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関川夏央『子規、最後の八年』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2020.09.13 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

「二十八歳で脊髄カリエスを発症し、三十五歳で逝った正岡子規」の晩年の8年間をたどる子規の評伝です。『短歌研究』2007年1月号~2010年7月号までの3年半の連載が元になっています。

子規の表現欲、旧文芸に対する改革欲、「親分」欲、「座」を主宰することへの演劇的情熱、そして食欲、どれをとっても病臥後のほうがはっきりしているし、またはなはだしいのである。子規の本領は、その早すぎた晩年のほうにある。

「あとがき」より

研究的価値のある文献の引用も多い上に、晩年の8年間に主眼を置きながら、晩年につながっていくそれ以前の出来事についても詳しく、また、子規周辺の人物たちが丁寧に描かれているのが特徴です。夏目漱石については、全編を通してページがさかれ、高浜虚子・河東碧梧桐・伊藤左千夫・長塚節・秋山真之・妹の律はもちろん、樋口一葉まで。(その他にも様々な人物が登場します)とにかく、子規と関わっていく一人一人に立ち止まっていくことで、子規をとりまく全てを、そして、明治という時代を描き出そうとする筆者の熱意を感じる一冊でした。

骨に食い入ってカリエスを起こす結核菌とは、当時の医学では戦いようがない。しかるに、飽くことのない食欲と見物欲、それに表現欲が希望に似た空気を全体に淡く満たす。それこそが子規のパーソナリティであり、また子規が呼吸した時代精神のあらわれでもあっただろう。