アスタラビスタ 8話 part7
「ここだ」
それまで番号の振ってあった扉とは明らかに違い、組織のトップの部屋にふさわしい高級感のある、重たそうな扉だった。
「本当にいいのか……?」
扉に手をかけた雅臣が、最後の確認のように尋ねてきた。
今まで納得していたはずだったのに、私は最後の最後で心が揺らいだ。この一歩が、私の人生を大きく変えてしまう一歩になりはしないか、と。
「大丈夫です」
私は自分の服の裾を掴み、俯いた。私が不安を感じはじめたことに気が付いたのか、雅臣は少しの間の後、口を開いた。
「俺は必ず、お前に憑依した組織のNo.6を必ず捕まえる」
見上げると、彼は重厚感のある扉をじっと見つめていた。
「俺は組織の人間だ。けれど俺も清水も組織を信用してはいない」
「……え?」
扉を見つめる彼の瞳が、瞳孔が、開いていくのがわかった。
「もし何かあったら、俺は組織よりお前を優先する」
彼は私を見ていなかった。扉に向けられた目は見開いており、私はなぜか鋭い耳鳴りを感じた。
痛い……。なぜ突然耳鳴りが聞こえるのか。どこかで鳴っているのか。思わず耳を塞いだ。それでも耳鳴りは止まず、鋭い音は私の頭の中で響いていた。
「雅臣さ、ん……」
耳を塞いだまま、彼の名前を呼ぶ。
昼夜逆転した生活を送り、時には怪我だってしていた雅臣。組織のために仕事をしているのは、私にだって分かっていた。それなのに組織を信用していないなんて、そんなことはあるはずがない。
突然扉が開いた。あまりの勢いで私は反射的に目を瞑ってしまったが、雅臣は目を見開いたまま、開いた扉の目の前に立つ女性を見下ろしていた。
「お待ちしていました」
扉を開けてすぐ女性がいた。白い革ジャンにパンツスタイル。スレンダーな体型でショートカットの髪は金色だった。色白で端正な顔立ちは、どこかミステリアスで目が離せなかった。
「7分遅刻。以後、気をつけて雅臣」
どこかで聞いたことのある声。私はふと、雅臣の部屋の通信機から聞いた、鈴の音のような声を思い出した。あの声は彼女のものだったのだ。
「……細かいな」
いつの間にか雅臣の目つきは、いつもの冷静さを取り戻していた。呆れたように眉を下げ、小さな声で彼は彼女に反抗した。
部屋の中は赤い絨毯に大きな机と、西洋モダンを彷彿とさせる内装だった。
頭をよぎる。この組織のトップは私的にこれらを集めたのか。それとも組織の金を使ったのか。
金髪という奇抜な色から、彼女が憑依者なのかと思った。だが、刺繍の施された大きなソファーから、こちらを見て立ち上がったのは、彼女よりも明るい光りを放つ金髪の青年だった。
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