問題を捉えられていると思いませんか?問題を理解する視点が深いほど、そこから生まれる解決策の効果は大きくなります。

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氷山モデルの視点④メンタルモデル

視点の深さのレベル4は、メンタルモデルの視点です。メンタルモデルとは、私たちが世の中様々な物事に対して無意識のうちに持っている前提です。心の声とか、色眼鏡という言葉に近いですね。私たちの認識や思考、行動は、知らず知らずのうちにメンタルモデルから影響を受けています。
ということは、先ほどのシステムの構造にも影響を与えています。そもそもなぜこれを問題だと捉えているのか?なぜこのような行動をとってしまうのか?なぜこれとあれが因果関係でつながっていると思っているのか?そういった構造の一つ一つの前提に、メンタルモデルが隠れている場合があり、それに気づく、または変えることで、システムの構造に大きな変化を生むことができます。
非常につかみ処のない話をしていますが、例えば皆さんは「中間テスト」というものに対してどんな認識を持っているでしょうか?ある人は、「やべー、友達にノート借りなきゃ!」と思うかもしれません。また別の人は、「よし!実力を試すチャンスだ」と思うかもしれません。同じ中間テストという現実を前にして、人によって思考や行動が違ってきます。これはメンタルモデルの違いが影響しています。つまり、そもそもテストというものをどういうものとして認識しているか?。前者はテストは「避けたい物」、後者はテストは「役立つ物」と認識しているから、思考や行動に違いが出てきます。
いかがでしょう?システム思考の一番深い所には、自分たちの心のあり方があるということが非常に奥深いと思いませんか?メンタルモデルは理解することや扱うことが難しいので、今は「一番の根っこは、心のあり方なのか。」くらいに思ってもらえれば構いません。

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第3回「氷山モデル」は以上です。次回は、3つの事例を氷山モデルに当てはめながら、氷山モデルの視点の違いに慣れていきます。

嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/