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戦略の鍵は路上駐車⁈ 中国EVメーカー「NIO」のバッテリー交換式サブスクリプションモデルはヨーロッパで普及するのか?

今回は、中国のEVメーカー「NIO」がヨーロッパでバッテリーが交換可能なEVとバッテリーのサブスクリプションサービスを展開するというニュースを戦略ループで紐解きます。

まず、NIO(ニオまたはニーオ)という名前を初めて耳にした、という方も少なくないかもしれません。NIOは中国の新興EVメーカーで、高級EVを中心に展開をしています。以下が公式サイト。

NIOは海外展開も積極的に行なっているのですが、今回のニュースは、ヨーロッパでもサブスク型のバッテリー交換式EVを普及させる戦略に出たという内容です。

それで、どうやってバッテリーを交換するのか、ということなんですが以下の動画を見ていただくのが早いかもしれません。

「NIO Power Swap Station(ニオ・パワースワップ・ステーション)」と呼ばれるこの施設で、NIOの電気自動車のバッテリーをごっそり交換することができるわけです。

バッテリー交換式は、充電式と比較して圧倒的に短時間。「充電に時間がかかる」というEVのデメリットを解決する方法です。一方で、バッテリーステーションの整備には大きな予算が必要になります。

ということで、大規模投資を伴う今回の戦略について図解で紐解きたいと思います。

ここからは例によって「戦略ループ」という手法で戦略を説明します。ループ図の読み方については、以下の記事を参照ください。

まずヨーロッパの状況ですが、欧州グリーンディール政策として2035年までに内燃機関(ガソリン、ディーゼルなど)の新車販売を禁止するという方向で動いていいます。


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各国のメーカーは電気自動車の開発を急いでいますし、ヨーロッパでのEV化率が今後さらに高まるのは間違いないでしょう(上図「欧州EV化率」)。

ヨーロッパで電気自動車の販売台数が増えれば、当然ながら利益を生産投資に回すことができ、さらに品質の高い電気自動車を市場投入できるようになるでしょう(上図、青色ループ)。これはNIOに限ったことでなく、各社同じです。

そして今回NIOが取り組んでいるのが、バッテリー交換式のサブスクリプションモデルという、まだ多くの消費者に馴染みのない販売方法です。

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このバッテリーのサブスクモデルでは、従来のEVメーカーの生産販売というビジネスに加えて、バッテリーステーションを起点としたビジネスモデルのループが加わります(上図、青色の拡張ループ)。

電気自動車としてはバッテリー除く本体部分のみを販売し、バッテリーは月額課金制で交換を行います。

利便性を高めるためにはバッテリーステーション数も増やさなければならない(上図、中央)。この戦略をとるEVメーカーは、負担も大きく不利になります。

でも、筆者はヨーロッパなら意外とうまく行くのでは?と思いました。

その理由は、ヨーロッパの路上駐車文化です。

以下のような記事を見ていただくとわかるんですが、ヨーロッパでは路上駐車できる場所が多い。

ヨーロッパは古い街並みも多く、自動車が普及する前のライフスタイルが前提になっています。つまり自動車を駐めることを想定していない作りの住宅が多いのです。だから路上駐車をしてしまう。

しかしこの路上駐車文化は、バッテリー充電式のEVには不便な環境です。路上から一本一本ケーブルを引き出してEVにつなぐのか、というと無理があります。

そこで選択肢として入ってくるのが、今回NIOが普及させようとしているような、バッテリーステーションとバッテリー交換式の電気自動車です。

この組み合わせは、ヨーロッパの路上駐車文化の影響は受けにくい。むしろ、現状のライフスタイルとの置き換えが簡単なほどです。

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EVを路上駐車しなければいけない状況が変わらなければ、多くのEVメーカーにとっては不利な状況が続きます。路上駐車は充電式EVの販売台数の押し下げ効果を生みます(上図、赤い点線)。

一方で、バッテリーステーションが整備され、バッテリー交換の利便性が確保できれば、路上駐車文化は追い風となります(上図、赤い実線)。

通常は路上駐車しておき、消費者の好きなタイミングでバッテリー交換をする使い方が可能であれば、利用者が増えるでしょう。

そしてNIOのバッテリー交換式の安価なEVも売れる。EVのコストの多くはバッテリーであり、本体価格から取り除くことができれば、かなり安くなる。競合に対しての価格優位性を得ることができます。

…ということで、バッテリー交換式EVのビジネスモデルは、これまであまり注目されていませんでしたが、ヨーロッパの環境を考えれば良い戦略と言えそうです。

この戦略が世界各地で通用するわけではありませんが、今後EVの主戦場となるヨーロッパや中国では普及する可能性が高いビジネスモデル。今後の動きにも注目していきたいですね。

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