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【第17回】満足感のある授業をつくる②学生の「希望の登校・満足の下校」を目指して

~看護教員から教育学者へ~

 ARCSモデルの最終段階にはいり、最後は「S:満足感」と聞き、横田先生が折にふれて口にしている「希望の登校・満足の下校」という言葉が頭をよぎりました。学生が学んで良かったと満足できるよう、日々の授業を行うことは、教育者として目指したい大きな目標です。また、満足感が持てると明日もまた学びたいという気持ちになり、学びが続いていくのだと思います。さらに、学生が学べたという満足感がもてると教員の満足感も高まっていきます。だからこそ、今回の「S:満足感」は難しいけれどとても重要な内容だと思います。
今回もメンバー(横田先生、酒井先生、板倉先生、梅澤)と意見交換したことを梅澤が書いていきます。なお、年明けから板倉先生が出向元の病院に戻りましたが、引き続き一緒に検討していくことになっています。

「ほめる」ときに「状況⇒行動⇒影響」の順にフィードバックすることの大切さ

  ほめることは人の成長を促すためにとても大切ですが、ただほめるだけでは学生は満足しないこともあります。西野先生が書いてくださった「できるようになった点について、状況⇒行動⇒影響の順にフォードバックすることが望ましい」という言葉に大変共感しましたし、早速実践してみたいと思います。
梅澤は、ほめるときには「学生の行動を認める」ことを意識してきましたが、「影響」を含めてフィードバックしていることが少ないと感じました。そのなかでも最近「状況⇒行動⇒影響」を踏まえてほめることができたかもしれないと思った出来事があります。それは、学生が卒業前に書く「私の看護観」のレポートを添削したときのことです。
1か月前、その学生は実習の臨み方について課題があったため、複数の教員がかかわり指導をしていました。なので、どのようなレポートが出てくるのか心配だったのですが、学生自身がこれまでの実習の臨み方を振り返り、今後どのように看護をしていきたいかを自身の課題を含め、自分の言葉でわかりやすく記載していました。短期間で、ここまで成長できたのかと嬉しくなり「実習の臨み方について適切に振り返ることができたからこそ、このレポートが書けたのだと思います。これまでの〇〇さんの経験を踏まえて、〇〇さんの大事にしたいこととこれからの課題が具体的に分かりやすい表現で書かれていますので、とてもよいレポートが書けたと思います」と伝えました。これは「状況⇒行動した結果」を示す内容であったと考えます。
さらに「このレポートは、これからの〇〇さんの看護師人生を支えてくれるレポートになると思います。大事に保管して、折に触れて見るようにしましょう」と伝えました。これはレポートがこの学生に今後与える影響を示唆した表現になっていたのではないかと思います。学生は満足した様子でしたし、私が強いて挙げたレポートの改善点についても意欲的に取り組もうと行動し始めました。今後も「状況⇒行動⇒影響」を意識して、学生にフィードバックしていきたいと考えます。

公平性を担保することの難しさ

学生が評価の公平性を感じられないと、目標達成に向かい努力をするのではなく、先生の顔色を見る努力をしてしまうということは実際にあると思います。そのため、公平性を担保するためにルーブリックを活用することが重要であることは十分に理解していますが、あまり取り入れられていないのが現状です。
過去に臨地実習の評価としてルーブリックづくりに取り組んだのですが、うまくできませんでした。特に、評価の尺度(基準)を表現するのが難しかったです。例えば、素晴らしいものを「自力で実施できた」、ダメなものを「指導を受けても理解できなかった」というように、指導の多さ少なさで表現してしまいました。臨地実習において、指導を受けなくてもできることを学生に望むのは、求めるレベルが高すぎると思いますし、目標以上に学びを得るためにも指導は必要だと思います。このような感じで行き詰ってしまい、学生が公平感を感じられるような評価の尺度を作ることができなかったという苦い経験で止まっています。
現在、臨地実習のルーブリックは作成できていませんが、実習中に教員は学生とともに実習目標を振り返り、これができているからB評価のレベルに達しているけれど、あとこんなこともできるとA評価のレベルになるよ、などと伝えています。それだけでも学生は納得する様子が見られます。このような学生とのやり取りを文字化していくことができれば、ルーブリックになっていくのかなと思います。
ここで、西野先生があげてくださったルーブリックを作成する際のアドバイスについて、2つ質問があります。
①評価の観点について、既存のものをみると、用言止めで書かれているものもあれば、体言止めで書かれているものもあります。どちらでもよいのでしょうか。
②「特別加減点欄を作る」というのはどういうものでしょうか。またどんな場合に活用するのか、具体的に教えていただけると嬉しいです。

授業設計モデル「ARCSモデル」は、「ARC」のあとが「S」なのは意味があると思う

以前にARCSの順番には意味があるのか西野先生に質問させていただいたことがありましたが、今回、メンバーと意見交換をするなかで、この順番には意味があるのだろうと確信しました。その理由は、今回は「S:満足感」がテーマですが、意見交換の際、これまで学んできた「ARC」に関することと絡めながらの話になっていたからです。そこでこう考えました。「A:関心、R:関連づけ、C:自信」への教育的なかかわりがあったうえで「S:満足感」は成り立つのではないかと。
そのように考えるに至った話し合いについて2つ紹介します。

1)「A:関心」+「R:関連づけ」が「S:満足感」につながる
 当校の授業は1回が90分間です。板倉先生は、その90分間の授業で今日は何を学ぶのか、どういうことをするのかが事前にわかっていないと満足感は得にくいのではないかと考えています。そこで、前回の授業の最後や今回の授業の始めに、今日の授業で何をやるのかを丁寧に説明しています。このことにより、学生が授業への「A:関心」を寄せることができます。そして学生が関心を寄せて授業で学んだことを臨地実習で担当した患者さんに「R:関連づけ」て理解ができると「S:満足感」につながるのではないかと考えました。

2)「R:関連付け」+「C:自信」が「S:満足感」につながる
 酒井先生は周術期看護(手術を受ける患者さんへの看護)の実習指導を担当しています。周術期看護の対象となる患者さんは、病気を治すために手術を受けますが、手術に伴い合併症などのリスクも生じます。そのリスクは退院したらすべてなくなるわけではなく、退院後も患者さんが気をつけて生活しなければならないことがあります。それを患者さんに理解してもらうために、患者さんの退院後の生活を踏まえた上で注意点を伝えること(退院指導)は周術期看護において大切な看護の1つです。
 学生の受け持ち患者Aさんは、高齢でしたがショッピングセンターでカートを運ぶなど力仕事をして働いていました。手術をしても再発の可能性はあるため、手術後は腹圧を強くかけないようにするために、重たいものを持たないようにと医師から言われていました。そのように説明を受けたAさんは「年も年だから仕事は辞めてもいいんだよね」と言っていました。学生は酒井先生からアドバイスを受け、重いものを分割して運ぶようにするなど工夫をすれば負担が減らすことができ、仕事を継続するという選択肢をAさんがもてるようになるのではないかと考えました。学生は「Aさんが再発予防策を理解できる」という目標を立て、強い腹圧をかけない方法を指導することにしました。これは、ARCSモデル「R:関連付け」のヒント4「目標と関連づける」ことであったと考えました。
 このように学生が患者さんへの指導が必要であると考えた場合、教員はそれが実践できるように病棟スタッフと調整をします。学生は目標が達成されるような内容や方法を考えますが、いきなり患者さんに実施するのではなく、事前に練習をします。今回は、酒井先生が患者役になって、学生に練習してもらいました。このような関わりは、「C:自信」のヒント8「成功の機会を与える」であったと考えました。
 酒井先生は、練習後だけでなく患者さんへの指導後も、うまくいったこと、もっとこうすればよかったことなどを、学生に述べてもらいました。このように学生が自己評価をするとともに、酒井先生も学生にフィードバックをしました。そのフィードバックにより、成功したこと、上手くいかなかったことが学生の中で明確になっていきました。この関わりにより学生は、ヒント10「成長を実感する」ことができ、それが学生の満足感につながっていくと考えました。

ARCSモデルを使いこなすにはどうしたらよいか

 ARCSモデルの内容や、「S:満足感」の前提に「ARC」があるということがわかってきました。しかし、自分たちの行っている教育活動が12のヒントのどこに該当しているか考えたり、自分の特に気になるヒント(私の場合はヒント4目標と関連づける)を頭に置いて日々の教育活動を行ったりするレベルにとどまっています。
 「希望の登校・満足の下校」を目指すために、ARCSモデル全体を踏まえて活用するコツがありましたら教えていただきたいです。

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