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Prologue

兄上。私には双子の兄上がいる。名前はない。誰も彼を呼ぶことがないからだ。私も話をしたことはないが、たまに見に行く。寝ている姿を。

黒く染められた絹糸のような長い髪。尖った耳には白金の小さいリングが1つ。一糸まとわぬその肢体は白く淡く光る。その背中には漆黒の翼が生えている。目があうことはないので、さだかではないが、瞳は夜の月明かりで出来る影のようだと聞く。

彼が寝ている間は私が起きていて、私が寝ている間は彼が起きている。彼が寝ていて私が起きている間は、世界が始まりその安定に務めている。私が寝ていて彼が起きている間は、世界が滅亡しすべてが無に帰す。 故に彼を呼ぶ者はいない。名前はない。ただ兄上という存在があるだけ。

長い、長い眠り。薄桃色の中で夢と現の間を楽しんでいた。誰かが向こうの廊下から歩いてくる気配がする。怖い感じはしない。優しい暖かな光の中で微睡んでいる。誰かはわからない、が、そばまで来て私が寝ているのを見つめている。そっと頬を手で触れる。なでるように顎に手を添えると顔を上に向かせて口づけをした。と、そこで目が覚めた。夢?だったのだろうか?それとも現実だったのだろうか?唇の柔らかな感覚だけがその真実を証明している。

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