アスタラビスタ 8話 part2
翌朝、目が覚めると、昨夜の感情は嘘のように消えていた。カーテンの間から入り込む日の光が心地よいと感じるほど、私の心は穏やかさを取り戻していた。
そして、昨夜、自分が寂しさから雅臣に電話をかけたことを思い出し、恥ずかしさで頭を抱えた。
なんてことをしてしまったのだろう。愚かすぎる。私は雅臣の声を聞くことだけを目的に、電話をした。意味のない電話なんて、相手への好意を示しているようなものではないか。
いくら寂しかったからといって、よくもそんなに恥ずかしいことができたものだ。自分でも驚いた。
結局、私の方が寝落ちしてしまい、雅臣が何を話していたか全く覚えてない。
一体、どんな顔をして、雅臣に会えばいいのだろう。恥ずかしすぎて、目も合わせられない。
しかし、私は彼のマンションへと向かう。いくら恥ずかしいことをしてしまったからと言っても、なぜか私は着替えをし、歯を磨いて、出かける準備をする。彼と稽古をするために。
稽古で身体を動かせば、昨夜の醜態など忘れて、いつも通り彼と接することができる。そう思っていた。
防具と薙刀を預かってもらっている、彼らのマンションへと行う。
しかしそこには、いつも明るいはずの三人が、神妙な顔をして、私を出迎えた。彼らの表情を見て私は咄嗟に、昨夜雅臣と稽古ではなく、出かける約束をしたことを思い出した。私の持っていたバックには、稽古着が入っている。明らかに私が彼との約束を忘れていたことが露呈していた。
「す、すいません! 出かけようって話でしたよね……」
部屋の奥で、こちらをじっと見ている雅臣に、私は頭を下げながら謝った。私は墓穴を掘った。雅臣に誘われて、出かけようと決めた。それなのに、私は圭や清水がいる前で、その話を口にしてしまった。これは誤解が生まれる。
「紅羽ちゃん、ちょっといい?」
玄関まで私を出迎えに来た清水が、私に優しく言った。一体なんのことかと、首を傾げていると、部屋の奥にいる雅臣が私に言った。
「俺たちの組織のトップが、お前に会いたがってる」
「……え?」
雅臣の組織? 憑依の能力を戦うことに使う、未知の組織だ。
「でも、紅羽が巻き込まれてから、思った以上に呼び出しが遅かったような気もするな」
部屋の中で圭が呑気な声で麦茶の入ったコップを持ち、ソファーに座った。
雅臣のことは、信じられる。彼の組織での立場は分からないが、私が№6に憑依され、彼らの世界に巻き込まれてから、ずっと私を守ってくれていた。だが、彼を信用していることと、彼らの組織を信用していることは、全く別の話だ。
何かを思い立ったかのように、部屋の奥から雅臣が私へと向かって歩いて来た。
「紅羽、少し外に行こう。話したいことがある」
靴を履いた雅臣は、先に玄関にいた清水を押しのけて、私の右手をつかんだ
「え? 話なら部屋の中ですればいいのに」
押しのけられた清水は、悲しそうな顔で雅臣と私を見ていた。
「野暮だな。二人きりで話したいんだよ。察しろ」
清水へと振り返った雅臣は、私の手を引きながら笑みを浮かべた。
「うっそ!? お前らもうそういう関係だったのかよ!!」
部屋の中で大声をあげた圭が、自分の洋服に麦茶を盛大に零すのが見えた。
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