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【1月第4週】DAOレポート Vol.3

イントロ

ビットコインをはじめマーケットは堅調な動きをみせているが、多くのDAOは未だに慎重なようだ。DAOのトレジャリーの動きを見ていると、未だに弱気相場を前提にした保守的な動きが続いている。

2020年と2021年の強気相場で誕生した多くのDAOにとって、トレジャリーに独自トークンの占める割合が多いことが課題だ。イーサリアムやステーブルコインに比べて、独自トークンはボラティリティが高くなる。全てが右肩上がりの強気相場の時ならよかったが、弱気相場入りした去年以降、独自トークンの価格が大幅に下落しDAOのトレジャリーが激減したDAOは少なくない。DAOのポートフォリオ管理は喫緊の課題であり、最近はステーブルコインや大型銘柄への移行が進んでいる。

DAOに関するデータ分析企業のDeepDAOによると、イーサリアムを持つDAOは203、USDCは154、DAIは117となっている。多くのDAOがこれらの安定銘柄に分散投資していることが分かる。

ただ、イーサリアムを持っていれば安心というわけではない。仮想通貨アドレスのネーミングサービスプロバイダーであるENSのDAOは、現在ほぼ100%の使用可能な資金がETHであることを懸念し、1万ETH(約20億円)をUSDCに交換することを提案した。分散投資の重要性が意識されている。

またブロックチェーンゲーム領域では、投機的な資金流入を排除し「面白いゲーム作り」を目指す体制を整え出した。TreasureDAOは、ステーキングを伴う投機主導のゲームは寿命が短いとして、ゲームトークンのステーキング廃止を提案。98.25%の圧倒的な賛成票で可決された。

注目のプロポーザル 10選

① 「TreasureDAO、ゲームトークンのステーキングを廃止」 - TIP23 Atlas Mine Cataclysm (Sunset) 

提案 / 投票(23日に投票終了)

要点

  • ゲームとコミュニティの分散型ネットワークTreasureDAOは、最高のゲーミングエコシステムになるため、ゲームトークンのステーキング廃止を提案。圧倒的多数で可決された。

  • Treasureは、MAGICと呼ばれるトークンを通じてゲームとプレイヤーを結び付ける分散型ゲーム エコシステムであり、“decentralized Nintendo(分散型の任天堂)”を掲げ基盤を構築している。

  • 提案では以下の問題を指摘した。

  1. ステーキングを伴う投機主導のゲームは寿命が短く、持続可能性は少ない。

  2. 過度に金銭化されたステーキングゲームは不適切なオーディエンスを引き付ける。

  3. 真っ当なゲーム開発者は、ギャンブラー向けのカジノ構築を目的としていない。

  • 開発側の問題として、楽しいゲームを構築するよりも、ゲームの「修正」と「バランス調整」に多くの時間を費やしている点を挙げている。

  • 第一段階の取り組みは、Atlas Mine(パッシブステーキング)のデポジットを無効にすることが提案された。

② 「Uniswap v3は、BNBチェーンを採用すべき?」-  [Temperature Check] Should Uniswap v3 be deployed to BNB Chain? 

提案 投票 (22日に投票終了)

要点

  • 暗号資産のスワップサービスを提供する分散型取引所UniSwapは、新たにBNB(バイナンスチェーン)をサポートする提案を行い、賛成多数で可決された。

  • 今回は「Temperature Check」と呼ばれるコミュニティの温度感を図るための提案・投票。この後、正式な投票に移る。

  • BNBチェーンは、暗号資産取引所バイナンスによって運営されるブロックチェーンである。

  • BNBチェーンへの移行を推進する目的とメリットとして、​​トランザクション速度向上と手数料の低下、TVL(預かり資産)が10億ドル増となるという予測、ユーザー数が100から200万人に増える可能性が挙げられる。

③ 「CELO ガス代に関する提案」 - CELO #83 Increase minimum gas

提案/投票(28日に投票終了)

要点

  • グローバルな暗号資産の支払いサービスプロバイダーCelo(セロ)は、プラットフォームの最低ガス代の引き上げを提案。

  • 一般的なERC20トークンの送金のガス代が約0.5セントになるように、Celoのガス価格が引き上げられる。

  • ガス代引き上げを提案する理由として以下が挙げられた。

  1. 現在設定されているガス代が低すぎること。

  2. 利益率が上がれば、エコシステム全体に還元できること。

  3. ガス価格が低いため、攻撃者は事実上無料でネットワークにスパムを送信するなどネットワークの安定性とセキュリティ問題を生じていること。

④ 「パクソス、Maker DAOにおけるUSDP保有量の増加を提案」- Paxos & MakerDAO Partnership (USDP PSM)

提案 / 投票 未定

要点

  • ステーブルコインUSDPを発行するパクソスは、MakerDAOが生成するステーブルコインDAIの安定性の基盤となる金庫であるPSM(Peg Stability Module)において、USDPの保有量を増加することを提案した。

  • パクソスは現在、上限5億ドルの枠を保持している。

  • 現在、DAIの約30%がステーブルコインUSDCによって担保されているが、パクソスはUSDPの保有量を増やすことでUSDCの比率を軽減することを訴えた。

  • 毎月のマーケティング料の支払いと引き換えにPSMのUSDPを15億ドルに増やすことを提案した。

  • プロトコルエンジニアリングを担うSam MacPherson氏によると、可決されれば、Makerに年間約7,000万ドルの収益をもたらす可能性があると見積もっている。

⑤ 「ApeCoinDAO、雑誌のリリースとそれに伴う助成金の提案」 - AIP-169: Beyond the SWAMP: Bimonthly ApeCoin & Yuga Labs Focused Magazine + NFT

提案 / 投票(2月1日投票終了)

要点

  • サルがテーマの高額NFTとして知られるBoard Ape Yat Club(BAYC)のガバナンスApeCoin DAOは、高品質でコレクションの価値を有する隔月刊の雑誌「Beyond the SWAMP」の作成と一回限りの助成金の提供を提案し、投票が開始された。

  • 雑誌の一次販売や寄稿者の支払いには、ガバナンストークンAPEが使用される。

  • 「ApeCoinとYuga Labs(NFTの制作スタジオ)のエコシステムへの入り口」となることを目指しており、有名NFTプロジェクトNouns、Doodles、CloneXなどのプロジェクトからの寄稿記事も含まれる。

  • $52,500ドルを助成金として要求しており、コラムニストや寄稿者、リーガル関連への報酬と支払いに使用される。

⑥ EulerDAO、シニアデリゲートプログラムの提案 - [RFC] Senior Delegates Programme
提案 / 投票 未定

要点

  • イーサリアムに展開する分散型レンディング ・借り入れプロバイダーを運営するEuler DAOコミュニティは、シニアデリゲートプログラムを立ち上げ1か月あたり200 EULが割り当てることを提案した。

  • 多くの提案が重要な議論なしに投票段階に達していることから、DAO全体の積極的な関与の必要性が訴えられている。

  • シニアデリゲートに義務付けられた役目は以下の通り。

  1. 任期中にアクティブな提案の80%に投票する。

  2. 1か月あたり3つの提案、または任期中にアクティブな提案の40%のいずれか少ない方のディスカッションに参加する。

  3. 任期中、デリゲートの暗号資産アドレスで少なくとも600EULを保持する。

⑦ 「OlympusDAOが新たに7700万ドルをDAIへ投じる提案」 - TAP-18: DAI Savings Rate Deposit

提案 / 投票 

要点

  • DeFiインフラストラクチャのOlympusDAOでDAIを所有するトレジャリーは、新たに引き上げられたDAI貯蓄率を利用して収益を増やす提案を行い、1月21日に投票で可決した。

  • DAI貯蓄率とは、ロックしているDAIに対してMakerが提供する金利を意味する。

  • ステーブルコインのDAIを発行・管理するMakerDAOは最近、DAI貯蓄率 を1%に引き上げた。

⑧ 「ENS DAO、ETHをUSDCに売却 」- Sell ETH into USDC

提案 / 投票 未定

要点

  • 暗号資産アドレスのネーミングサービスプロバイダーENS DAOは、今後2年間のENS DAOの運営に十分な資金を確保するために、10,000ETHをUSDCに売却する提案を行った。

  • 提案者は、使用可能なトレジャリーの100%がイーサリアムであり、単一の不安定な資産でこのような高い割合を所持することはハイリスクであると訴えた。

  • この提案が可決された場合、ETHは24時間にわたって1,300ドル/ETHの価格でUSDCに交換される。

⑨ 「Lidoのイーサリアム出金に関するディスカッション」 - Withdrawals for Lido on Ethereum

提案 / 投票 未定

要点

  • イーサリアムのステーキングサービスを提供する分散型取引所Lidoは、イーサリアムのアップデート「Shanghai(上海)」を見据え、Lidoに預けているイーサリアム出金方法について議論を開始した。

  • Shanghai(上海)終了後、ステーキングされたイーサリアムをアンステーキングが可能になる。

  • 設計案によると、イーサリアムをLidoプロトコルから出金する機能の設計には、2つのモードが搭載されている

  1. ステーキング解除リクエストを可能な限り迅速に処理する「turbo(ターボ)」

  2. 大量のスラッシュ発生時に対応する機能である「bunker(バンカー)」

  • ターボモードは、ほぼ全てのケースにおいて処理を対応することができると見込まれるが、アップグレード後に、Lidoは600以上のLidoバリデーターがスラッシュされる(罰金を課される)ことが予想される。

  • バンカーモードは、プロトコルの緊急措置として機能する。

⑩ 「1inch、NFTマーケットプレイスのローンチ計画と資金集め 」- [1IP-09] 1inch NFT Marketplace

提案 / 投票 未定

要点

  • 分散型取引所アグリゲーターの1inch Networkは、NFTマーケットプレイスプラットフォームを提供するために、295,375ドルの資金を求める提案を行った。

  • 資金の分配は、100,000ドルの一部前払いで始まり、5つのマイルストーンに分けて残りの支払いを解除する予定。

  • 予定されるマイルストーンと解除の内訳は以下の通り:

  • マイルストーン1:プロジェクト始動($100,000)

  • マイルストーン2:NFTアグリゲーターと分析、UXデザインの構築($50,000)

  • マイルストーン3:MetaMaskと1inch Walletの統合($50,000)

  • マイルストーン4:ローンチパッド($50,000)

  • マイルストーン5:ドロップの管理、NFTプロジェクト参入($45,375)

話題のツイート

「米議会共和党の大物議員 ”FTXの失敗は、暗号資産の失敗ではない。中央集権型の失敗である。DeFiこそがポイント。」


「分散型のリスクの話はしないのに、いつも中央集権型のリスクに目を向ける。もし、分散型のシステムが変わりゆく環境への対応が叶わなくなったら...ひどいことになるだろう」

「分散型は、従来のシステムにおいてブロックチェーンが持つ唯一のエッジ」

今週のDAO関連データ

トレジャリー総額

アクティブ DAOユーザー

ガバナンストークン保有者

オススメの読み物

① 「DAOの未来はAIが支える」”The future of DAOs is powered by artificial intelligence” by Aragon
実はAIとDAOは相性が良いかもしれない。DAOに参加するには多くの労働力が必要だ。毎日掲載される提案を読み込み、議論に参加し、投票する。もしAIが、提案の要約を読みやすいフォーマットで書いてくれたらどうだろうか?また、「ガバナンストークンの更なる発行する系の提案はダメ」といった簡単なルールを決めて、AIに投票を任せてもいいかもしれない。さらに、DAOの巨額トレジャーリーをAIが運用することも可能だ。AIに足りないのは「財源」でありDAOに足りないのは「意思決定の自動化」。AIとDAOは相互に補完し合う関係なのかもしれない。DAOの作成・管理ソフトを提供するAragonが執筆。

② 「仮想通貨版セクション230が必要な理由」”Crypto’s Section 230: A Policy Platform for DAOs” by Nathan Schneider
イノベーションの未来は誰も予測できない。今求められているのは実験を繰り返して何がOKで何がダメかの選別をすること。ルール作りは後から始めるべきだ。インターネットの発展期である1996年、上記のようなイノベーションの精神を汲み取った法律が米国で作られた。「セクション230」と呼ばれている。これによりユーザーがネットに投稿するコンテンツの法的責任をネットサービス提供者が負わなくて良くなった。「インターネットを作った26文字の条文」と呼ばれる。仮想通貨にもセクション230的な存在が必要であり、実験対象となるのはコンテンツではなく、DAOの運営方法になるだろう。Nathan Schneiderが執筆。

③「分散型ガバナンスにおける複数の投票制度」”Multiple Voting Systems In Decentralized Governance” by Stable Lab
現在、ほぼ全てのDAOが採用しているのが1トークン=1票の投票制度だ。これには多くの課題がある。投票疲れによる無関心から投票率が低下することや大量のトークンを持つクジラが権力を握る金権政治がその筆頭だ。全ての問題を解決する投票制度を発明するのは困難だが、投票の性質を見てケースバイケースで複数の投票制度を操れるようになるべきだろう。例えば、OptimismやElement Financeは、それぞれCitizens’ HouseやGovernance Steering Council (GSC)を創設または構想しており、参加条件を定めて1人=1票の投票制度を採用している。また、Element Financeは、自社のガバナンストークン以外のトークン(AaveやCOMPなど)に1票未満の投票権を与える仕組みを模索している。

④「投票前のリサーチにインセンティブを与える方法」”Encouraging informed participation in decentralized governance: the problem with slashing or majority rewards” by a16z
DAO投票の参加率を上げることは喫緊の課題だが、単に投票率を上げれば良いわけではない。その投票は”Informed”、つまり、ちゃんと考えて実行されたものでなければならない。何か金銭的なインセンティブをあげれば投票率は上がるだろう。しかし報酬を目当てに提案の中身を精査せずにボットを使って投票をする人が出てくることが考えられる。解決策の一つとして考えられるのは、多数派に投票する=Informedな投票とみなし、多数派に投票した人に報酬を与えることだ。しかし、多数派投票へのインセンティブは、最も最適な形で実施されたとしても、コストが高くなることが分かった。

⑤「DAOコミュニティ構築に必要な10のステップ」”10 steps to build your DAO community” by Aragon
その一、DAO設立の目的を明確にしよう。DAO設立自体が目的になってはならない。その二、「1週間でコアメンバー50人集める」など具体的な目標を決めよう。その三、権限管理をしっかりしよう。投稿や提案に関する権限や支払いルールなどの明確化は参加者を安心させる。その四、コミュニケーションツールを決めよう。その五、類似DAOのイベントに行ってリクルートをしよう。その六、最初のメンバ−100人はDAOのカルチャーを決める上で重要。慎重に選ぼう。その七、新メンバー向けにDAOのチュートリアル文書を書こう。その八、定期的なMTGやイベントの実施を決めよう。その九、DAOの活動状況を計測するため3−5つの主要指標を決めよう。その十、コミュニティマネジャーなどコミュニティーのリーダーを決めよう。




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