見出し画像

無有 6 彼の地へ

 長老たちは 村人と無理に距離を縮めようとはせず、自分たちは危険ではないことを少しずつ知ってもらおうとした。無有での暮らしは住むところも道具もないゼロからの始まりだったため、感情に支配される暇もなく皆日々に追われた。絶望の底にいても体は生きることを選択する命の不可思議さ。多くの者が生きる力を取り戻しつつあった。アトランティス人もまた大陸を沈めたレムリア人を恨んではいたが、いがみ合ってももうお互いの国はない。助け合わなければ生きていくのが難しかったため、はじめは仕方なくではあったが、お互いの出来ることを差し出しあった。
 
 アトランティス人は狩りをし、レムリア人は祈りとともに暮らした。レムリア人は大地に感謝し、太陽に感謝し、祈りを捧げる。国と、たくさんの人の命を奪ったそのものに対して祈る姿は、テトにもアトランティス人にもとても理解し難いものだった。しかし、皆の祈るその姿はとても美しく神々しくあり安泰そのものであった。テトは助け合う生活の中から少しずつ喜びを体感するようになり、起こったことを受け入れ女王様やあの時の無力だった自分を赦そうと思えるようになっていった。すると自然とアトランティス人とも打ち解けられるようになり、無有の人々との交流も始まり、皆も少しずつ悲しみの底から浮かび上がってきたように見えた。ムウの人々も自然と神に祈りを捧げていた。テトとアトランティス人は皆の姿を真似るようになり、祈ることがなぜ安泰をもたらすのかについて考え始めた。

 無有での暮らしにも慣れてきたころ、テトとヤンはまたみんなであの場所に戻れるように 自分にできることはないか長老に尋ねた。長老は少し考えて

「ここからさらに西の地へ向かおうと思う。そこにレムリアとアトランティスの叡智を隠しに行くのだが共に行くか?」
テトは迷わず返事をしたが体が小さく体力のないヤンはしばらく黙ったのち

「僕は残ってみんなが帰ってくるまでここを護ることにします。」
と長老の目を見てしっかりと言葉を伝えた。賢明な判断だった。西の地までは延々と続く山々、乾燥し乾ききった大地、灼熱の土地もあれば、昼間でも寒く凍えるような土地もあると聞いていたからだ。

「ヤン、そうしてもらえるととてもありがたい。ここを頼んだぞ。」
いつもテトのあとをついて回っていた小さなヤンが みんなが望むことはなにかを考え自分なりの答えに辿り着き決意したことに感動し テトは大きな勇気をもらった。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?