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熊川哲也『完璧という領域』『メイド・イン・ロンドン』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.06.08 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

「熊川哲也」というバレエ・ダンサーを知ったのは、高校生の時。「ローザンヌ国際バレエ・コンクール」のテレビ放送でした。コンクールには日本人も何人か出場していましたが、その踊りに魅了されてしまったのが熊川哲也さんでした。彼がもし日本の高校生だったなら同じ学年だということも手伝って、テレビを観ていた友人たちと金賞受賞を喜び、クラスメイトを呼ぶように勝手に「てっちゃん」「てっちゃん」と盛り上がっていたあの興奮を今でも覚えています。

金賞受賞後の熊川さんの活躍は、多くの人の知るところですが、二冊の自伝によって、さらに詳しく知ることができます。英国ロイヤル・バレエ団の退団時にあわせて、幼少時代から退団までを記したのが『メイド・イン・ロンドン』、その後のKバレエカンパニー設立から表現や創作の軌跡を記したのが、カンパニーの20周年にあわせて出版された『完璧という領域』です。

「完璧など存在しない」と人は言う。だがそれは失敗から目をそらしたり夢をあきらめたりするための言い訳にすぎない。たしかに作品を「完璧という領域」にまで到達させるには、ダンサーの心技体だけではなく、オーケストラやスタッフ、観客、劇場を含むすべてが最高の次元で調和しなければならない。それは奇跡のようなことかもしれない。
しかし「完璧という領域」はたしかに存在する。偉大な芸術はすべてそこで脈打っている。僕はつねにその領域を志向してバレエに関わってきた。  

「はじめに」より

ダンサーとしてだけでなく、芸術監督、経営者、教育者として活躍をする熊川さんならではの、バレエへの拘り、芸術観、人生哲学などが、つきることのないバレエへの愛の中で述べられていきます。怪我からの復帰についても詳しく、20年前の『メイド・イン・ロンドン』の内容に固執せずに若い頃の自分を振り返りつつ、年齢を重ね、経験を積んだ今だから見えるもの、感じるものといった本音が書かれていて、清々しささえ感じます。「熊川哲也」個人はもちろん、総合芸術としてのバレエの魅力を存分に味わうことのできる一冊です。

~余談~
  ミミズ鳴くぼくだってとべるかも
(当時)小学校3年の長男が、生まれて初めて観た熊川哲也さんの『白鳥の湖』ジークフリード王子の踊りに心動かされて詠んだ一句です。楽屋出を待つ小さい男の子に気づいてくれた熊川さんに感激した長男。帰途「ぼくだってとべるかも~♪」と熊川さんを真似てジャンプしていた姿が、今は懐かしい思い出です(笑)