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クラウドファンディングでハーフサイズカメラが作られると知って考察

“2枚1セット”のストーリー溢れる写真が撮れるレトロなカメラ「エスキュラハーフ」




コダックを始めとして、イルフォードやヤシカブランドなどからも、所謂写ルンですタイプのカメラ、細分化した名称で言えば”レンズ付きフィルム”が販売されています。

これらに共通しているのは、固定焦点、固定露出のカメラであるということ。

つまり、ピント合わせも露出合わせも必要がなく、巻き上げてシャッターを押せば撮れるフィルムカメラということです。構造的な話をすれば、準広角から広角域のレンズと絞った露出設定によって被写界深度を稼ぎ、およそ1~1.5mあたりから無限遠までピントが合ってみえるように作ることで、ピント合わせも露出合わせも必要がないカメラにしています。

こういったカメラはなにも最近出始めたものではなく、フィルムカメラ入門の取っ掛かりとして昔からコンスタントに売られていたものです。


その”レンズ付きフィルム”のハーフサイズ版をクラウドファンディングによって資金調達して新規で作ろうというプロジェクトが立ち上がっていて、既に目標額を達成していたということを知って、思ったことが上記に掲載したツイートでした。


我々フィルム写真をよく知る者からすれば

「こんなのに一万数千円も出すなら、程度のいいPEN EE-3でも探した方が、ガラスレンズで写りもいいし自動露出で綺麗に撮れるじゃないか。おまけに差額でフィルムだって買えてしまう。」

などと思う事でしょう。僕もそう思いました。


しかし一方で、新品でフィルムカメラが買えるということの必要性もまた然りで、時にそれはカメラの性能云々よりも重要であるとも思います。

新品であるという事は、カメラとして写真が撮れることを保証された製品であるということで、中古カメラ屋が独断で「大丈夫ですよ」と言っているのとは信頼性が違うわけです。


また、新品の製品であるという事は、カメラ屋や家電量販店のみならず本屋や雑貨屋でも取り扱いが可能であるという点でもおおきな利点で、カメラ=専門店という図式から外れた入り口から手に取るユーザーを獲得できるという事です。

これがどういうことかと言うと、もはや令和のフィルムカメラは写真を撮る道具ではなく、フィルムで写真を撮るカルチャーのための道具であるということではないかという事です。

写真はスマホで撮るのが当たり前。それ以上に写真にこだわるならデジタル一眼を買えばいい。そこであえてフィルムで写真を撮る意味とは?と考えた時、令和のフィルムカメラに求められているのは写りの質やカメラの機能ではなく、フィルムで写真を撮る体験をさせてくれることそのものであり、その体験をシェアすることでフィルムで写真を撮るという文化を共有し”イケてる”ものとしているのではないかと思っています。

そのために必要なフィルムカメラは、令和生まれの新製品で押せば撮れるカメラである事。

中古屋に行ってPEN-EE3を買って撮るのは昭和の写真文化の追体験であって、令和のフィルム写真が求めていることではないわけです。レンズが露出がと、そういう問題ではないわけです。

真の令和のフィルム写真は、令和生まれのカメラで撮ることであり、そのためにクラウドファンディングで資金を集めて作ることは、令和式フィルム写真文化を求める人々にとっては需要のあることなのです。


ネガがどのようにできるのか、そもそもフィルムとは何なのか、どうやってプリントされるのか、その仕組みも理屈も事情も知らない、知ろうとも思わない人々が、ハーフサイズカメラを組み写真が撮れるカメラと解釈したことには、正直驚きではあります。

実際には24x36mm1コマのスペースが分割されて2コマになっているものをそのままプリントしているので、組み写真といったアーティスティックなものでもなんでもなくただ1枚のプリントで2枚の写真が焼けるお得なカメラという、開発時の庶民の経済事情を鑑みた結果なのですが。現代ではそれを組み写真だ!ストーリー性があってエモい!と捉えるのだと、僕の中には全くなかった発想だったのでただただ驚きでした。

右のコマと組みにするか左のコマと組みにするかで結果が変わるあたり、DPEの方のセンスが問われるというか、そこらへんを汲んでプリントできる写真屋さんが支持を集めていく時代になるのだろうか、なんて思ったりもします。大半はそんな事関係なく、端から順当にプリントしていくだけだと思いますが。


僕は一生買うことはないだろうし使うこともないだろうカメラ達。違う楽しみ方をしているからと言って、馬鹿にしたり下に見るわけでは決してありませんが、これまで築き上げられてきた写真文化とは全く異なるもうひとつの写真文化が、この世には確実に存在しているのだと感じています。

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