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石原慎太郎『太陽の季節』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2021.05.29 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

文芸評論家・斎藤美奈子さんの『妊娠小説』を読んで以来、ずっと気になっていたのが石原慎太郎さんの『太陽の季節』でした。斉藤さんによると、望まれない妊娠を搭載した作品(妊娠小説)の第二次ブームの代表作品が『太陽の季節』とのこと。私が生まれる前の小説で読んだことはなかったものの、石原慎太郎さんが芥川賞を受賞した作品であること、映画化もされ、「『太陽族』の製造元となった〈不良少年文学〉らしいとの伝説」は私も知ってはいました。

「太陽族」とは、(デジタル大辞泉によると)「石原慎太郎の小説『太陽の季節』から生まれた流行語。既成の秩序を無視して、無軌道な行動をする若者たちをいった」そうですが、斉藤さんにかかると「どこが〈不良少年文学〉なの?」「教育的な、いやはっきり申せば『説教臭い』小説」で、「説教とアクションの配合の妙に、教育的小説『太陽の季節』のバランス感覚があらわれている」作品なのだそうで、実際にはどんな作品なのか楽しみに手に取りました。

個人的には、「太陽の季節」を、我武者羅で自由奔放に、他人や自分自身さえ傷つけることことでしか自己を確認できず生きていた青年が、あまりにも不意に思いも寄らず自分が原因となって大切なものを喪失することになり、「いくらたたいても壊れぬ玩具」を失ってしまって大人になる話として読みました。

同時収録の「灰色の教室」「処刑の部屋」「ヨットと少年」「黒い水」も、どれも同種の危うさを抱えた双生児のような青年たちが主人公で、「太陽の季節」同様、あらすじだけを取り上げると、眉をひそめたくなるような登場人物たちの話のようですが、それぞれの作品にまとわりついている「死」の影が、独特の世界観を作り出しているように感じました。また、どんでん返しとも違った、結末の急展開も特徴的で、読者が主人公の喪失感などの抱えている感情を理解しやすくしているように感じました。

斎藤美奈子さんが『妊娠小説』で、『太陽の季節』のパロディーとしていた三島由紀夫『美徳のよろめき』も気になっています。