2022.08.06 散文

喉を鳴らしながら、グラスに注がれたビールを一息に飲み干す瞬間にしか幸福を感じられない。感情は干涸び、泣くことも笑うことも無くなってきた。今の自分は、おそらく鬱なのだろう。確信はないけれど、とりあえず鬱であるとしておく。ここ最近特に不眠が酷い。酒を飲まずに寝られない。いざ寝ようとすると、あらゆる不安や心配事が頭の中を駆け巡り、どうしようもなく覚醒してしまう。週末は束の間の安らぎがある。小説を読み映画を観て物語に没頭することで辛うじて精神の安定を保っている。

友達に子供が産まれ、写真を見せてもらった。あまり可愛いとは思わなかったけれど、「可愛いね」と言っておいた。何となくそう言っておいた方がいい気がした。20代前半で子供ができるってどういう感覚なのだろう。勇気があるなとも思うし、何も考えていないのだろうな、とも思う。ただ、羨ましくもある。僕は結婚することも子供をつくることも一生無いだろうから。たまに遊ばせてもらう約束をしたから、陰ながら成長を見届けていきたい。

コロナ感染者数が増えている。同期と飲み会する予定が、結局中止になってリモート飲みになった。リモート飲みって懐かしいな、と感じた自分がいて、変わり果てた日常の長さについて思った。コロナ以後、生活スタイルは当然ながら、人間性すら変わったと感じるのは自分だけだろうか。コロナ以前とコロナ以後の自分は違う人間になってしまった、そんな感覚がある。

リモート飲みは3時間くらい続いた。やはり飲み会は対面でやってこそだと思う。何だか話に集中できなくて、僕は殆どの時間違うことを考えていた気がする。

高校の部活のグループラインが数年ぶりに動いていた。OBOG会の案内だったが、このご時勢で殆ど人が集まらないらしい。「コロナが落ち着いたらまた久々に集まろうね」という投稿に対して、グループ17人のうち2人が返信していて、1人がリアクションで反応していた。僕は、返信はせずともリアクションくらい送ろうかと迷った挙句に、結局何の反応もしなかった。

何者かになりたい、という人がいる。それを聞いて少なからず驚く。僕は何者にもなりたくなかった。会社員とかいう立場になり一層そのことを自覚している。ひっそりと隠れてささやかに生きていたい。ただそれだけだった。大袈裟なものなんて何一ついらなかった。でも、そういう暮らしは今や夢物語で、関わりたくもない人と関わり、やりたくもない業務を其れなりにこなし、様々なしがらみを抱え、どこにも行けない日常を彷徨うつまらない大人になってしまった。

分からない。世の中の殆ど全てのことが。皆、分かっているフリをしすぎていると思う。だから僕は「分からない」と胸を張って言いたい。自分のことですら分からない、ほとんどなにも。漫然と日々を過ごし、何がしたいのか、何をしたくないのか、考えても答えは出ないまま気づけば今日が終わる。

またビールを開けてグラスに注いで飲む。生きるために酒を飲む。いや、酒を飲むために生きているのかもしれない。

逆説ばかりを考える。「生きる」ことは「死ぬ」ことを内包しているし「書く」ことは「書かない」ことを内包している。

行動は常に取捨選択を乗り越えている。この散文ですら当然ながら、あらゆる取捨選択を乗り越えて書き綴られ、こうして電子の海に放たれたのである。

読んでくださり、ありがとうございました。 今後より充実したものを目指していきます。