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「がんノート」著者に聞く。清野栄一 ロングインタビュー 第2回 「痛いの事」

ー放射線治療中は痛くないのに、火傷とは?

「火傷というと肌のことみたいですが、僕の場合は口腔がんだったから、口内炎ですね。肌も痛くはなりましたが」

ー水を飲んでも痛いとか言われていますが?

「治療をはじめて一週間ぐらいたつと、麻酔薬入りのうがい薬がないと飯も食えないようになったんです。口に含んで十五分ぐらいぶくぶくやって麻痺させるんですが、まだまだ序の口でした。うがい薬に入っていたリドカインという麻酔薬を瓶ごと処方してもらったのが二週間目ぐらいだったかな。スプーン一杯ぐらい口に含んで麻痺させてから、麻酔が効いている三十分ぐらいの間に食事をするんですが、途中で麻酔を追加しないと食べきれなくなった。そうこうしているうちに、頭をぶん殴られたような頭痛と、ハウリングみたいな耳鳴りに襲われるようになった」

ー聞いてるだけで痛そうですね。

「痛くて毎晩夜中に目がさめるたびに、痛み止めをもらいにナースセンターに行ってました。昨日も友人と話していましたが、がんというのは、へんな病気なんです。風邪でもコロナでもそうですが、だんだん体調が良くなっていくのが治療ですよね?」

ー怪我でも病気でも痛くなくなっていくのが治療でしょうね。

「三ヶ月近くも入院していると、ほかの患者さんは元気になって退院していくんですが、僕はまったく逆で、ボディーブローみたいに心身ともにきつくなっていくんです。放射線治療と同様、いきなりじゃなくて、じわじわと、真綿で首が、というたとえのように。被爆しているんだから副作用があるのは仕方ないとわかってはいても、腑に落ちない。どうにも解せないわけです」

ーどうやって乗り切ったんですか?

「解せない現実を書きはじめたんですが……」

ーそれがこのノートになったと。

「それがですね……原稿用紙をめくってみたら、痛さについて延々書いたあげくに、『痛いというのはアプリオリじゃなくて先取』だとか……いくら大昔にエピクロスをかじったからといって……『生きているのは痛さのせいだ』だなんて……いかにも『痛くないなら死んでいる』みたいじゃないですか……『死ねば痛いわけがない』なんて……『書くことで痛みを乗り切ったなんていうのは嘘っぱちだばかやろうまわりくど愚痴もいい加減にしろ』、と書いてあるのが、口内炎と頭痛と耳鳴りが三つ巴でひどくなって眠れなくて痛み止めをもらいはじめたぐらい痛かった頃ですから、まだまだ痛さも序の口だったんです」

(-----つづく-----」

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