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動物展示の著作権 ――オマージュとパクりの狭間で

動物園や水族館を巡ると、以前他所で見たものとよく似た展示、というのに出くわすことがある。

例を上げるなら、

・水槽の中のトンネルをくぐりながら魚を見上げる
・放飼場の中に顔を出せるトンネルがある
・アクリルに一部穴が開いていて、動物が手を出せる
・大型ネコ科動物を真下から見上げる
・園路の上空を横切るように霊長類の綱渡りが配置されている
・肉食獣がロープで吊り下げられた餌やデコイに向かってジャンプする
・霊長類の放飼場にあるのと同じジャングルジムが人間側にもある
・「人間」というラベルがついた、中に入れる檻がある

などなどであるが、もっとあるだろう。


これらのアイデアは無いよりもあったほうが面白いし興味も引くので、それ自体を否定するつもりはないのだけれども、複数の施設に同じような展示が全く偶然にインディペンデントに同時発生した、と考えるのは無理がある。

やはりどこかに元祖があって、その展示が面白そうだから真似をした、というのが正解なのだろう。


さて、動物園や水族館では問題なくどこでも行っているこの展示の模倣、良く言えばオマージュであり悪くいえばパクリなのであるが、他の視覚表現行為でこれを行ったらどうなるだろうか。

新しくできたテーマパークの真ん中にあるお城がまんまディ○ニーラ○ドだったり、あるミュージカルとそっくりそのままの舞台装置や、何かの映画でみたような衣装や世界設定などは、「面白そうなので真似しちゃいました」では済まされない法的問題に発展するであろうことが容易に予想される。

パクリを防ぐための意匠登録や商標登録が事前になされている可能性もあるだろう。

ところが動物園や水族館にはそれがない。

檻を使わない、空堀(モート)などによる無柵展示方法は「ハーゲンベック方式」とも呼ばれるが、ドイツのハーゲンベック動物園が特許使用料でウハウハ、という話は聞いたことがない。

最初に目新しい展示を作った動物園は、コンサルタントやデザイナーに対価を払っているはずなのだが、不思議と模倣についてのトラブルは聞かない。

動物園水族館は法的にルーズなのだろうか?それともお互いに寛容なのだろうか?あるいは無知なのだろか?


以下私論だが、

ソニーがヘッドホンステレオ「ウォークマン」を発売し世界的なヒット商品になったとき、「これは通常のラジカセからスピーカーを省いただけのもので、誰でも思いつけるものだから特許には当たらない」という申し立てによる裁判があったが、動物園水族館の展示の細部の「工夫」は、ひとつにはそんなレベルの問題だと思われているのではないかと思う。誰もが考えつくが、実行するにはお金がかかるからやらないだけ。だから誰がやってもOK、文句言いっこなし。

さらに言えば、展示効果を上げて集客力を強化し、収益を増やすという目的以外に、動物の福祉に対する配慮という目的も含んだ展示である場合は、そのアイデアを独占的に使用することは動物の福祉全体には逆にマイナスになるため、あえて模倣を黙認している、という考え方もあるだろう。この視点があるのならエライ。

あと話を日本国内に限ると、「日本初の展示」なんてだいたい海外では先行事例のある展示のパクりなことが多いので、「日本初のうちの展示を真似された!」などと騒いで注目を集めることで、逆に墓穴を掘る可能性だってある。これはわりとでかい理由かもしれない。


まあ、そんなこんなで動物園水族館の「新しい」展示様式はいらすとやのような著作権フリー素材としてあちこちに蔓延し、差別化を図るためには「大金を使って巨大にする」というベクトルの競争に陥るしかない、という、地方の弱小施設にはなんの救いもない考察になりました。

おしまい。



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