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みゆじックアワー Vol.2 伊藤悠貴(チェロ)

クラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。

<プログラム>
リスト:愛の夢 (金子三勇士)
エルガー:愛の挨拶
スクリャービン :ロマンス(伊藤悠貴編)
サン=サーンス:白鳥
〈作曲家当てクイズ〉
ラフマニノフ:夜のしじま 作品4-3(伊藤悠貴編)
ラフマニノフ:ヴォカリーズ 作品34-14(伊藤悠貴編)
ポッパー:ハンガリー狂詩曲 作品68
〈アンコール〉
伊藤悠貴:春の雪
フランク・ブリッジ:春の歌

公演日:2020年9月24日(木)

渋谷・リビングルームカフェとストリーミング配信のハイブリッドコンサート。金子三勇士さんがMCを務める『みゆじックアワー』の第2弾は三勇士さんと交流の深いというチェリスト・伊藤悠貴さんでした。筆者は配信のみ参加しました。

感想

配信組は1時間ほどのコンサート。1時間って本当に短い。でもきっと数学の授業1時間だったら本当に長い(笑) 

今回のコンサートはお2人がトークも演奏も心から楽しんでいることが伝わってきました。演者がハッピーなものは、聴く者をとてもハッピーにしますね!

伊藤悠貴さんと金子三勇士さん

伊藤悠貴さんは15歳でイギリス・ロンドンに音楽留学され、その後ロンドンと近郊の国を拠点に12~13年ご活躍、日本での活動はここ3~4年なのだそうです。

お2人はまずトークが面白い!同じ31歳、日頃の仲の良さからかテンポ良く、リラックスした雰囲気で、とても楽しそう。打ち合わせをしてしまうことで新鮮さが失われないように、今回はあえてトーク内容を決めない「台本のない音楽会」(金子三勇士命名)にすると2人で決めたのだとか。その心遣いもあり、同年代トークは素を見れるようでとても楽しいものでした。今回、楽器についてたくさん教えてくれたのも嬉しかったです。

演奏も息がぴったりでとても心地良いものでした。リハーサルも通常5時間前後かかるものが1時間で終わったそうで、ヨーロッパつながり・アールグレイ好きという共通点だけでは語りきれない何かがあるようで!

ちなみに三勇士さんはこの2日前にお誕生日を迎えたばかりで、コンサート後のステージで伊藤さんなどからサプライズでお祝いされている動画をアップしてくれています。

https://twitter.com/miyujik/status/1309794020692905984?s=20

チェロという楽器

今日、伊藤さんが使っていたチェロは1734年のイタリア・ヴェネツィアで作られたもので、もしかしたらヴィバルディが触れた可能性もあるという。当時ヴェネツィアで活躍していて弦楽器のアンサンブルを指揮していたヴィバルディ、そのときチェロを弾いていた人がどうやらこのチェロを使っていたという記録が残っているらしい。

楽器を人間だと思っていると語るお2人。伊藤さんのビバルディ(前述)は人間に例えるなら経験豊富でちょっと扱いが難しいが優しさもある70代ぐらいのスラブ系男性(He)のイメージ、楽器を持ち運ばないピアニストは会場でいろいろな性格のピアノに出会うことになるが、三勇士さん宅のピアノは親友なので男性のイメージなのだとか。コンサート会場でやんちゃなピアノに出会ってしまったとき、三勇士さんはどう手懐けるのか見てみたいですね(笑)

チェロは人間の声の音域と近いことから歌う楽器と言われていて、お2人もチェロの音を「歌う」と表現していました。他の楽器、ピアノも歌うのでしょうか?演奏者は楽器を「歌わせている」のでしょうか、それとも「楽器が歌っているのにつきあっている」のでしょうか。いつか聞いてみたいですね。楽器に敬意と愛情をもって大切に扱っているのがよくわかります。

チェロは三勇士さんも憧れている楽器で、人生最初に触った楽器はピアノではなくチェロだったとか。2歳の三勇士さんは弓の持ち方がしっくり来ず、ピアノの方が弾きやすいと思ってピアノを選んだとのこと。2歳で!?ということもそうですが、そのピアノへの情熱が31歳まで続くというのがすごいです。

チェロのように音を長く響かせることができる(ノート)のはピアニストにとってうらやましいことなのだとか。音を伸ばそうと鍵盤にビブラートをかけるかのように指を動かすピアニストもいたり、三勇士さんも気持ち的にどうしても何かしたくて思わずやってしまうことがあるのだとか。「それ効果あるんですか?」「ないです!」という2人のトークが最高でした。1曲1曲演奏を終えた後にいつもより体を倒していた気がする(笑)三勇士さんが、存分にチェロの余韻を楽しんでいるように見えました。

今日気づいたのですが、チェロは楽譜を見れないのですね。オーケストラではピアノを除く全楽器が楽譜立てを立てていて(ような記憶)、デュオなどの時は逆にピアノだけ楽譜を置いている。楽譜をめくっている暇がないからと思えばピアノはめくってくれる人もいる。そもそも暗譜していて楽譜はほとんど必要ないのでしょうけど、それがソリストというものなんでしょうか。筆者の宿題です。

もうひとつの気づき。チェロってここを持つんですね!バイオリンは片手で楽々持ててしまうので知らなかったのですが、弦楽器のこの形、このひっかかりは機能的だったんですね!

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リスト:愛の夢 (金子三勇士)

挨拶トーク前の「愛の夢」ショートバージョン。テーマ曲と書いてあるので、次回以降どう出てくるのか気になるところです。

エルガー:愛の挨拶

エルガーって知らないけど、これか!という曲でした。今回も初心者に優しい選曲でスタートです。ググってみたら「威風堂々」もエルガーなのですね!ザ・イギリス。

もう、小学校の音楽の授業を最初からやり直したい!全然憶えていない...。

今回のコンサートは、お2人がどう息を合わせていっているのか関心があってずっと見ていました。たまに振り返りアイコンタクトするチェリスト、チェロの弓を見ながら鍵盤を叩くピアニスト。たまに同じような表情をしているように見えて、顔で合図しているのかと思ったり(笑)。不思議だったのは振り返るでもなく目を合わせるでもなく、間を置いたあと大きく出るところをピタっと合わせる様子でした。

スクリャービン :ロマンス(伊藤悠貴編)

もともとチェロと音域が似ているというホルンのための曲なのだそうです。

チェロが表現する切なさって凄まじいと思いました。この曲は切なく情熱的に盛り上がるが決して強くなく、内に秘めたやるせない気持ちという印象を受けましたが、本当はどうなのでしょう。そう聴こえたのはお2人の演奏スタイルだからなのかしら。


サン=サーンス:白鳥

チェロと言えば白鳥、と言われるほどチェロの代表曲と言われているそうです。このテンポで弾く白鳥にはまりそうだと三勇士さんが言っていたように、ゆっくりしっとり、優しく温かい演奏でした。チェロとしてはこの速さはとても難しいのだとか。

筆者もこの白鳥は心地よかったです。ソフトで穏やかなピアノから始まり、優雅で悠然に堂々と湖を泳ぐ白鳥のイメージでした。

ちなみにこの曲を聴くと頭痛が治るという都市伝説がありますね。曲のテンポか何かが良いと。頭痛持ちの筆者はエンドレスリピートで聴くことがある、大変お世話になっている曲です。不思議と治るのです、たいていは。コロナにも効いて欲しいですね(笑)

〈作曲家当てクイズ〉

『みゆじックアワー』恒例の「作曲家当てクイズ!」この作品を書いたのは誰でしょう??

今回は伊藤さんがわかったらすごい!と言うほど難題だそうです。三勇士さんですら伊藤さんに紹介されるまで知らなかったらしく。スーパーヒントはイギリス出身の作曲家とのこと。答えはわからないとはいえ、イギリス人の作曲家は誰がいるだろうと勉強する良い機会とします!

曲は悲しいながら少し誇りのようなものを感じました。この曲で筆者が思い浮かべたのは、ホビットのように、攻撃されてボロボロになった村を助けるために冒険に出る物語。到底適わない強敵に向かうため、大切な家族や友達にこれが最後と思いたくないと泣かれるお別れのシーンで、彼らを守るためにシャイア(村)を出発する勇者、というかんじです。作曲者の意図とはたぶん違う気がします(笑)

歌詞のないクラシックは、そういったタイトルや詳しいストーリーがないところにおもしろさがある気がしています。タイトルがない曲は覚えづらく、作曲者の意図じゃなかったとしても誰か全部タイトルつけて!と思っていましたが、先に(もしくは同時に)曲の背景を詳しく知ってしまうより、「自分だったらこういうタイトルをつける」など、思い描いたストーリーを誰かとシェアしたりしたらおもしろそうだなと。後世に作曲者以外がつけたタイトルで先入観を持ってしまうのがもったいないとすら思うようになりました。このクイズシリーズでタイトルがあるべきかどうか、考えが変わりそうです。

ラフマニノフ:夜のしじま 作品4-3(伊藤悠貴編)

もともと歌曲とのことで、楽器の中でも歌い手と言われるチェロにぴったりのようです。

三勇士さん曰く、ラフマニノフはチェロ大好き説があり、ピアノ協奏曲などでチェロの綺麗なソロを入れたり、チェロの役割大な曲が多いのだとか。そういえば筆者が初めてラフマニノフを知り、大好きになった交響曲第2番も改めて聴いてみるといちばん盛り上がり、心揺さぶる部分はチェロですね。

ラフマニノフ:ヴォカリーズ 作品34-14(伊藤悠貴編)

この曲はバイオリン、フルートなどいろいろな楽器で演奏されたものがあるが、生前ラフマニノフが唯一良いといったのはチェロバージョンなのだとか。

昔の映画の音楽かのようなキャッチーなメロディでした(クラシックには相応しくない表現かもしれませんが)。かの有名なと言うくらい、多くの人を魅了してきた曲なのでしょうね。

ラフマニノフの曲は筆者はいくつかしか知らないですが、今日のお話を聞いて、チェロの動きに注目して交響曲第2番を聴いてみたくなりました。

ポッパー:ハンガリー狂詩曲 作品68

演目を決めるとき伊藤さんは三勇士さんとならぜひこれを!と思い、同じことを考えていた三勇士さんはキター!と嬉しく思ったほど相思相愛だったとか。難しい間の取り方などでその息が合ったようすを感じました。

ポッパーはもともとチェリストだったらしく、伊藤さん曰く、ポッパーがチェロをよくわかっているので演奏していて楽しいのだとか。これぞハンガリーという曲とのことで、パワフルな冒頭を聴いただけで三勇士さんにとても似合う曲という予感がありました。チェロは弦を上から下まで使い切り、キュルキュルといわせる難しいテクニックを見て、これがチェロの超絶技巧というのかなと。

明るく軽快なところがあったり、ジャズの即興のようなチェロがあったり、はじめのうちはチラチラと出てくるハンガリーらしいメロディが転調してだんだん色濃くなり、どんどん激しくなり、短い時間のうちにくるくる変わる表情豊かな曲でした。お弁当でいうなら幕の内弁当だなと(笑) 時折三勇士さんが右足をダンッと踏むことがあり、ペダルを踏んでいるのではなさそうな?いずれにせよ、あたかも足も楽器の一部と言わんばかりで、とても味がありました。

ファンの方がチャットで言っていた言葉をお借りして、チェロもピアノもキレッキレでした。

〈アンコール〉

伊藤悠貴:春の雪

伊藤悠貴さんはステイホーム中にやってみたかった作曲に挑戦されたのだそうです。この曲は歌人・石川啄木の「春の雪」という詩につけた曲とのこと。昔から存在していて人々に愛されてきた曲かのような、さわやかで親しみやすい曲でした。思えばクラシック音楽は洋楽。日本で作られた曲はどこか安心感があります。

フランク・ブリッジ:春の歌

春らしくさわやかで、初心者にも聴きやすいメロディでした。

ググってみたらラフマニノフ(1873年 - 1943年)と同時期の作曲家(1879年 - 1941年)。なんとなく、この曲やヴォカリーズなど、筆者が映画音楽を思い浮かべるような曲は「そのくらいの時代」のものなのかもしれません。

最後に

そういえばコロナ禍で忘れていましたが、もう芸術の秋。オーケストラも戻ってきて(いつもは)クラシック音楽のシーズンですね。(ピアニストのリサイタルとかは季節関係ないのかしら)これからどんな形だとしても音楽を届けてくれるのなら、受け取っていきたいものです。


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