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西加奈子『円卓』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.12.24 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

2014年に芦田愛菜ちゃん初主演で、個性的な登場人物達が魅力的だった行定勲監督の映画『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』原作本です。

主人公のこっこは小学三年生。祖父祖母、父母、三つ子の姉の8人家族で大阪の公団住宅の3LDKに住み、潰れた中華料理屋からもらってきて居間を占領している深紅の円卓を囲む毎日を送っています。しかし、賑やかな家族に不満を抱き、「孤独」を愛し、「ため息」が好きなこっこ。心から尊敬するのは、文字好きの祖父石太と、誰よりも思慮深い吃音の幼なじみのぽっさんだけです。気になった言葉は、忘れないようにジャポニカの自由帳にメモするのが日課です。

「うるさいぼけ」が口癖で、ぽっさんの吃音を格好いいと口に出すなど、皆とちょっとズレているために、人を傷つける可能性のあった(悪気なく傷つけていた)こっこですが、「自分の身体の中で、文字や思いがじくじくと発酵していくよう」に「言葉を発する瞬間に、わずかな重力を感じるように」なっていきます。さらには、思いをぶつけることが「理不尽なこと」だと分かるようになり、本当の孤独ではない寂しさを知るようになり、クラスメイトにも心を寄せられるようになっていく、そんなこっこの一夏が描かれていきます。

最も印象的だったのは、こっこが、大事にしていてジャポニカ学習帳を、自分以外の乾成海のために使うラストでした。乾成海は、「しね」と書いて折りたたんだ紙くずを、机の中に山のようにストックし、皆に見つかる前に焼却したまま、現在不登校となっているクラスメイトです。こっことぽっさんは、学習帳を破って、お気に入りの言葉の数々を書いて折りたたんで彼の机を埋めていました。そして、一ヶ月半後に登校して、机の中の紙に驚き、一枚一枚を開きながら笑みを取り戻していった乾成海は、その紙きれを教室の窓から雪のように降らせることを思いつくのです。

「円卓」が料理だけでなく、家族に幸せをも分け与えていることに気づいたこっこ。こっことぽっさんの好きな言葉が乾成海に分けられて、また、その言葉が紙吹雪となってこっことぽっさんに降ってくるラストは、なんとも「円卓」的で、じんわり温かくなりました。また、そこに書かれている言葉も二人の個性が出ていてなんとも可愛らしく……。(ぜひ小説で確認してほしいです!)
ありのままに生きようとする小学生時代を眩しく思い出した小説でした。