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鎌倉中央食品市場の乾物屋さん

鎌倉の情報デザイン会社、アースボイスプロジェクトです。

鎌倉での日々の暮らしで見つけたこと、面白い人などなどをご紹介する「鎌倉な日常」マガジンを拵えました。

不定期で、思いついた時、出会った時に書いてみようと思っています。こちらもよろしくお願いいたします。

今日は、鎌倉中央食品市場の乾物屋さんのことをお話しします。
*よく考えたら屋号も知らずにお付き合いしていました...。
今度聞いておきます(苦笑)

鎌倉にも林業が


市場の乾物屋さんの本業は、業者さんに乾物や加工品、農産品などをおろす問屋さんです。

その乾物屋さんに、時々「掘り出し物」を探しに行きます。
けっこういい品物がお安くなっていて、主婦の財布には優しい。

乾物屋のおっちゃん(*以降「おっちゃん」に省略)は、暇で機嫌がいいと、いろいろと話しかけてきてくれます。

この前、なんでだったか、最近の家づくりの話題が出て、偶然にも乾物屋の前職は、林業家だったことを知りました。

子供の頃は木切り出すのを手伝ったり、肥料を山に運んだりしてたそう。
今は山を手放して国有地になっているそうです(等価の街場の土地と交換した)。

鎌倉にも林業があったのか。初耳でした。びっくり。


ちなみに、その時聞いた面白い話があったので紹介します。

関東大震災の時の地割れ

おっちゃんの家は、鎌倉市内の住宅地にあります。
代々鎌倉に住む古いお家柄。母屋は、関東大震災の際にも被災しなかったそうです。

その母屋が、シロアリにやられ改築しようとした所、縁の下に地割れ発見。
大工さん曰く「関東大震災の時のだね」と。
因みにやられてたのは外国産材のみ。国産のヒバは無事だったそうです。

家の修繕をするたびに、大工の仕事に触れられる。
その都度、その仕事の丁寧さや職人としての矜持を感じる、とおっちゃん。林業家の血が騒ぐのでしょうか。

欅の木に守ってもらった

おっちゃんの家には、大きな欅の木があったそうです。

欅のような広葉樹の根は平に広がっているものだそうで、
その欅の根っこも、家の地下全体に広がっていた。

「関東大震災後は、余震も酷かったので、欅にロープを結んで一家全員しがみついていた。欅にさえ繋がっていれば、大丈夫だと思った」と。

長年木に親しんできた人ならではの、木に対する信頼感や愛情を感じました。

折しも、鎌倉ではレベル4の土砂災害警報が出たばかり。
鎌倉では森林が多く、海も迫っているため、崖の下に住宅地が広がっているところもザラです。(弊社もそうです)

木や森と対話しながら、しっかり環境保全を考えていかないと取り返しのつかないことになるかもしれない、と夜中の警報を聞きながら感じたのでした。

問屋さんという仕事

おっちゃんは仕事柄、日本中の農業者さんや漁業者さん、乾物屋さんなどと知り合いです。

長いこと問屋をやってきたネットワークと、その恩恵による目鼻の効き具合で、筋の通った商売をしてこられたのだと思います。

木を見て、森を見ながら、育てた木を運び出し、流通させ、最後は家の柱になるーー。おっちゃんの根底には、川上から川下まで流れを見てきた林業家の血が流れている。

だからこそ、大極から物事を眺める目から、一つ一つの商品の良し悪しを見極める機微まで、モノの見方をその都度ずらせる強さがあるのだと感じました。

おっちゃんは言います。

「今はさ、アプリ商売(注)が流行ってるだろ?あいつらは手数料で商売してる。手を動かして現場で汗流してるやつは、アプリ作るやつの言いなりになってちゃいけない。ちゃんと自分で物事見て、判断しなきゃ。」

「ただね、アプリ商売も今が一番いい時期。今だってすでに飽和状態だけどさ。そのうち、もっと飽和状態が進んだら、コスト競争になるだろ。そうすれば、なんでもAIとかに置き換えちゃってさ、自分の首を絞めるようになる。本当に何が大事なのか、考えなきゃいけないよな。」

消えていく商売、残すべき機能

世界中の問屋さんは、今すごい勢いで消滅しているのかもしれません。
「古い商売だ」と乾物屋のおっちゃんも言います。

でも、たとえ商売として消滅する運命にあっても、生産者とお客さんの関係性をつむぐ役割や、心意気や矜持といった倫理感のようなものは、いつの時代にも必要とされている。

問屋という商売の形式が古くなったとしても、そういった目に見えない部分は、どこかで引き継がれていく必要があります。

「アプリ商売」がどんな風に変化していくのか、はたまた消滅する運命にあるのかはわかりません。しかし少なくとも、どんな商売も、「目に見えない部分」をしっかり持ち続ける限りは、たとえ形を変えても、生き延びていくような気がします。

***

最後は人。人間の活動は身体感覚を離れては成り立ちません。
また乾物屋さんで、新しい情報を仕入れてこようと思います。お買い得な食材と一緒に。


榎田智子@鎌倉

(注)おっちゃん語です。「仕組み作った人」という意味だそうです。



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