見出し画像

【3月第1週】DAOレポート Vol.8

イントロダクション

先月、分散型レンディングプロトコルのAaveのDAOが、デリゲートに対して3ヵ月で最大3万ドル(約400万円)の報酬を支払うパイロットプログラムを立ち上げた。

(出典: Aave DAO「デリゲートパイロットプログラムの報酬額」)

デリゲートは、ガバナンストークン保有者が個人・組織に対して投票権を委任(デリゲート)する制度を指す。投票率やエンゲージメントの上昇が課題のDAOガバナンスにとって、デリゲートは期待されている手段の一つだが、報酬制度が決まっていないDAOは多い。老舗のDeFi系DAOであるMaker DAOは、一月最大1万2000ドルの報酬をデリゲートに付与する提案を通したが、他のDAOがどう動くのか今年の注目点となっている。今回、AaveのDAOでデリゲーとパイロットプログラムを主導するのは、Butterと呼ばれるDAOガバナンス専門プロトコル。報酬対象となるデリゲートは投票で選ばれ、報酬額はステークされたAaveの額によって変化する。3ヶ月のパイロット期間を経て、DAOの投票率などに対する効果が確認できたら、本格的に導入する構えだ。一方、UniswapのDAOでは、外部プロジェクトとのコラボレーションについてDAOに対する説明を担当する説明責任委員会の創設が提案され、5人のメンバーを選出。DAOのトレジャリーから、6ヶ月の固定給の支払いのほか、案件ベースでも支払いを行う。DAOは、ボランティア主導の時代からプロ主導の時代に着実に移行している。

今週のDAOニュース

【2月23日】Optimism、複数のチェーンをネットワークに統合する「スーパーチェーン」構想を発表

  • イーサリアムのレイヤー2ソリューションのOptimismは、複数のチェーンをネットワークに統合する「スーパーチェーン」構想を発表した。

  • イーサリアムのさらなる発展には、インターネットレベルのスケールが必要だが、現在それを提供できる単一のチェーンはない。Optimismは、多数のチェーンを構築するのではなく、一つのネットワークに統合することを目指す。

  • スーパーチェーンの使用例として、コインベースの新しいL2ブロックチェーン「Base」をあげた。

【2月28日】規制遵守を目指すDeFiサービスのHashnoteが6億5000万円の資金調達

  • 機関投資家向けDeFiサービスを目指すHashnoteが、500万ドル(約6億5000万円)の資金調達を行なった。

  • Hashnoteは、DeFiプラットフォームであるが、KYC(個人情報確認手続き)等の規制に準拠した第3者組織が預かった資産の取引を担う。

  • 創業者兼CEOのLeo Mizuhara氏は、金融機関はDeFiにアクセスするために完全に規制されたKYCプラットフォームを求めているとした上で、「(暗号資産業界が)前進する方法は、伝統的な金融とDeFiとの間のギャップを埋めることが必要である」と述べた。

【2月28日】Illuvium DAO、3ACの共同創設者Su Zhuのゲームイベント参加を阻止

  • NFTゲームプロジェクトIlluviumのDAOは、暗号資産ゲームイベント「Influencer Illuvitars D1sk Battle」への暗号資産ヘッジファンドThree Arrows Capital(3AC)の共同創設者であるSu Zhu氏参加を阻止した。

  • 3ACは、昨年7月に破産し、数十億ドルを超える負債を持っている。

  • Illuvium評議会のメンバーは、Su Zhu氏はweb3コミュニティで有名な人物であるが、Illuviumの評判を損なうリスクがあるとしてイベント中止を提案し、3月1日に可決された。

【3月1日】Polygon、ゼロ知識証明を使用したIDサービスを発表

  • イーサリアムのレイヤー2ソリューションPolygon(ポリゴン)は、ゼロ知識証明 (ZKP) を使用した分散型のIDサービスをローンチした。

  • ゼロ知識証明とは、証明者が検証者に、 自分の主張が正しいことを伝える際、主張が正しいこと以外に何の情報も伝えることなく証明できることである

  • PolygonのIDサービスは、ユーザーが機密情報を公開せずに身元の確認が可能となり、メタバース関連プロジェクトThe Sandboxなどのパートナを通して、推定400万人のユーザーへの展開が期待される。

【3月1日】MakerDAO Aave預金モジュールD3Mを再開へ 背景にDeFi市場の回復

  • ステーブルコインDAIを発行するMakerDAOは、DeFi市場が回復傾向にあることを理由に、分散型レンディングプロトコルAave v2の「DAI Direct Deposit Module (D3M) 」を再開した。

  • DAI Direct Deposit Module (D3M)とは、発行したDAIをレンディングプロトコルへ直接預け入れ、Makerと外部のレンディングプロトコルの相互作用を可能にするシステムである。

  • 2021年4月にAaveとD3Mをリリースしたが、暗号資産全体の弱気相場を理由に2022年6月に一時停止していた。

【3月3日】Uniswap、モバイルウォレットをリリースも App Store承認降りず

  • 分散型取引所のUniswapは、暗号資産のセルフカストディ型モバイルウォレットをリリースした。

  • iOS版のモバイルアプリリリースには、Appleの許可が必要となるが、10月に最初の承認が降りたにも関わらず、リリース目前の12月に却下された。

  • Uniswapは、「私たちは、アップル製品が好きです。だからこそ、iOSのウォレットを作った。でもこの経験はオープンでアクセス可能なテクノロジーを開拓したのかという原点を思い出させるものとなった。」と述べている。

注目のプロポーザル

① Balancer、Messariレポート2023の資金調達を提案 - [BIP-191] Funding Proposal for Messari Reporting 2023
提案 / 投票(2月20日投票終了)
要点

  • DAOや暗号資産関連の調査・分析サービスを提供するMessariが、イーサリアムを基盤とする分散型取引所Balancer(バランサー)のDAOで過去の契約費用から25%割引した80,000ドル(約1040万円)の契約を提案し、可決された。

  • 提供されるサービスには、四半期毎のプロトコル収益や取引量および流動性のデータ分析レポートの作成と最低1回のツイートに加え、バーチャル対談であるAMA開催が含まれている。

0xプロトコルをオンチェーンガバナンス化する提案 - [ZEIP-95] Migrating 0x Protocol to On-chain Governance Process
提案 / 投票(未定)
要点

  • 複数のチェーンおよびトークンを取引する分散型取引所の構築をサポートする0xプロトコルは、安全で検閲不可能なプロトコルを目指している。その一環として、ガバナンスのオンチェーン化を提案した。

  • 現在、0xのコミュニティが所有するトレジャリー(基金)はオンチェーンで管理されているが、プロトコルのガバナンス自体は0x Labsチームが主な管理者として機能している。

  • 提案によると、ガバナンスのオンチェーン化は分散化への重要なプロセスであり、エコシステム内の開発者がプロトコルに直接貢献し、機能を拡張するための障壁を減らすことが狙いである。

1Inch、ファストトラック提案 - [1IP-19]Fast Track Proposal Framework
提案 / 投票(3月1日投票終了)
要点

  • 分散型アグリゲーターの1Inchは、緊急時に72時間で決議を行うファストトラックの提案を可決した。

  • 現在の通常のガバナンスでは、提案と投票に最低18日かかるが、ファストトラックでは、提案の議論が24時間、スナップショット投票が48時間に短縮される。

  • この背景として、暗号資産ウォレットSAFEユーザーへのトークンエアドロップの請求に関する投票を期限内に可決できなかったことが挙げられる。

Sushi、リクルート貢献者への報酬支払い - CB Recruitment - Head Chef Remuneration [Signal]
提案 / 投票(3月3日投票終了)
要点

  • 分散型取引所Sushi SwapのDAOは、リーダーであるHead Chef(料理長)の選出の際に、2名の候補者を見つけたリクルーター「CB Recruitment」へ10万ドル(約1300万円)の報酬の支払いを問う投票を行なった。

  • この提案には、「採用に関連する費用は採用以前にDAOと契約を結ぶべきである」といったコメントが複数寄せられており、3月1日の投票の結果、「報酬支払い無し」が可決された。

Uniswap、説明責任委員会メンバーの選出 - Temperature Check: Create Accountability Committee
提案 / 投票(3月3日投票終了)
要点

  • 分散型取引所のUniswapは、外部プロジェクトおよびチェーンにおけるパートナーシップ契約の管理とDAOへの説明を担う説明責任委員会の創設を提案。

  • 現在、5人のメンバー (任期は2023年3月から8月まで) を決定するための拘束力を持たない投票テンパーチャーチェック投票が行われた。

  • メンバーには、6 か月の任期ごとに3500ドル(約45万5000円)、担当したプロジェクト毎に6500ドル(約84万5000円)が支払われる。

  • 例えば、 各メンバーが2つの提案に対応したと仮定すると、最初の6か月で82,500ドル(約1072万円)、1年で165,000ドル(約2145万円)となる。

Decentraland (ディセントラランド) Grant Squad のメンバーの任期設定 - Should We Set Term Limits for Grant Support Squad?
提案 / 投票(3月5日投票終了)
要点

  • メタバースプロジェクトを運営するDecentraland (ディセントラランド)のDAOは、グラント(助成金)を管理する「Grant Support Squad」のメンバーに任期を設定する提案を行った。

  • 現在、Grant Support Squadのメンバーには任期制限が設けられておらず、ガバナンス投票によって解任は可能であるものの、長期間の機密な連携により盲点が生じたり、意思決定プロセスの客観性が妨げられる可能性が挙げられている。

⑦ Aaveにインセンティブ付きデリゲートキャンペーンを提案 - ARC: Incentivized Delegate Campaign (3-month)
提案 / 投票
要点

  • 投票権のデリゲーション(委任)プロトコルButterは、分散型レンディングプロトコルのAaveのDAOで、3ヶ月間のインセンティブ付きデリゲート計画を提案。Aaveの助成金から15,000ドル(約195万円)を受け取った。

  • Butterは、トークン保有者から投票権を委任され、代わりに投票を行うデリゲートは、ほとんどの場合で無給であり、質を保つことには限界があると指摘した。

  • トークン所有者によるデリゲート選出の投票が行われ、選ばれたデリゲートは3ヶ月間の任期満了後に、15,000ドル相当(約195万円)のAAVEトークンを受け取る。

話題のTweet

DAOに提案を投稿する時はこんな感じ?

ETH Denverのオープニングセレモニーの様子。FTX破綻などをネタにした歌を披露したが・・・。

DAO関連データ振り返り

トレジャリー総額

DeepDAOによると、今週のトレジャリー総額130億ドルの内訳は、流動性のある資産は98億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は25億ドル(Vesting)だ。前週比で、2.9%減少した。
アクティブDAOユーザー数は、前週と同数の180万人、ガバナンストークン保有者数は、前週と同数の640万人だった。

オススメの読み物

① 「AMMにおけるデリゲーション」Governance Delegation in AMMs
イーサリアムのレイヤー2ソリューションOptimismに流動性を供給する業者(LP)であるVelodromeが、LP視点でデリゲートの課題について書いたブログ。現在、Velodromeに預けられたトークンの投票権を他の誰かに委任する(デリゲートする)ことができない状態であり、数百万のOPトークンがガバナンス投票で使われないまま存在しているという。現在、①単にウォレットに保管することで流動性供給の対価を受け取るのを諦め、ガバナンス参加に専念する②投票がない時は流動性供給に参加し投票がある時は流動性参加を停止する③ガバナンス参加を諦め流動性供給による対価獲得のみ注力する、という3つの選択肢しかない。流動性供給しつつデリゲートが可能な「LPデリゲーション」の必要性を訴えうつつ、技術的な課題を指摘している。

②「サイエンス基盤のコミュニティ構築方法」A Science-Based Approach to Community Building
「DAOの健全性を測る方法が確立されていない。」DAOリサーチを手掛けるRnDAOのインキュベーションで生まれたTogetherCrewは、この問題意識の下、新たなDAO分析ツールを開発している。リツイート数やメンバー数などの代表的な指標はWeb2時代に確立されたものでありWeb3にとって必ずしも適切ではない。代わりに、例えば、メンバー間の関係性やメンバーの満足度、コアメンバーが抜けた時のシミュレーション、目標の達成度などを提案している。Bankless DAOへの寄稿。

③「DAOメンバー間の衝突に対応する方法としてのガバナンス」Governance as Conflict: Constitution of Shared Values Defining Future Margins of Disagreement
MITのコンピューターと法律系の論文として寄稿された。DAOのメンバーが増えると、個人の自律性(Autonomy)が失われこととメンバーの要望の多様性が増すことが課題であり、DAOガバナンスのデザイナーは、上記課題を念頭に置くことが大事だと主張。課題を事前に解決するために憲法で個人の自律性を守ることや事後で課題に対応するために「裁判所システム」の導入、AIなどの機械学習による解決を提案している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?