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§3. Power Queryで楽々スピード更新。予実分析の仕組みづくり


予実分析はなぜ大事なのか?

FP&Aや経営企画に携わる人にとって、予算・実績のギャップ分析(予実分析)は重要なタスクの一つだと思われます。言うまでもなく、予実分析は当初掲げた予算(あるべき姿は中期戦略・事業計画に基づいた資源配分を表したもの)を達成するために、期中における組織の行動変容を促すものです。予算に対して実績が乖離していた場合、何が要因で乖離しているのか、どのように修正するのか、修正に追加資源配分が必要なのであれば全社レベルで改めて資源をどう再配分するのかを考えるために必要な情報を、予実分析は提示してくれるものだからです。

また予実分析を繰り返し行うことで、予算策定の精度が向上することも予実分析を活用するメリットでもあります。予算と実績の乖離の要因には、予算策定時の見通しの甘さや前提の粗さがあったりします。予実分析を通じた学習プロセスを繰り返すことで、予算策定、その背後にある戦略策定・計画立案の質が向上するのです。


予実分析が組織を動かすために「乗り越えるべき壁」とは何か?

私も長年予実分析を担当してきましたが、若いころは苦労しましたし、今でもほかの組織のケースを見聞きする中で、なかなか予実分析をうまく行うことができないという声も耳にします。例えばこのような「壁」に担当者は直面することがあるのではないでしょうか。

  1. 単なる数値のまとめとなっていて、何が本質的な課題なのかがわからない。定例のレポーティングフォーマットがあって、それに数値を埋めるだけだと何ら価値は生みません。それによって組織は動かないからです。なぜそのような乖離が生まれたのか、どこから(部門、費目)乖離が生まれているのか、どうしてその乖離が生まれたのか、それを生み出している真の要因は何なのか・・・会計上の実績数値と予算数値を比較して差分を算出することは「分析」ではありません。分析とは、「ある問いに対して、分解して、比較して、意味のある差を解釈すること」です。解釈が入らないと分析とは言えません。そしてよい分析とは、受け手が「なるほど!」と唸るようなインサイト(示唆)があるものです。

  2. 数値を取りまとめるのに時間がかかって、解釈のところに手が回らない。定例フォーマットがあっても、そこに入力する数値を算出するために、複数のデータを引っ張ってきて、フォーマットに合う形で加工して、たまにはマクロを回して・・・なんてやっていると、その定例フォーマットを作成するのに数時間かかってしまう、というケースもよく聞きます。また決算に追加入力があったり、配賦のやり直しがあったり、そのたびにまたそのプロセスを回すのでさらに時間がかかってしまう。定例フォーマットに数値を入れるころには、エネルギーも気力も尽きてしまう、というケースもよく聞きます。こうした問題を重要視する企業の中には、クラウドベースの予算管理システムを入れて省力化を図るケースもちらほら見られますが、それでも中小企業や、そこに優先順位を当てない企業の場合は、まだまだ担当者のエクセルに頼りっきりということもあるのではないでしょうか。

  3. 分析が現場を動かすところにまでいかない。予実のギャップを解釈し、そこから導き出されるアクションを提示したとしても、それを受けて現場が動かない。現場は現場、本社スタッフはあくまでも現場外。現場外の意見は直接的には現場には影響力を与えない。経営陣が分析結果を見て深刻にとらえ、トップダウンで指示を出すという状態でない限り、予実分析は毎月の単なる「儀式」に終わってしまう。

これらの「壁」は相互に作用されていることもあると思います。時間がないから解釈にまで至らない。解釈にまで至らないから現場にメッセージが刺さらない。仮に解釈まで行きついたとしても、現場と一体感を持つだけの時間と空間を共有しないと、あくまでも「現場外」の人間とみられてしまう。


現場が動くような予実分析をするためには?

先ほど述べた3つの「壁」に立ち向かうことはどれも大事です。例えば作成したレポートからいかにインサイトを出すのか、は分析屋としてはこだわりたいポイントでもあります。だいぶ前2021年にX(その時はTwitter)でも書いたことがあるのですが、やはり優れた分析にはパターンがあり、このパターンを20代のころに学びましたが、僕はその10か条を今でも大切にしています。

また組織を動かすために、いかに現場と寄り添うかというのはとても大事な問題。結局人が動くときは「何を言うか」より「誰が言うか」のほうが大事なので。また現場がその予実分析の内容についてオーナーシップを持ってもらうために、予実分析の解釈を同じ空間・同じ場で一緒にやるというのも効果的だと思っています。このあたりの話はまた今度詳しくやりたいと思います。

今回は特に「いかに作業から時間と労力を排除するか」という点について具体的な方法論をご提示したいと思います。Power Queryというエクセルの機能を活用することで、会計システムのデータを最新版にするだけで、エクセルで集計している予算データの元ファイルを修正するだけで、あとは1クリック、一発で予実分析のレポートがアップデートされる。さらに乖離の要因を探るために有効的なダッシュボードもアップデートされる。その具体的な仕組み構築のやり方をYouTube動画で解説をしています。


Power Queryを活用して、作業時間と労力を極小化させよう。そして頭を使う時間を確保しよう。

大手企業や、予実分析を経営上重要視している企業は、予算管理システムクラウドなどを導入して作業の排除に取り組んでいると思いますが、実はエクセルの活用でも結構いいところまで行けます。もしシステム化の予算確保が難しい、組織の理解が難しいので自分でできるところまで構築したいというのであれば、今回ご紹介するPower Queryを使った仕組化を試してみてはいかがでしょうか。これは組織の大小、社歴等に関係なく、どんな組織でも適用な可能な仕組みだと私は思っています。

YouTube動画は、下記のような架空のケースを想定しています

紳士服のSPA(製造小売)を営むBengals社は、3つの店舗ブランドで商売を展開する中堅企業である。大手企業で修業を積んだ創業者の息子が、2代目社長として就任し、まずは計画に対しての進捗をしっかりとモニタリングをしたいと考え、その手始めとして予算・実績のギャップ分析を行うこととなった。とは言え、Bengals社には予算管理のシステムが整っているわけでもないので、2代目社長は手作りで予実分析の仕組みを作ることになった。できることなら、会計財務の数値だけではなく、売上の構成要素(例えば客数x単価、商品カテゴリーごと)に分解して、乖離要因を深堀したいと思っている。そして何よりも重要なことだが、自分が自ら予実分析を主導するので、できるだけ作業は排除したいと思っている。どのように進めたらよいだろうか。

YouTubeの動画を参考にしながら、作業時間を極力排除しつつも予実分析が可能となる仕組み構築をどのようにするかを考えていただければと思います。

最終アウトプットの「ダッシュボード」

YouTubeでの説明はざっと次のような流れです。

  1. 予実分析モデルの概要と、最終アウトプットの確認

  2. 複数データベースを統合してマスタデータベースを構築する

  3. 定例レポートを作成する(GETPIVOTDATA、スライサー、メジャー)

  4. 異なる2つのデータベースを、共通のスライサーでフィルタリングをする

  5. エクセルで作ったファイルを自由自在にデータベースに加工する

  6. インサイトを生み出すためのダッシュボードを作成する

(なお、この動画で使用しているエクセルファイルについては、出発点のものは上記リンクから無料でダウンロードできますが、アウトプットファイルおよび予算・実績の元データになるダミーデータファイルについては別ページにてご購入いただいたうえでダウンロードできるようにしております。最終形のアウトプットを手元において参照したい人は、こちらも併せてご参照ください)


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