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ここらで電子漫画サイト遍歴を晒す③【追記しました】


⑪「だから私はメイクする」
 SNSでは、女が着飾ったりメイクしたりすることを、男や他者との関係において、ともすれば強要されるものであるとするものと、女自身のアイデンティティーとして大事にすれば十分であるという立場があって、両者は度々小競り合いを起こしている。
 そんな疲弊する議論に麗しい冷水をぶっかけるのがこの漫画。別にアイデンティティーの確立なんてことまで考えなくてもいいじゃない。社内では地味女子でいて、退社後に自分だけのためにメイクしたっていいし、整形ばりのしっかりメイクで男に引かれようがそれが何? みたいな。 清々しい漫画。

⑫「服を着るならこんな風に」
 ゲーマーでオタク、服音痴のお兄ちゃんに、服大好きな妹が指南する漫画。ファッションを知らない人には目からウロコ情報満載なのだろうけど、かなり基礎的な内容だと思ったし、話が進んでもお兄ちゃんに妹が講釈するという構造があまり変わらないし、服のセンスが変わってきたお兄ちゃんに恋が生まれるとか(別に恋じゃなくてもいいんだけど)、別の展開がないので少しだれてしまうのが玉に瑕だったなあ。

⑬「花とみつばち」
 「服を着るなら…」で思い出した安野モヨコのこれを再読。冴えない、勉強もパッとしない男子高校生の小松正男が、女の子にモテたい一心で美男ワールドという怪しい男性エステに通い始め、色々波乱万丈な目に遭う話。花とみつばちというと、花が女の子でみつばちは男の子だというイメージが一般的じゃないかと思うのだけど、この漫画では逆なのがすごい発想なんだよな。私たちはみつばちなの。美しい花が好きなの。もっといい蜜や花粉を求めてあちこちに行くの……。
 ここで小松くんはオカマのエステティシャンから、「なんでもいいから一品はいいものを着る! それだけでおしゃれになる!」と、5万円のブラックスキニーパンツを買わされている。上は500円のスリムTシャツにしても、下がかっこいいから全体が垢抜けて見えるのだ。服を着るならでは、これがユニクロの黒スキニージーンズになっているから、日本のデフレ基調を感じさせる。
 ちなみに、小松くんは作中でめちゃくちゃ理不尽な目に遭いまくるんだけど、このノリは今やったらアウトだと思った。当時もエステの美人姉妹の酷さに引くことがあったけれど、ナチュラルに人権侵害しまくっていて、再読だけどあまり楽しめなかったのが残念だし、そんなに時代って変わるんだなと思った。

⑭「後ハッピーマニア」
 そんなわけで安野熱が再燃して後ハッピーマニアを読んだのだけど、私は基本的にすごく売れた作品の続編(しかも、思い出した頃に書かれたやつ)を信用していなくて、その先入観のせいもあってあまり楽しめなかった。タカハシがこのタイミングで女タカハシパートⅡに浮気してシゲカヨに離婚してほしいと頼み込むなら、本編ハッピーマニアでも、シゲカヨと結婚しないで、女タカハシを選んでおけば良かったじゃんって思う。続編を描くなら、もともと破天荒なシゲカヨじゃなくてタカハシに浮気させるしかないだろうとは思うけど、それならもっとぶっとんだ人に浮気させないと二番煎じ感が否めない。また、シゲカヨ夫妻に子供がいないせいもあって、シゲカヨがもう恋愛の体力はないといいながら、45歳にしてまだ恋愛脳なのも、物語の建付けとしては分かるけどリアリティがないように思って、感情移入できにくかった。


⑮「鼻下長紳士回顧録」
 安野さんの完全新作。これは安野さんの耽美的少女趣味とマッチして最高に良かった。自分のことを愛してくれているか分からない、連絡が来ないと生死すら、存在すらあやふやな麗しい恋人は、私がそうであれと思えば存在し、彼を存在させるためには筆の力によって現実と触れ合わせなければならない。切ない。

⑯「私のことを憶えていますか」
 東村アキコの恋愛マンガ。ケータイ漫画向けに縦書き仕様で描かれたものらしいけれど、幼なじみの男の子がもしかしたら今をときめくアイドルになっているかも? という疑惑を抱き始めてから話が展開するのがおそすぎる。実際にそういうことが起こっても、一般人はアイドルとの接点を持ちようがないのだから、これくらいのスピード感なんだろうと思うけど。また、縦書き仕様の漫画は全体に展開が遅く感じられる気がする。縦書きだからそうなのか、話を引っ張ってポイントを消費させようという意図が強いのか。

⑰「4000年ぶりに帰還した大魔道士」
 流行りっぽいのも読んでおこうと思ってサイトに勧められるままに読んでいるのだけれど、無料分がかなりあるので楽しませてもらっている。これも縦書き仕様。
 4000年前に悪の親玉と対決して凍結された? 大魔道士だったが、4000年の時を経て、その凍結力が弱まってきた。(別の)大魔道士の家系ながら一番のみそっかすだと言われているフレイ・ブレイクの自殺時に、彼の体を乗っ取るという形で大魔道士は復活を果たす。
 フレイ・ブレイクの肉体にも魔道士の素養はあるので、そこから生前の魔導力を回復させ、因縁の悪の親玉と対決するために力をつけていくという筋書きなのだけれど、もともと大魔道士だったという証拠があるので急激な能力開花も納得感があるし、安心して読める。4000年後の世界でうまくやっていくには現在の 魔導的偉い人たちとの交渉もいるという描写があるのが妙にリアルで、ドキドキは少ないけど飽きさせない工夫があるなと思う。

⑱「接近不可レディー」
 これもサイトに勧められて読んでいるもの。縦書き仕様。世界を統べる神様的な存在である王様(最後の王様が亡くなって現在は空位)と、王様に仕えていた春夏秋冬の四家がいる世界。春の家イノアデンの血を引くヒリスは、イノアデン家が代々引き継ぐ異能を持つ王女なのに、異能が発現しなかった兄リカルド、連れ子のため血がつながらない妹ガブリエル、当主である父の全員から虐げられている。虐げられた後に亡くなるのだが、その度に新しいヒリスとして転生し、酷い人生を繰り返している。本作は八回目の転生からスタートしていて、これまでの転生の記憶を活かし、この輪廻から逃れる方法をヒリスは探っていくのだった。
 ヒロインがひどい目に遭う話というのは転生物としてありがちなんだろうけど、ヒリスが過去七回のバッドエンドの分岐を紹介しつつ現状を打開していくのが単純に面白い。絵も綺麗で好感が持てる。本当は韓国の原作小説があるっぽいんだけど、原作小説は日本に来てないみたいなんだよねえ。話が気になるから小説を読みたいんだけど。


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