[1月第3週] Weekly DAO Report Vol.53| 自民党のDAO提言 マーシャル諸島のDAO法と同じくらいクリプト民から称賛されるために何をすべき?
自民党web3PT「DAOルールメイクに関する提言」が審議会で了承された。自民党の平将明議員が提言の内容を公開した。本稿では、2022年2月にDAOを法人として認識した最初の国と言われるマーシャル諸島のDAO法と比較して解説する。「ネットワークステート」で有名なバラジ・スリニバサンもマーシャル諸島のDAO法を称賛しており、世界のクリプトプロジェクトの支持を得るには日本のライバルと考えてもおかしくないと考える。
前段①: 今回の自民党の提言について、概ね議論の対象となっている点はマーシャル諸島のDAO法とずれていない印象だ。また「DAOの目的だけでなく、運用形態も、DAOごとに大きく異なる」ことを認め、「DAOに関するルールメイクを検討する際に、あらゆるDAOに適用される包括的・画一的なルールを設定することは困難であり、また、適切でもない」と述べたことは賢明だったと感じる。自民党は、現状、合同会社を利用したDAOを実現するためのルールメイクの提言する。
前段②: 前段①で述べたようにDAO法に関する議論の対象はずれていない気がするが、DAOが何の課題を解決するのか認識については筆者としてはずれを感じざるを得ない。自民党の提言では以下の一文が書かれている。
どんな課題を解決したいのか?これはDAO法制化を進める上で大事な観点だろう。日本における人口減少や少子高齢化は大問題だ。それらが表面化していて苦しむ地方をサポートしなければいけない理由も分かる。日本のアニメやゲームのIPを世界にアピールしていきたいのも分かる。しかし、それらは「オンチェーン・エンティティ」が解決する問題だろうか?
オンチェーン・エンティティとは、国籍など関係なしでインターネットを介して集まった人々が共通の目的のために作るエンティティだ。上記のYouTubeの中でばらじも繰り返し述べていた言葉だ。本来、DAOはそこにフィットする概念である。筆者は、DAOとは、日本の伝統的な産業の保護や地方創生などのいわば国内問題という、少なくとも日本人にしか共感できない問題を解決する手段ではない気がするのだ。この点、不可能なことではないとは思うが、日本のことをあまり知らない外国人に「自分ごと化してもらい問題視してもらうこと」が必要になると思う。このハードルは高そうだ。
あと、「大きな成果」とは具体的には何を指すのかも疑問だ。
マーシャル諸島のDAO
マーシャル諸島は、太平洋に浮かぶ島国で、ハワイとオーストラリアの間に位置する一群の小さな島々。米国の親密な同盟国。国連にも加盟するれっきとした国家だ。
マーシャル諸島は、2022年2月 DAO(分散型自律組織)を法人として認識した最初の国となった。以来、約100のDAOを法人化してきた。2023年10月に法律改正し、更なるDAOサポートの姿勢を明確にした。コインデスクによると、以下のような特徴がある。
DAO登録時間は、最大30日。
登録はMIDAOから可能。ペーパーワークはなし。 登録代理人として雇う必要があるが、DAOまたはDAOの指定されたメンバーは、地元で登記をしたり、地元の法律事務所を雇ったりする必要はない。
DAOがオープンソフトウェアを作成したからといって、その責任を負うことはない。
ほとんどのガバナンストークンを証券認定せず。
取締役が不要で、一人を除いて全員匿名OK。匿名でない人も、マーシャル諸島にいる必要はないが、KYCをする必要あり
ご覧の通り、かなり攻めた内容だ。バラジ・スリニバサンがMIDAO創業者とマーシャル諸島の政治家を呼んで質問をした動画では、彼らは以下の点がDAOが既存の法律と付き合う上で抱える悩みだと述べている。
Requiring all members to disclose real names & physical addresses (全てのメンバーに対して実名と住所の公開を要求)
Requiring traditional boards and management teams (伝統的な取締役会と経営陣を要求)
Requiring paper records (紙での記録を要求)
Enforcing dated securities laws (古い証券法の適用を要求)
Not allowing critical functions to be performed on-chain (オンチェーンで重要な機能の履行を許可せず)
MIDAO創業者が、上記はグローバルのDAOでは誰もが嫌がる条項であり、マーシャル諸島のDAO法は「上記の時代遅れの条項」を要求しないことを目指したと言っていたのが印象的だった。日本におけるDAO法制化は道半ばではあると自民党も認めているものの、マーシャル諸島の既存の法律の制約にとらわれない姿勢に学ぶべきことがあるのではないだろうか。少なくとも「Web3で勝つ」ことには、それくらいのことが求められているように思う。
前提①で述べたように、自民党の提言の内容は議題としてはずれていないと考える。(こちらはあくまで筆者の私見であり、詳しくは法律の専門家と確認してください。)とりあえず合同会社の枠組みでDAOの普及を図りたい意向は分かったが、グローバルのDAOからすればマーシャル諸島のDAOの法整備の方が魅力的だとと感じざるを得ない。例えば、1の「全てのメンバーに対して実名と住所の公開を要求 」に関しては、自民党の提言は以下のように述べている。
こちらは匿名性に関する記述であり、自民党の提言では以下の部分が該当するのではないだろうか。マーシャル諸島のDAO法では、「取締役が不要で、一人を除いて全員匿名OK。匿名でない人も、マーシャル諸島にいる必要はないが、KYCをする必要あり」となっている。日本は、検討事項である上、KYC済みのウォレットという手法である点、KYC済みのウォレット載せるのが全ての社員を対象にしている点が異なる。この他、DAOが管理するオープンソフトウェアの責任の所在をどうするのか?ガバナンストークンの法的な位置付けはどうするのか?マーシャル諸島の方が明確な解を持っている印象だ。
Web3 = グローバルでは?
そもそも今回の自民党の提言について、国内のメディアは取り上げているものの、筆者が知る限り英語でニュース化されていない気がする。さらに、バラジ・スリニバサンという、クリプトの思想部分で大きな影響力を持つ世界的なインフルエンサーに好意的に取り扱ってもらったマーシャル諸島は、グローバルにおける認知度の向上という意味で大きな一歩を進めた。日本も、英語での発信を積極的に行い、グローバルのDAO議論に参加し、自民党の関係者がバラジ・スリニバサンのポッドキャストに呼ばれるぐらいのことをしなければならないのではないだろうか。
トレジャリーデータ
DeepDAOによると、1月22日時点でDAOトレジャリーの総額は306億ドルと前週と同額だった。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が259億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が44億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は990万人で、アクティブDAOユーザーは300万人だった。
著者:大木 悠 (Hisashi Oki)Head of Asia, dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月よりdYdX FoundationのJapan Lead。2024年1月より現職。
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