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【戦評】 ザ完敗... 好調イヌワシ打線を完璧に封じた左腕徹底継投の栗山采配~5/16●楽天0-2日本ハム

※本稿は全文公開、最後までお楽しみいただけます

御前試合で今季ワースト2安打

年に1度、東京ドームで開催される『楽天スーパーナイター』。

今年も場内は活況だった。

始球式は楽天大好き芸人・古坂大魔王さんが務め、5回表終了時のインターバルにはカラスコJr.も乱入。
サンドウィッチマンの伊達さんなど有名人も観戦に訪れ、場内は3階席までびっしり埋まる3万8000人超の大観衆だった。

そのなか、楽天は今季5度目の零敗。

前日は球団史上最大8点差をひっくり返したドラマティックな逆転劇。
一夜明けた本戦は、お通夜のような今季ワーストタイ2安打。

これが同じ野球なのだから、やっぱり野球は面白い。

最大の敗因は、栗山監督のしたたかな采配にあった。

リーグ1位のチーム打率.263を誇る好調イヌワシ打線も、vs左投手では打率.199に下がってしまう。
栗山監督に開幕来の最大課題をきっちり分析され、楽天の弱点を突く投手起用を徹底されてしまった。

5回1安打無失点と好投した先発・加藤はサウスポー。
1イニングずつ繋いだ6回以降も、堀、公文、宮西と、持てる左腕戦力を集中させ、抑えの秋吉にバトンを渡していく。
栗山監督は『左腕必勝リレー』を採用した。

これにより、楽天打線は完全に沈黙。

ゴロ率はふだんよりも約18%多い63.6%を記録し、全22打球中しっかり捉えた打球も3本だけ。
4回銀次の中飛(杉谷好守)、7回島内の右安、8回渡辺直の投ゴ(宮西好反応)の3本のみと、思うようなバッティングができなかった。

楽天先発・辛島は中7日登板だった。

過去、辛島は東京ドーム先発試合で防御率4.76。
2015年にはレアードに満塁弾を浴びた痛い思い出もあったが、2017年の楽天スーパーナイターでは7回1失点でチームを勝利に導いた実績も持つ。

そしてなにより現状のローテ陣では美馬と並ぶ1軍実績を持つ。
そのための中7日での大役になったのだろう。

辛島は三木谷オーナーの期待にみごと応える7回1失点のハイクオリティスタート。
今シーズン楽天先発投手がHQSを記録したのは4度目になったが(辛島2、美馬1、安楽1)、前述のように打線が援護できず、辛島は今季初黒星になった。

これで2カード連続の負け越しになり、順位は4位へ後退。
チーム成績は39試合19勝19敗1分の勝率.500へ。

各種戦績は、直近10試合5勝5敗(得点47/失点60)、5月6勝8敗、日本ハム戦5勝4敗、相手先発左投手5勝3敗、完全ドーム球場2勝7敗1分、6回終了時に同点試合4勝5敗になった。

ゲーム差は1位・ソフトバンクと2.5、2位・日本ハムと1.0、3位・ロッテと0.5、5位・西武と1.0、6位・オリックスと3.0、首位と最下位の差は5.5になっている。

両軍のスタメン

日本ハム=1番・渡邉(二)、2番・杉谷(中)、3番・大田(右)、4番・近藤(左)、5番・中田(一)、6番・田中賢(指)、7番・清水(捕)、8番・中島卓(遊)、9番・平沼(三)、先発・加藤(左投)

楽天=1番・茂木(遊)、2番・今江(三)、3番・浅村(二)、4番・島内(左)、5番・ウィーラー(指)、6番・銀次(一)、7番・ブラッシュ(右)、8番・嶋(捕)、9番・辰己(中)、先発・辛島(左投)

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楽天の脅威的存在、ファイターズの左投手陣

現在、パリーグの中で日本ハムの1軍左腕戦力はリーグ1位だと思う。

また、それぞれタイプが異なるのも特徴的だ。

加藤は複数球種と緩急を自在に操る技巧派。
先発や中継ぎなど、どんな持ち場も器用にこなしている。

堀は投げっぷりの良さが光る。
145キロを超えてくるスピードボールも脅威だ。

公文は独特のクロスステップ投法で投げてくる。
宮西は言わずもがなサイドスローの歴戦リリーフだ。

その他、本戦では登板しなかったが、藤岡という左腕も控えていた。

楽天打線はただでさえ左腕を苦手なのに、本戦では多士済々のサウスポーがひっきりなしに出てくるものだから、対応しきれなかった。

栗山監督は好投した加藤を71球と球数に余裕ありながらも5回1安打無失点で降板させた。
そして6回から継投に入ったのも、楽天の攻撃がちょうど3巡目に入るところを考慮したと思われる。

どんな先発投手でも3巡目に入ると、打者の目が慣れてきて対応されやすくなる。
実際、今季の楽天戦でも両軍先発投手の被打率は1巡目2巡目.254なのに対し、3巡目以降.283と約3分も悪化していた。
あのまま6回も加藤続投なら、楽天にもチャンスの芽があったかもしれない。

しかし、MLBで流行したオープナーを採用する今季の日本ハムだ。
当然、栗山監督もその傾向を知っていて、6回からの継投になったのだろう。

せっかく加藤の球の軌道に目が慣れてきたと思った矢先での継投。
楽天は困り果ててしまったというワケなのだ。

これで、楽天打線の左投手成績は、OPS.541、打率.189になった。

この左投手成績を対戦チーム別で確認してみてみよう。

◎対戦チーム別にみる楽天打線の左投手打撃成績

◎全打席に占める左投手打席割合

上記表のとおり、最も抑えこまれているのはロッテ戦。
ただし、ロッテ戦では左投手打席が全体の6.9%に当たる17打席と極端に少ないため、楽天にとって脅威は少ない。

やっぱり一番の脅威は日本ハム戦なのだ。

左投手打席が全体の33.2%とソフトバンク戦に匹敵する多さ。
その左投手成績もOPS.457、打率.157と最も悪くなっている。

楽天は左打者が多いという事情もあるが、栗山監督は以前から左投手が打てない楽天のチーム事情を分かっていて、あえて左を多くぶつけてきているフシがある。

延長12回裏に青山が杉谷にサヨナラ打を浴び、1点差で敗れた4/25(●E5-6F)も、加藤、宮西、公文、森とサウスポーを効果的に用い、楽天の得点力を削いできた。

前日の試合も楽天打線は左投手から3四球は奪ったものの8打数1単打に終わり、左投手がマウンドにいる間は逆転勝利の可能性は塞がれていた。

ということを考えると、今後、楽天の覇道を阻む最大ライバル候補になりえるのが、使える左腕を多く擁する日本ハムと言えそうなのだ。

この敗戦を受けて、楽天は日本ハム戦の戦略、左腕対策を真剣に再検討すべきだと感じる。

骨の髄までしゃぶられたウィーラー

終わってみれば0-2のスコア以上に完敗の感が漂った日本ハム9回戦。

楽天に全く好機なかったか?と言えば、そんなことはない。

両リーグ最多12回の逆転勝利を飾る今年の楽天だ。
1点先制された直後の7回裏は、俄然、期待感高まった。

というのも、先頭の4番・島内が公文との左vs左を制して安打出塁。
無死1塁と反撃の橋頭保を築き、打順は打撃好調の7番・ブラッシュを目指して下がっていく場面だったからだ。

ところが。

5番・ウィーラーがリーグ単独最多9本目の併殺打を打たされ、あえなくチャンスは消滅した。

その対決は3球勝負。
初球を外角ボール球から入った対決は、2球目、3球目と内角めがけてスライダーを投げ込まれた。
とくに結果球になった3球目はインコース厳しく入った投球。
これを打たされ、ドン詰まりの6-4-3併殺網にひっかかったのだ。

この光景をみて、ウィーラーも来日5年目だから、他球団に相当研究され尽くされている感を抱いた。

以前にもご紹介したとおり、ウィーラーは左投手の入ってくる球にとにかく弱い。
もっと言えば、左投手の内角投球に、ほぼほぼ歯が立たないのだ。

◎ウィーラー vs左投手内角投球における打撃成績

ウィーラーのNPB通算成績はOPS.809、打率.266である。

しかし、上記表のとおり、左投手の内角投球には通算OPS.619、打率.174と、いずれも数値が激減する。
もっと言えば、来日2年目の2016年以降ではOPS.522、打率.144とさらに下がってしまうのだ。

この中には、本当は外角や真中コースを狙ったのに、抜け球や逆球などの制球不安定から内角に入った球を打ったものも含まれる。

当方は2016年以降、捕手のミットの位置も記録集計している。
このデータを用いると、2016年以降、左打者が内角を狙って(捕手が内角にミットを構えたときが対象)内角に投げ切った投球での打撃成績はOPS.468、打率.125と、さらにさらに数字は下がってしまうのだ。

自軍先制直後のピンチになりかねない無死1塁の場面。
日本ハムは、楽天で乗せたら最も怖いウィーラーを、その弱点をしっかり突いてプランどおりのゲッツーに仕留めたというワケなのだ。

日本ハムには誰もが目に見える分かりやすいはっきりした強さは、存在しない。
しかし、指揮官の老獪な采配にチーム全員が束になるしたたかな総合力で、今季も抜け目なく上位を狙う存在になりそうだ。

楽天にとっても好敵手は間違いない。
そんな日本ハム戦は早くも次週敵地3連戦が組まれている。
ここでリベンジできるよう、首脳陣やスコアラー、チーム戦略室には有効な手立てを講じてほしいと思う。【終】

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