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日本語学習者に何が必要か? 学習者目線で考えてみる


今回は、オンライン授業をどのように設計すればいいのかを、学習者にとって何が必要かという視点から考えてみたいと思います。(主に「日本語学校」での授業を想定して書いています)

新型コロナウイルスの影響が長引く中、今まで、ずるずると開講時期を先延ばしにしてきた教育機関も、いよいよオンライン授業の実施に踏みきらざるを得ない状況になってきました。実際にもう始まっている教育機関も多いと思います。

日本語教育機関についても同じことが言えます。特に、現在は外国人が日本に入国できなくなっており、前年と比べて9割減という状況です。

日本経済新聞|外国人の入国者9割超減、3月 中韓など大幅減(2020.4.14 配信)

朝日新聞デジタル|「いつ日本に…」新型コロナ、外国人留学生を直撃
(2020.4.16 配信)

国外への行き来ができない以上、新しい学生の募集活動もままなりません。さらに今後、飲食店やホテルの休業などが全国的に広がっていった場合、留学生のアルバイトの確保も難しくなります。海外渡航を見送ったり、諦めたりして、留学希望者自体が減る可能性もあります。

このような状況を考えると、どのように日本語学校を運営していくのか、目の前に迫った明日の対策だけでなく、もっと長期的な視点で考えていくことも必要になってきています。

さらにいうと、これは、日本語学校経営者だけの問題ではなく、日本語学校の教育方針もポストコロナに向けて戦略を練っていく必要があると思います。今後、どこに出口を定め、どのようにカリキュラムを組んでいくのかを長期的な視点で考え、その上で、今の授業をどのように設計するのかを検討するべき時ではないかと思います。

そんなこともあって、前回のnoteでは、「教師の役割」について考えました。

そこで、今回は、日本で暮らす「日本語学習者」にとって何が必要か、学習者の視点から考えてみたいと思います。以下の3つの観点で考えてみます。
・日本語学習者に必要なものは何かを考える
・学習者が必要なものから教育内容を考える
・授業の設計について考える

目次は下記。

日本語学習者に必要なものは何か

まず、「日本語学習者」について定義しておきたいと思います。
ここでは、「日本で生活するために、日本語を必要としている人」と考えます。海外の学習者を含めてしまうと、対象が広がりすぎてしまうので、ひとまず国内で生活している人を対象に考えてみます。また、留学生と限定した場合、日本語教育機関の守備範囲を狭めてしまうので、ここはあえて、広めに定義します。留学生、また、様々な在留資格で働いている人や日本人配偶者など、長期滞在者を想定しています。別の言い方をすれば、日本に長く住み、定住化する可能性のある人ということもできると思います。

このような「日本語学習者」が日本語を使用する場面とはどのようなものでしょうか。以下に思いついたものを列挙してみます。
・日本語で発信された情報を理解する
・日本語しか話せない人とやりとりする
・生活に必要な手続き等を日本語で行う
・自分が考えていることを日本語で相手に伝える
・相手とやりとりして、なんらかの問題を解決する
・日本語でしか得られない(専門的な)知識・情報を得る
・仕事等で必要な専門的な日本語を使いこなす

他にもいろいろとあると思いますが、ひとまず思いついたものをあげてみました。細分化しようと思えばいくらでもできますが、その場合、個々の状況や場面にも影響されるので、線引きが難しくなります。そこで、なるべく大きな括りでまとめました。

ここにあげたものが全て必要だというわけではありませんし、学習者によっては、あえて日本語使用を避け、日本語を使わないという選択もありだと思います。ただ、日本での生活で日本語が使えるようになったら、もっと可能性が広がりますし、世界も広がるのではないかと思います。(と期待したい)

今回は、私一人であれこれ考えてみたのですが、このようなブレインストーミングを教育機関に属する仲間でやってみるともっと別の気づきが生まれるかもしれません。

私は、「日本語がわからないとできないことってなんだろうなー」という視点で「学習者に必要なもの」を考えたのですが、日本語にこだわらず、やり方を工夫したり、テクノロジーを使ったりすることによって、日本語使用の負担を軽減しながら、ある程度解消できる課題もあるように思います。

必要とするものから教育内容を考えると...

このように「日本語学習者」に必要なことは何かを考え、日本語教育の場でなければできないこと、やるべきことを突き詰めて考えていけば、自ずとこれから日本語教育で何を目指していくべきか、そして、教育機関として生き残るためにはどうすればいいのかを見極めていくことができるのではないかと思います。

例えば、最初にあげた「日本語で発信された情報を理解する」というものを例に考えてみます。

「日本語で発信された情報」と非常に大きな括りにしていますが、人によって、必要としている情報は違ってきます。就活中であれば、就活に必要な情報が必要になってきますし、出産や子育てに直面している人だったら、それに関係する情報が必要になります。子ども、高齢者と世代で分けても、必要な情報は変わってくると思います。それぞれ必要とする情報が異なる以上、多様な学習者の全てのニーズに対して、日本語教育という現場で情報を提供していくのは困難です。

また、今のような緊急事態においては、生活を維持するために、有益な情報にアクセスすることは死活問題です。しかし、私たち自身も、どの情報が正確で信頼のおけるものかという判断が非常に難しくなっています。むしろ、日本語以外の言語にアクセスできる人の方が、正確で幅広い情報にアクセスできる可能性もあります。

このように考えると、日本語で書かれた情報そのものを理解するというアプローチももちろん大切ですが、日本語で書かれたものを理解するためのツールや方法を学習するというアプローチも重要になってくるのではないでしょうか。学習の場を離れてからは、自分自身で必要な情報にアクセスし、あらゆる手段を使って理解しなければならないからです。そう考えると、言語を扱う教室で、言語を理解するためのツールの使い方を含めた方法を、教育内容に取り入れるのもアリではないかと感じています。

従来は、学習者が必要とする言語や場面を想定し、さらにそれを因数分解して、先回りして提示するという教育方法が多かったと思います。しかし、学習者にとって必要なことは何かを考えたとき、学習者自身が理解したいと思うこと、解決したいと思うことを、達成するための方法を学ぶというアプローチも考えられます。

では、どのように授業を設計するのか

では、そのような力を養うために、どのように授業を設計すればいいのでしょうか。ここは、オンライン授業ということを想定して考えてみたいと思います。

オンラインの授業を設計する時、ベースとなるLMS(Learning Management System)は、教育機関によってある程度指定されるのではないかと思います。使用するシステムについて教師が熟知していることは言うまでもありません。使い方については、ネットで検索すればかなりの情報を得ることができます。情報は、日々アップデートされていますから、常に最新の情報にアンテナを張っておく必要があります。あとは、いろんなオンライン勉強会などに参加しまくって、使い慣れるしかありません。(実際に、自分が学習者の立場で参加してみると、いろいろなことが見えてきます)

これは、学習者についても同じことが言えると思います。オンラインの授業を設計するとき、何から何まで学校・教師側が準備、提供するという方向で進められていることが多いように思います。しかし、上記に書いたように、学習者が必要とするスキルを身につけるためには、ある程度、学習者自身も試行錯誤しながら、自分の使い慣れたデバイスを使って、それぞれが使いやすいツールを使いこなしてみるということも必要なのではないかと思います。また、使用するツールについても次々に新しいものが出てきますから、自分で最新の情報を取りに行くことも必要です。

最近は、BYOD(Bring Your Own Device)という考え方も広がってきました。大学でも、企業でも、自分のデバイスを使用して課題や業務を遂行するところも増えてきています。また、実際に、就職して仕事をするようになれば、職場によって、デバイスの使用環境は変わります。唯一無二の環境というのは存在しないわけですから、指定された環境の中で、どのように最適解を見つけていくのかも、学習の一つではないかと思います。

ただ、これまで、
「授業中は、スマホは使用しないように」
という指導をしていたところから、いきなり、
「スマホを有効利用せよ」
という方針に変えるわけですから、これは、教師側にもある程度の覚悟が必要です。

新型コロナが収束したあと、「コロナが収束したので、これからは、スマホの使用はなしね」に戻ることはできないと思うからです。

新型コロナウイルスの影響で、これだけリモートワークが浸透し、在宅勤務も一般的になってきています。リモートでできない仕事もたくさんありますが、それでも、これだけの社会的な変化があれば、テクノロジーの導入は今まで以上に加速すると思いますし、後戻りをすることはないでしょう。

そう考えると、授業のオンライン化は一時しのぎの対策ではなく、長期的に取り組まなければならない必須のものであると思います。つまり、IT機器を使いつつ、教室での授業を行うという、両方の利点を生かしたハイブリッドな授業を設計していく必要が出てくるのではないでしょうか。これは、授業の進め方だけでなく、目標設定やテストなどの評価も含めて考えていく必要があると思います。

例えば、授業中にスマホを使って漢字の読み方や意味を確認するという活動を行いながら、テストの時だけは使用禁止とするのかとか、あるいは、JLPTに合格するという目標だけのために、紙ベースの学習も続けるのかなど、この辺の目標設定や評価に対する考え方によって、授業の設計の仕方も変わってくると思います。

だからこそ、教師の役割、そして、これからの学習者に必要なものは何かを、今ここで改めて考えてみる必要があると思うのです。そして長期的な視野を持ち、徐々に、最終的な目標に向かってシフトチェンジしながら、環境を設計していく必要があると思います。

以上を踏まえ、長期的な視点を持ってオンライン授業を設計するときに大切だと思ったことを以下にポイントだけ箇条書きにします。
・初めから完成形を求めない(=臨機応変に対応できるようにする)
・学習者にも慣れが必要なので、時間的な余裕を持たせる
・IT技術は常にアップデートされていくので、学習環境も常にアップデートする
・学習者自身が所有するデバイスが自由に使えるような設計にする

そうはいっても... オンライン授業の難しさ

そうはいっても、オンラインの授業に戸惑っている教師も多いと思います。しかし、これは、学習者にとっても同じです。学習者自身も今までの学習観から、そう簡単に抜け出すことはできません。「テキストを使った授業をして欲しい」「語彙や文法の解説をして欲しい」と思っている学生も必ずいます。語彙や文法を暗記して、テストで良い点を取るのが勉強で、スマホを使って課題をこなすのは勉強ではないと思っている学習者もいると思います。

しかし、教室での授業と全く同じことを、オンラインだけで実行するのはかなり無理があると思います。教師、学習者双方が教室での授業と同じことを求めて実行しようとしても、不満が残るだけです。

今回のような緊急事態下でのオンライン授業の難しさは、オンライン授業を希望しない人も、オンラインの授業に取り込んでいかなければならないというところです。

また、実際にオンラインの授業を行ってみて感じたのは、オンラインの授業には、学習者の主体的な関わりが、教室での授業以上に求められるということです。どんなにいい授業を提供したととしても、学習者がアクセスしなかったら、何も始まりません。機器の操作に慣れていない学習者に対しては、オンラインだけの説明では難しく、電話をかけたり、直接会ってフォローすることが必要な時もあると思いました。

操作に慣れていない学習者に想定外の時間を費やしてしまい、場がしらけてしまうこともあります。また、授業中も学習者から全くリアクションがなかったら、「わかっているのだろうか」と不安にもなります。学習者自身も、積極的に学習環境を整えたり、場づくりに参加することが必要です。学習者自身にも、シフトチェンジが求められるのです。

そう考えると、この緊急事態は、強引なシフトチェンジを促すことができるチャンスと捉えることもできます。半年後に元に戻る、という一時的なその場しのぎの授業でなく、長期的な視点を持って、シフトチェンジするための準備期間と捉えたほうが、今のこの時間を有効に利用できるのではないかと思っています。

そのために、まず、教師がどのような目標を持って、何を目指すのかを考える必要があると思います。そして、半年後、1年後を見据え、あるべき方向に少しずつ誘導しながら、新しい日本語学校、日本語教育へと進んでいけたらいいなと思っています。

おまけ

実際に、ITエンジニアの学習者が使いこなしていたツールを紹介しようと思ったのですが、長くなってしまうので、別のnoteにまとめます。
後ほど、下記にリンクを貼ります。→貼りました!(2020.04.23)


共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!