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有機性と機械性のバランスを保つことで、工業化時代から抜け出す

今回は、九州大学芸術工学研究院の古賀徹氏に「インダストリアル以後のデザインとリーダーシップ」についてお話を伺った。昨年に出版され話題の著書を呼んだ「デザインに哲学は必要か」にも執筆されている。


1)いまも残る工業会時代のデザイン思考

古賀さんは、いまも工業会時代のデザイン思考が残り続けるがゆえの弊害があるという。例えば、現存する例を挙げると下記だ。

▶︎いまも残る工業会時代のデザイン思考
・機械による大量複製を前提としたプロトタイプ制作
・目的達成のための合理主義的機能主義
・生産性向上のための徹底した効率化
・コンセプト→スケッチ→モックアップ→社会実装
・PDCAサイクルによる品質管理
・ピラミッド型の垂直的組織とライン労働
・マーケティングによる精密な市場調査、ニーズ第一主義

インダストリー時代があったからこそ進んだこともあるが、これだけでは、もはや新しいものは生み出せなくなってきている。それはどういうことなのか。


2)デザインにおいて、有機性が忘却している?

有機的|運動の原因が個物の内部にある
機械的|運動の原因が個物の外部にある

工業デザインにおいても、製品のプロトタイプを発案・構想するときに有機性の論理が働く。それを理解するために、工業化以前の時代のデザイン概念に立ち返る必要があるという。

ものごとを具体化する「構想」を二つの西洋語の系譜から、デザインや構想について考えてみる。以下から、イタリア語も交えて教えていただいた。まず、「disegno(ディゼーニョ)」とは「素描」という意味。人間が介在すると言う有機的なプロセスの重要性を表す。

design < disegno
engineer < ingegnere


3)"見る" ときのデザインをミケランジェロに学ぶ


「disegno(ディゼーニョ)は身体性化されている?

さらに考慮すべきは、彫像が高所に置かれ、下にはこれを遠くから眺めるため身を離すことができるほどの引きがなく、見る人がほとんどその足元にいなければならぬ場合、この種の像は、一頭身から二頭身余計に高く作る必要がある。つまり、「遠くに見えるものを大きく作れ。」と言っている。
リアルなものを作るのでなく、見る際に、そう見えるようにデザインする。

目による判断|giudicio dello occio

人が物を見るということは機械性の流れの一環であり、外的なものに触れて内面に取り込んでいく。

4)構想 Invention とは?

一方で、概念を形にしていく構想については、ジョルジョ・ヴァザーリはこう語っている。「ディゼーニョを訓練してきたこの手は芸術の完全さと卓越性、および創作者の知の双方をもとのしらしめるのだからである」これは創造する手は手段ではなくて、訓練されている手がむしろ形にしているということ。単なる手段ではないという訳だ。

concette → invenzione → forma
 概念  →  構想  →  形
(ヴァザーリ, 1568 )
< disegno >
機械論の流れ
目   
  外的自然  ⇄  身体  ⇄  内的自然(魂)
  形式     ⇄  手  ⇄     概念   
(有機論の流れ=構想)
構想:engineering < ingegnere, ingenium
機械的工学技術の中にある有機性

(ジャンバッティスタ・ヴィーコ 1668-1744)

ばらばらに分離しているものを速やかに、適宜に、そして上首尾に一つに融合する知性のことを我々はインジェーニョと言っている。ヴィーコ『学問の方法』
・・・自分の足元に、

人類の歴史は、全て有機論だった。それをデカルトが、機械論的に捉え直した。

5)論拠 argementum とは?

アリストテレスの三段論法
「ソクラテス(小名辞)は死ぬ(大名辞)のか?」
→その両者を媒介しうる第3の名辞=論拠を発見する。
ソクラテスは(   )である。     【小命題】
(   )はみな死ぬ。         【大命題】
したがって、ソクラテスは死ぬ。     【中命題】

正解は、人間。(中名辞=論拠)

第三項、失われた鎖(ミッシング・リング)を発見する能力⇦共通感覚
〈論拠=議論〉は「人間」の中から常に溢れ出てくる → 聞き手と共振

鋭敏な人々 argumen は、互いに遠く離れた異なった事物のあいだにそれらを結びつけているなんらかの類似関係を見つけ出す。(ヴィーコ, 前出)

人間中心主義 Humanism としてのエンジニアリング


6)二つの構想が交わる調和的なdesign

invention|ヴァザーリの身体性
全体を活かす第三項を内側から生み出し続ける身体性
engineering|ヴィーコの有機的論理学:身体を動かして、見方を変えて、思いもよらなかった解決操作を見出すイマジネーション。

デザインは、有機性と機械性のバランスによって、成り立つ。


情報元:
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第6回 古賀徹氏 2020/06/22