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路地が好き

路地が好きだ。
見知らぬ町を歩くのもいいけど、通勤や配達でいつも通ってる道を歩いてみるのも面白い。私は、よく蒲郡市の平坂街道って細い道を通るんだけど、ココは細い路地が多くって。
JR東海道本線で三河大塚駅まで行って、その周辺を歩いてみたことがある。
ミカン畑と、比較的新しい住宅地。それに昔からある工場やお屋敷。結構デカい。
年季の入ったマンションやアパートもある。
新幹線の線路がドーンと通ってて、JRの線路もあるので山側と海側を行き来するのにはちょいと跨線橋を渡ったり、坂道を登って踏切を渡ったりする必要がある。

昧耶稲荷という小さなお稲荷さんの赤い鳥居を目指して坂道を上る。振り返れば三河湾とふもとの町。蒲郡市は海と山の町なのだというのが、良く見渡せる。
天気がいいと渥美半島や西浦の方まで見渡せそうだ。
冷たい風が吹き抜けていく。でもお稲荷さんの祠の前はあたたかくて、風もあまり吹かない。
いいところに作ってあるのか、風向きのせいなのか。

お参りをして坂道を下りてゆく。なんとなく気になったとか、クルマが来てるから、とか言う理由でどんどん細い路地を行く。上がったり下がったりするので、少し歩くだけでも結構な運動をした気分になる。
一度、表の23号線まで出てみる。大型トラックもトレーラーもバンバン通る、万年渋滞か工事をしている、正直に言えば嫌いな道路だが、歩いているとそんなことも関係ない。
汗ばんだ身体を排ガス臭い風が撫でてゆく。
また適当に細い道を見つけて登ってゆく。23号線の向こうは海と埋め立て地だから、此処まで来ると駅の方へ戻るには登るしかない。
平坂街道を走っていると、よく高校生がワラワラと歩いている坂道がある。駅まで続く道は歩道も無く危ないところがあるから、コッチを歩けと言われているのだろう。みんな素直に歩いている。あそこを朝に夕に歩くのが、彼ら彼女らの青春だったり、辛い思い出だったり、塩辛い黒歴史だったりするのだろう。

男同士、女の子同士、男女、グループ、ひとり。色んな奴等が居る。
ワーキャー言って歩いてるんだか騒いでるんだかわからない奴等を縫うように歩く、俯きがちな子が目に留まるのは私の育ちのせいだ。

郵便局の角を真っすぐ抜けて、新幹線の線路沿いに歩く。高架の下が薄暗い公園になっていた。古い遊具、ペンキが少し剥がれている。町工場にトラックが入る。一度、高架を潜って古い作業場や選果場の前を通って、また潜る。
細い路地というより、隙間のような空間。その盾に細長い空の向こうに小さな喫茶店の看板とパトランプ、それに三河大塚駅のロータリーが見える。

いまどき硬券の切符を自販機で買い求める。別に通学もしなきゃ通勤もクルマだし、たまに出掛ける時にしか鉄道に乗らないから……というのと、割とこの切符という代物が好きなのもある。角が硬くてツンツンしてるのを、指の腹で何度も確かめてしまう。
ホームの日当たりのいいベンチに腰掛けてボケタンと電車を待っていると、ワラワラと高校生がやって来た。テストか何かあったんだろうか。まだ昼前だ。

やがて青くて爽やかな喧騒に包まれたホームで小さくなって座っていると、電車が遅れているとアナウンスが流れる。青くて爽やかな喧騒、と書きたくなるだけあって、その一瞬だけちょっと話し声が小さくなった。育ちのいい子たちなのだろう。
自分が高校生の時なんか、プロレスと柔道と少林寺拳法のことしか考えてなかった……ウソそれと女の子のことばかり考えていた。1:9ぐらいで。
ほぼ女の子じゃねえか。

そんな薄汚れた高校生活を送っていたせいで、いい年になってからただ高校生の多い駅のホームで座ってるだけなのに肩身が狭い。
やがて目の前に滑り込んで来た普通列車豊橋行きを追いかけるようにして先頭車両まで行って座る。階段下は高校生の成分が濃すぎる。混んでる電車は先っぽか尻尾の方に行けば意外と座れるときもあるのだ。
昼前で、高校生のラッシュだけを避ければ他に乗客は殆どいなかった。
愛知御津、西小坂井と来て、すぐ豊橋だ。

歩くのもいいが、近場まで乗ると、もっと電車に乗りたくなるな。
2時間は乗らないと物足りない。別にもっと長くてもいいが。

そんで車窓から見つけた路地を、また歩きに行けたらいいなと思う。

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