【3月第3週】DAOレポート Vol.10
イントロダクション
最近の銀行業界の相次ぐ破綻や買収報道を受けて、分散型社会は一気に進むのだろうか?業界屈指の起業家は、Yesとみているようだ。この起業家は、2023年6月15日、ビットコインは100万ドルに到達することに賭けた。
銀行の破綻と規制の失敗からビットコインが90日後に100万ドルになると予想したのは、元コインベースのCTOであるバラジ・スリニバサン氏だ。同氏は、Twitter上で2名に対して、90日後に1BTCを受け取る代わりに100万ドルのUSDCを送ると約束した。
同氏は、現在の金融業界の危機は中央銀行と銀行、規制当局のせいであると主張し、さらに問題なのは、シリコンバレー銀行の一件で明らかになったように、彼らがグルになって銀行の破綻を預金者から隠していたことだと指摘。そして、今後2兆ドルの印刷が行われる結果、米ドルがハイパーインフレーションになると予想した。
現在2万8000ドル付近で推移しているビットコインは、35倍上昇することになる。
同氏は、「1945年にハンガリーでは物価が15時間で2倍になった」と紹介し、「デジタル時代においてハイパーインフレーションはかなり速く進行する」と予想した。
なかなか俄に信じられない予想だが、もし本当に現実となれば、それはディストピアでカオスな世界への突入を意味すると心配する声もある。ハイパーインフレーション、取り付け騒ぎ、資産差し押させ、米国の没落、中国の台頭、そして戦争・・・。ビットコインを持つ者と持たざる者の間で格差も広がるだろう。そして、世界は終焉を迎えてしまうかもしれない。
一体、人々はどこに行けば良いのだろうか?
実は、バラジ・スリニバサン氏には、Network States(ネットワーク・ステーツ)というブロックチェーン基盤の仮想国家の創設者という顔もある。ネットワーク・ステーツは、現実世界から決別した全く新しい世界を作り上げるという構想だ。そこで生きる人々は「偽名(pseudonymity)」を使う。新しい自分の誕生であり、腐敗した現実世界からの脱出を意味する。匿名ではないところが肝であり、偽名には過去の行動に対する評価やデータが紐づく。分散型ID構想と近いコンセプトだ。
同氏にとって、ビットコイン100万ドルが意味する分散型社会の進行とは、現実世界における世直しの機運が高まることではなく、現実世界をあきらめて「新しい世界」に脱出する人が増えることを意味するはずだ。この違いは重要だ。そして、DAOとは現実世界のためにあるのか、新しい世界を見据えたイノベーションなのか、バラジ・スリニバサン氏の賭けをきっかけに一考する余地があるだろう。
今週のDAOニュース
【3月14日】ビットコインの分散型取引所「Alex」、250万ドルを調達
ビットコインの分散型取引所「Alex」が250万ドル(約3億2500万円)の資金調達を達成した。
スタートアップでは珍しく、女性メンバーが中核で活躍する分散型取引所Alexでは、ビットコインのウォレットをプラットフォームに接続し、スワップやステーキングが可能になる。
資金を投じたTrust Machinesは、現在、ビットコインのNFTやビットコインのユースケースの可能性をめぐりビットコインに注目が集まっているとした上で、Alexはビットコイン関連DeFiをリードすると期待している。
【3月15日】Uniswap、BNBチェーンのトークンをスワップ可能に
分散型取引所のUniswapは、BNBチェーンのサポートを開始した。これにより、BNBチェーン上のトークンのスワップが可能となった。
2023年2月にUniswapはBNBチェーンサポートをめぐって議論と投票が行われていた。
BNBチェーンはイーサリアムチェーンと比較して、取引スピードが高速かつ手数料が安い傾向にあることから、ユーザー体験の向上が期待される。
【3月17日】アービトラム、独自トークンエアドロップとDAOへの移行を発表
イーサリアムのレイヤー2ソリューションであるアービトラムが、3月23日に独自トークンARBをエアドロップし、正式にDAOに移行すると発表した。
エアドロップの基準は、過去のアービトラム上での取引数や使用したアプリの種類、使用期間となっている。2月時点でスナップショットが撮られて、基準を満たすユーザーにエアドロップされる。
ARBはガバナンストークンとして機能し、保有者はアービトラムプロトコルの今後の方針をめぐる投票に参加できる。
【3月17日】LinksDAOの投票可決で、スコットランドのゴルフコースを購入へ
DAOが運営するゴルフ関連のスタートアップ組織「LinksDAO」は、スコットランドのゴルフコースを買収し、オーナーとなった。
LinksDAOはゴルフコース買収に関する投票を開催し、88.6%の賛成票を獲得して可決。
現在、ゴルフコースに関するメンバーシップ構造の詳細を検討中である。
【3月18日】Eulerプロトコル、盗まれた2億ドルのうち540万ドルが返金される
3月13日、分散型レンディングサービスを提供するEulerプロトコルが、ハッキング被害に遭い1億9700万ドル(約256億円)の資金を盗まれたことが判明した。
Eulerは、ハッカーに木曜日までに盗んだ資金の90%を返金することを要求した。
期日としていた木曜日までには、ハッカーからの応答がなかったものの、土曜日に540万ドル相当(約7億200万円)となる3000ETH返金された。なお、残りの資金が返金されるか不明である。
【3月19日】DeFiデータプラットフォームのDefiLlamaで内輪揉め フォークへ
DeFiLlamaの未来をめぐって従業員の間で争いが起こっている。
開発者0xngmiは「我々が望まない形でトークンのローンチが行われようとしている」とし、関わりを持ちたくないためフォークをすると述べた。
米仮想通貨メディアのThe Blockに対して「内部で友好的に解決する」という声明文を送った。
注目のプロポーザル
① Uniswap、「Community Proposal Factory」採用を提案 - Introducing the Community Proposal Factory
提案 / 投票(未定)
要点
DeFiおよびゲーム関連企業に特化したリサーチ・開発会社であるGFX Labsは、ガバナンスへのプロポーザル(提案)のしきい値を引き下げるUniswap専用のシステム「Community Proposal Factory(CPF)」採用を提案。
現在、Uniswapの提案には1500万ドル(約19億5000万円)相当となる250万 UNIの保有が必要であり、基準を満たし提案することが可能なアドレスは、わずか35件である。
CPFは、セキュリティ面でのリスクを高めることなく、提案へのハードルを下げるため、民主化への大きな一歩となると期待される。
② Maker DAO、米国債を追加購入の提案 - Increase Debt Ceiling for MIP65 by 750M to 1,250M
提案 / 投票(3月16日終了済み)
要点
ステーブルコインDAIを発行する分散型プロトコルMaker DAOは、7億5000万ドル(約975億円)のUSDCを使用して新たに米国債を追加購入する案を可決した。
シリコンバレー銀行の破綻により、DAIを含む複数のステーブルコインの価格が1米ドルを下回るディペッグが発生したことが本提案の背景とされている。
現在のMakerのポートフォリオでは、5 億ドル分の米国債を保有しているが、この提案の可決により、150%増額の12億 5000万ドル(約1625億円)へ引き上げる。
③ Uniswap、Avalancheのサポートを提案 - Deploy Uniswap V3 on Avalanche
提案 / 投票(テンパーチャーチェック3月17日終了)
要点
分散型取引所のUniswapは、先日V3でBNBチェーンへのデプロイを実行したが、今回新たにAvalancheへのデプロイ(展開)が提案されている。
背景にあるのは、4月1日にUniswapのビジネスソースライセンスの有効期限が切れること。これにより、第三者がUniswap v3を複製し、商用目的で利用する権利を有すことになる。
現在、拘束力を持たない投票であるテンパーチャーチェックが完了し、91.26%が賛成に票を投じた。
過去のBNBのデプロイでは、ブリッジプロバイダーの選出が波紋を呼んだが、Avalancheのデプロイにおいても単一のブリッジ採用が提示されている。
④ Aave、USDC関連の緊急対応振り返り- Aave Resilient Through USDC Volatility
提案 (ディスカッション)
要点
暗号資産の分散型レンディングプロトコルであるAaveは、先日USDCの価格が下落した際、30万ドル(約3900万円)の債務超過を記録した。
3月11月に、プロトコルの一時停止を推奨する提案がなされたが、プロトコルを一時停止するリスクを考慮し、実行されなかった。
結果として、USDCの価格が回復したが、仮に80セントで安定した場合約100万ドル(約1億3000万円)の債務超過となった可能性がある。
話題のTweet
2023年のハッキングされたプロトコルのカレンダーがこちら。
2022年を振り返ると、ほぼ毎月ハッキング被害が・・・
データ振り返り
トレジャリー総額
DeepDAOによると、今週のトレジャリー総額139億ドルの内訳は、流動性のある資産は105億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は34億ドル(Vesting)だ。前週比で、20.8%増加した。 アクティブDAOユーザー数は、前週と同数の180万人、ガバナンストークン保有者数は、650万人だった。
オススメの読み物
①「DAOの憲法には度重なる修正が必要」 “Iterative Improvement to the DAO Constitution “ by Bankless DAO
最近、Makerなど多くのDAOで憲法(Constitution)作成の動きが活発になっている。仮想通貨メディアのBanklessでも憲法(The BanklessDAO Constitution & Community Handbook)の草案が提案されているのだが、DAOにとっての理想の憲法の姿とは何かはまだ定まっていない。とりわけ課題であるのが「曖昧な箇所の多さ」だ。例えば、「グラント(助成金)の配分を決めるメンバーをRecallするためには51%以上の票が必要」とは何を意味しているのか?英語の使い方を含めて曖昧な箇所が多すぎるという。また明文化されないまま暗黙の了解で進んでいる事項もある。DAOの憲法は、議論を通して修正に次ぐ修正の繰り返しで形作られていくのだろう。