見出し画像

調布国際音楽祭 第10回記念オープニング・コンサート「かてぃん plays ラプソディ・イン・ブルー」

指揮者/鍵盤奏者の鈴木優人さんとピアニストの森下唯さんがプロデュースする調布国際音楽祭は今年10周年。最初は週末だけだったというこの音楽祭は、1年ごとに1日づつ開催日数が増えていったのだそうです。筆者はこの音楽祭の存在を知ったのはほんの1~2年前。すでに大きなイベントになっていたので想像しませんでしたが、10年でこんなに多くの人気アーティストを招致し、これだけたくさんの観客を集める音楽祭になったとは、すごいことですね。明日以降の公演も完売が続出しています(調布国際音楽祭の全プログラム)。

この日のソリスト、かてぃん(角野隼斗)さんは先日リサイタルで東京国際フォーラムの5,000席を完売にし、YouTubeではチャンネル登録者数100万人という人気ぶり(筆者のnote記事)。日本でいま最も忙しいクラシック音楽家のひとりではないでしょうか。筆者はこの日の公演チケットを運よく抽選で手に入れましたが、倍率はだいぶ高かったと想像します。

今年の音楽祭のテーマは「“BACH”TO THE FUTURE~未来へつなぐ音楽祭~」。BackとBach(バッハ)をかけた、バッハ・コレギウム・ジャパン主席指揮者である鈴木優人さんらしいユーモアですね(今回はいろいろな“鈴木さん”が登場するので、以降、優人さんと呼ばせていただきます)。そのタイトルどおり、次々と新しいかたちの音楽活動を創造していることで人気の角野さんと、未来を担う学生吹奏楽団を迎えた注目のコンサートでした。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。


プログラム

ジョン・ウィリアムズ:スターウォーズ・サガ
開会式典
カプースチン:8つの演奏会用エチュード Op.40 第3番「トッカティーナ」
いずみたく/森下唯編:ゲゲゲの鬼太郎
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
<ソリスト・アンコール>ショパン:英雄ポロネーズ
<ソリスト・アンコール>ガーシュウィン:アイ・ガット・リズム(I Got Rhythm)

<出演>
指揮:鈴木優人
指揮:鈴木正人
ピアノ:角野隼斗(かてぃん)
ピアノ:森下唯
吹奏楽:明治大学付属明治高等学校・中学校吹奏楽班+サプライズゲスト

公演日:2022年6月19日 (日)調布グリーンホール 大ホール

プログラム ※画像をクリックでPDFにリンクします 

画像1


鈴木優人さん・森下唯さん・かてぃん(角野隼斗)さん

エグゼクティブ・プロデューサーの優人さんとアソシエイト・プロデューサーの森下さんは共に調布のご出身。同じ学習塾に通っていた同級生で、いったん別の中学校に進学して離れたものの、東京藝術大学で再会した仲とのこと。コンサートは間にトークを挟みながら進みましたが、おふたりのテンポの良いやりとりにその仲の良さがうかがえます。

優人さんと角野さんは今年4月、ソリストの急病により優人さんが急遽代役のオファーをしたドイツ・ハンブルクでの共演以来。まだ海外渡航が簡単ではない時期に、メッセージを受け取った角野さんはヨーロッパ行きの乗り継ぎ空港にいたのだそう。準備期間はたったの2週間!という奇跡の公演だったようです。

森下さんと角野さんはネットピアニストつながり。角野さんはクラシック界でダントツ大人気のYouTuberでもあるというのは有名な話ですが、約10年前にはじめて演奏動画を上げたのはニコニコ動画だったのだとか。そのニコニコ動画といえば、森下さんが”ピアニート公爵(ぴあにと)“として活動していたメディア。2014年頃から有名になっていたという、今で言うネットピアニストの先駆けの1人なのでしょうね。また、おふたりとも“かてぃん”“ぴあにと”とネット上のお名前を持っているという共通点もありますね。森下さんは公爵業以外に(笑)アルカンという作曲家の演奏で著名なようです。

この動画は約400万回再生、7.7万いいねがついています!

筆者にとっては「The Three Conductors」というYouTube番組で、優しいのにキレのあるユーモアを飛ばす優人さんを拝見して以来、実際に公演を聴きに行くのを楽しみにしていて、ようやくの実現となりました。(優人さんをニコ生で観た筆者のnote記事


ジョン・ウィリアムズ:スターウォーズ・サガ

ステージ上の若さ溢れる演奏家さんたちは、地元の明治大学付属明治高等学校・中学校吹奏楽班のみなさん。勉強不足な筆者は公演プログラムを読んで驚愕。この吹奏楽団はウィーン楽友協会での単独公演や、日本代表として海外の音楽祭やコンサートに参加された経歴があるのだそうで!調布には日本のトップ音楽大学のひとつである桐朋学園がありますし、街を歩けば将来の大物音楽家に当たる街かもしれませんね。ステージでは緊張しているような、高揚しているような、不安なような、いろいろな表情がありましたが、多くの学生さんは良い意味で自信に満ちて凛としたプロの顔をされていました。さすがですね。

指揮者は優人さんが“プログラムは誤植ではないです”と強調する鈴木正人(まさと)先生。なんと漢字違いの同姓同名です。お名前だけでなく“調布の指揮者の鈴木まさとさん”というところまで一緒!ここでも”縁”を感じる音楽祭ですね。

演奏されたのはスターウォーズの人気曲がメドレーとなっている作品。個人的には2週間前に原田慶太楼さん指揮でも聴いていてスターウォーズ月間なのですが(笑)客層を問わず会場すべてを高揚させる力がある大好きな音楽。筆者は吹奏楽の素養がないため、そのパワフルで重みのある音が良い意味でとても新鮮で、新たな映画の世界観を味わうことができました。大舞台でのいきいきとした演奏、感動しました。


開会式典

この公演は今年の調布国際音楽祭のオープニング・コンサートという位置づけになっており、この先1週間に渡って開かれる音楽祭の開会を宣言する時間が設けられていました。音楽祭のホストシティである調布市の市長、主催の調布市文化・コミュニティ振興財団の理事長、音楽祭の監修をされている指揮者・鈴木雅明さん(以降、雅明さん)、そして式典のファシリテーターも務めるエグゼクティブ・プロデューサー 優人さんの、音楽祭10周年への感謝とその未来への期待の言葉がありました。

筆者は存在は存じていたものの観覧は初めてだったのですが、こんなに地域密着型のイベントであることに驚きました。調布にゆかりのある出演者やプログラム、また地元のボランティアスタッフもたくさん(美声の式典進行係さんまでも!)。雅明さんが語っていらした”人々のご縁をつなぐ”ことも音楽祭の目指すものなのだそうで、それを具現化している素晴らしい音楽祭ですね。

最後は優人さんが今年ここでやってみたかった新たな企画、とのことでステージに運ばれてきたのは東京の地酒「澤乃井」。森下さんと鈴木正人先生も迎えて、6人お揃いの法被を着て鏡開きをしたのでした。筆者は昨年の調布国際音楽祭でのオペラ「電話」でバリトン・大西宇宙さんが澤乃井の一升瓶を抱えてヤケ酒を飲む!しかも中身は本物!という演出があったと聞いたことがあったので、ここでの登場に笑いが止まらない思いでした。毎年、音楽祭のどこかに登場させて「澤乃井を探せ!」と隠してみたりしてほしいですね(笑)


カプースチン:8つの演奏会用エチュード Op.40 第3番「トッカティーナ」

ステージ中央にグランドピアノがセッティングされると、優人さんのご紹介で角野さん登場。約2分間ほどという短いピアノソロでしたが、今日の角野さんは凄かった!演奏後の優人さん・森下さんとのトークの中でも「カプースチンが喜んでいるんじゃないか」という称賛コメントが出ていましたし、角野さんのリズム感とキレの良さが発揮された最高にかっこいい演奏でした!

ちなみにカプースチンとは、クラシック音楽にジャズの要素を取り入れたことで有名な作曲家。角野さんはインタビューで影響を受けた音楽家のひとりとして挙げていたこともあります。ちなみにカプースチンはウクライナ生まれのロシアの作曲家。この時期に演奏されたのも何か縁を感じるような...?

公演の数日後、角野さんが演奏するトッカティーナがアップされました!


いずみたく:森下唯編:ゲゲゲの鬼太郎

もう1台のピアノがステージに登場。調布は「ゲゲゲの鬼太郎」の作者・水木しげるさんが暮らした街ということで、調布音楽祭ならではの地元密着な1曲。この作品はお馴染みのテーマを森下さんが2台ピアノ用に編曲した変奏曲になっており、昨年も演奏されたようですが、その時は優人さんとの2台ピアノだったのでしょうか?ダイナミックな超絶技巧あり、ジャズっぽさあり、ロマンティックな部分はショパンのようでもあり、その様々なイメージからなるメロディは全体的にとてもスタイリッシュ。特に角野さんの魅力が存分に引き出されていたように感じました。

筆者は森下さんの手元が良く見える席だったのですが、森下さんの超絶技巧もかっこよかったですね。なにやら足元にもうひとつペダルらしきものにハンカチのようなものを乗せていたのですが、あれは何だったのでしょう。iPadの楽譜をめくるために踏むものか何か?とチェックするつもりだったのですが、演奏に夢中になっていて確認し忘れました(笑)


ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー

休憩を挟んで第2部の指揮者は優人さん。角野さんはお馴染みの赤いピアニカを片手に、おふたりでステージに登場。

初めて生で聴く角野さんの「ラプソディ・イン・ブルー」、想像以上の美しい音に陶酔していると、怒涛の熱いカデンツァ!これまで聴いたことのない情熱的でテンポの速いカデンツァだったように思うのですが、角野さん独特のスタイリッシュさにカプースチンの超絶技巧が重なったような?キレッキレの演奏。何か高い集中力のような、気迫のようなものも感じました。こんな角野さんを引き出した優人マエストロ、いったい何を言ったのでしょう(笑)

そうかと思うと、角野さんは急に立ち上がりステージ下手に歩き出し…なんとチェレスタを演奏!その繊細で儚げな音が多彩な音楽を作り、驚くばかり。かわいらしかったのは、チェレスタを終えてそろりそろりとピアノに歩いて戻ってきたところ。角野さんの足音しか聴こえない無音なのですよね、ピアニストはひとりしかいませんし、カデンツァの途中ですから!会場からもクスクスと笑い声が起こっていましたが、ご本人も笑ってしまっていましたね(笑)。

そして優人さんの種明かしにより、吹奏楽団の中になんとNHK交響楽団首席ホルン奏者・福川伸陽さんが混じっていたことが判明!(優人さん曰く、ひとりだけ校則違反に引っかかりそうな髪型の人)今年の音楽祭では初めてNHK交響楽団を迎えたプログラムがあり、福川さんもいくつかご登場予定とのこと。ということで、福川さんもステージ後方からそろりそろりとピアノの横まで歩いてくる演出があり、角野さんと楽しそうな掛け合いを聴かせてくださいました(そろりそろりと持ち場に帰っていきました(笑))。学生さんそれぞれのソロも光り、最後はたくさんのスタンディングオベーション!

配信やYouTubeで何度も聴いたことのある「ラプソディ・イン・ブルー」ですが、こうして毎回新たな驚きを加えて飽きさせないところは脱帽ですね。想像以上に大満足!今日来てよかったーーー!


<ソリスト・アンコール>ショパン:英雄ポロネーズ

最初の音を出した瞬間、会場から拍手が起こったのには、今年2月のリサイタルを思い出しました(筆者のnote記事)。リサイタルではそれはそれは遠くの席だったので、今回、息やペダルの音と一緒に最高のピアノの響きを聴くことができて格別なものがありました。

多彩な才能を持つ角野さんですが、ここで「ショパンモード」に切り替わった表情を拝見するのも興味深いです。筆者の語彙力では表現しきれないのですが、正統派クラシックを演奏するときはピリッとした緊張感のような特別な空気が角野さんの周りにできて、とても引き込まれます。

<ソリスト・アンコール>ガーシュウィン:アイ・ガット・リズム(I Got Rhythm)

鳴りやまない拍手にカーテンコールを繰り返していた優人さんと角野さん、最後は優人さんが”もう1曲!"と角野さんをピアノに座らせるアクションをして誘導するシーンが。ほんの2~3日前にジャズ・ピアニストの小曽根真さんのブルーノート公演にサプライズでゲスト参加していた角野さん、その影響ではと紐づけたくなってしまいますが、この日の演奏はどれもグルーヴ感が素晴らしく、とても冴えていました!

ここで筆者は勇気を振り絞り、初めてのスタンディングオベーション!アンコール前からタイミングを逃し続け、そわそわモゾモゾしており(笑)後述しますが、たまたま優人さんが会場をバックに角野さんとの自撮り動画を撮ってくださり、筆者にとって記念の瞬間が記録に残るという特別な1日になりました。


最後に(Twitterリンク)

今日の演奏者はSNSの使い方がお上手なみなさま。公演直後の興奮冷めやらぬ中さっそく投稿があり、余韻を楽しませてくださいました。角野さん、優人さん、森下さん、福川さん、それぞれひとつづつリンクを貼って記事の締めとします!


出典

調布国際音楽祭2022 公式ウェブサイト

「カプースチン ピアノ音楽の新たな扉を開く」株式会社ヤマハミュージックエンタテインメント 

調布国際音楽祭2021 オープニングコンサート プログラム 公式ウェブサイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?