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凪良ゆう『流浪の月』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.08.21 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

2020年本屋大賞を受賞し、李相日監督✖広瀬すず✖松坂桃李で映画化された話題作です

世間から、「小児性愛者の誘拐犯」と「被害者少女」というレッテルを貼られた二人の物語で、事件の当時とその15年後を、彼らの心境を軸に、丁寧に丁寧に紡いでいく小説でした。帯にある凪良さん自身の「文と更紗 ふたりが楽に生きられる世界であるようにと願って書きました」のメッセージに目を止めずとも、表紙を開くとすぐに、扉より前に挟み込まれている次のメッセージに驚き、いわゆるレッテルを貼り付ける社会的な視点からではなく、主人公の心に寄り添って読んでもらおうとする作者の意図を強く感じました。

最初にお父さんがいなくなって、次にお母さんもいなくなって、わたしの幸福な日々は終わりを告げた。すこしずつ心が死んでいくわたしに居場所をくれたのが文だった。それがどのような結末を迎えるかも知らないままにーー。だから十五年の時を経て彼と再会を果たし、わたしは再び願った。この願いを、きっと誰もが認めないだろう。周囲のひとびとの善意を打ち捨て、あるいは大切なひとさえも傷付けることになるかもしれない。それでも文、わたしはあなたのそばにいたいーー。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。本屋大賞受賞作。

彼らの心に寄り添いながら読み進めていくことで、二人に貼られたレッテルが、全く事実無根であるだけでなく、世間というものが、なんと一方的で人の心を勝手に分析し、当て推量をするものなのか、なんと乱暴で真実の声に耳を傾けない理不尽なものか、がより胸に迫ってきました。二人は、世間の見方次第によって違った形に見える「月」であり、今後も彷徨い(「流浪」し)続けるしかないのでしょうが、「大事にしているもの」は「取り上げられ」、「自分を欠陥品だと思う二人」が、「なんと呼べばいいのかわからない」が「わたしがわたしでいるために、なくてはならない」「新しい人間関係」に辿り着けている結末には救いを感じずにはいられませんでした。

わたしたちは親子ではなく、夫婦でもなく、友達というのもなんとなくちがう。わたしたちの間には、言葉にできるようなわかりやすいつながりはなく、なににも守られておらず、それぞれひとりで、けれどそれが互いをとてもちかく感じさせている。