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田辺聖子『金魚のうろこ』
この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.10.05 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/
句友・更紗さんが、SNSの投稿で『金魚のうろこ』を取り上げ、
明るさのなかに陰があり、面白くて切なくて、諧謔味とユーモアたっぷり。短編それぞれの着地にも唸る。田辺聖子さん、やっぱり凄い~。
と絶賛。興味をひかれ、思わず手に取った7編の短編集でした。
![](https://assets.st-note.com/img/1691932206421-z77R8U5v3N.jpg?width=800)
それぞれの主人公は、
21歳のガールフレンドの36歳くらいの継母に惹かれていく大学生
何人もの男性を手玉に取る(結果的には取られた?)33歳の女性
16歳年下の彼に年齢を告げていない39歳の女性
女性の本質をのぞき見ては相手に本気になれない45歳男性
不倫を花火ととらえ楽しみたい28歳女性
59歳になって58歳までにはなかったある種の達観を手に入れた男性
結婚というゴールに意味を見出せず居心地の良い弟との関係で満足する36歳女性
と、一癖も二癖もありそうな人物たちです。
物語には、どんでん返しというか、しっぺ返しなどもあったりするのですが、それぞれが自分の現状になんとなく満足している様子は共通していて、全てを受け止めて焦りなどないところが、淡々とした独特の空気をつくっています。主人公たちが異性に不自由していないという事実も、物事から切実さをなくすことに一役買っている気がします。全編にわたる大阪弁も、登場人物たちの切羽詰まっていない感じと相まって、読者に心地よくストレートに届いてきます。
表題作で、夜明けの美しさを「人生以上に美しいけど、でも、人生にはもっと美しい時もある」とし、それを「人生以上。人生未満。」と表現していたのが象徴的でした。もがき苦しむことのない登場人物たちから、あくせく生きなくてよい、人生はそのままに受け入れていこうよ、とでも言われているような気になりました。