雅臣_寝起き-min

アスタラビスタ 6話 part4


 突然、部屋中にブザーが鳴り響いた。身体が固まった。電話や玄関の呼び出し音ではない、明らかに警報音だった。

どこで鳴っているのか目で追うと、パソコンの置いてあるデスクの奥に、小さな赤いライトが点滅する機械を見つけた。おそらく、その機械からブザーが鳴っている。


 ソファーで眠っていた雅臣は、ブザーで目を覚まし、飛び起きた。掛けていた毛布が舞い上がるほどの勢いだった。ぼさぼさの前髪は目にかかり、表情は分からない。



 清水は今まで会話していた私が、まるで最初からいなかったかのように無視し、資料やらごみが散乱している机からペンとメモ用紙を取った。
 彼らは慌てていた。


「こちら憑依者組織本部から№5へ」
 ノイズに紛れ、女性の声が聞こえてきて、私はやっと、その機械が通信機器であることを知った。


「こちら№5です。どうぞ」
 機械から受話器を手にし、清水が応答した。


「駅東口にて喧嘩の事案発生の模様。No.5は現場へ急行されたし」
駅という大勢の人間が集まる場所に、私はこの事件が大事になる予感がした。


 清水が小声で「またかよ」と呟き、持っていたペンでメモを取り終えると、「了解」と言って通信を切った。


「……すまん」
 まだ眠気が払えていないのか、頭を抱え、雅臣が清水に呻くように言った。


「いいよ。寝てたんだから。それより急ごう」
 清水は私の隣を通り過ぎ、玄関へと向かって行った。

私は自分が完全に忘れられていることを感じ、戸惑ってキョロキョロと部屋を見回した。どうしたらいいのだろう。この二人は事件現場に向かわなければいけないはずだ。


 初めて見た。彼らの仕事の一部を。本当に緊迫した状況だった。いつもの優しい彼らは、どこにもいない。


 清水を追って玄関へと向かおうとした雅臣と、私は鉢合わせした。

「……お前、なんでここにいるんだ?」
 私を見下ろし、雅臣が首を傾げた。

なんでここにいるのか。それは清水に呼び出されたからだ。だが呼び出された内容は、身体提供者への勧誘だった。

「俺が呼んだんだよ」
 清水が玄関からリビングへと振り返り、話に割って入ってきた。

「お前が? 何かあったのか?」
 雅臣が驚いたように目を見開き、私に尋ねてきた。答えられず、黙っていると、時間のなかった雅臣はため息をついて、「まぁ、いい」と不機嫌そうに声を上げた。

「俺たちはこれから仕事に行かなきゃならない。お前ももう帰れ。下まで送って行ってやる」
 雅臣は私に玄関へと向かうよう促した。仕方なく靴を履いて、清水の近くを通り過ぎようとした時だった。

「さっきの話、雅臣にはまだ内緒だよ」

 本当に小さな囁き声だった。その言葉に私が清水へと顔を向けると、清水は笑っていた。

だが、目は笑ってはいなかった。


まだその時期ではない。

そう、全部自分に任せてくれと、彼の目は訴えていた。



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