欧州往復書簡1 私たちとまちのインフラストラクチャー
*このマガジンは、欧州のデザインスクール(と言って良いのだろうか、)に修士留学をしている3人が、いま感じていること、考えていることを伝えあう往復書簡です。
-
フィンランド・ヘルシンキ(正確にはエスポー)は最近ずっと曇り空が続いています。晴れたからといって出かけるほどの余裕はないのですが、笑 せめてまだ昼の長いうちに、もう少し青空を見せてほしいなあ、と思う毎日です。デンマークでは、ロンドンでは、いかがお過ごしでしょうか?
さて、まずは往復書簡第一弾ということで、私のいまの状況や考えていることを、簡単にお伝えしておきたいと思います。
こんにちは、森一貴です。
現在、フィンランドにあるアアルト大学のCollaborative and Industrial Designプログラムにて、修士課程の1年目を過ごしています。フィンランドに来たのは2021年8月18日なので、もうまもなく2ヶ月。たった2年間しかいない予定なのに、生活を整え、英語の聞けなさ話せなさにおろおろとしている間に、もうこんなに経ってしまったのか、という気持ちです。
最近は、受ける授業をある程度決めてしまわないといけないこともあり、日本に帰って「何してきたの」と言われたときに、なんと返事をしたいかな、ということを考えていました。おそらく抽象的には「まちと人との、相互作用のデザイン」。もう少し具体的にするなら、「どうやってまちに、寛容性や開放性を埋め込むことができるだろうか?」ということが、僕自身の問いになってくるのだろうなと思っています。
さて、埋め込む−−Pelle Ehn(2008)は'sunk into'と表現しているようです−−ということはどういうことだろうか?ということなのですが、Leigh Starはそれに関連して、「インフラストラクチャー」のデザインという考えに言及しています(Star & Ruhleder, 1996)。
Ezio Manzini(2015)はその例として、マルメのリビングラボ(Björgvinsson et al., 2010)を引き、例えば「物理的なスペース」「オンラインのコミュニケーションプラットフォーム」「サポートチーム」「関係性のネットワーク」などがインフラストラクチャーだ、と述べます。
具体的なプロジェクトを思い浮かべてみると、それはそうかなという気持ちにさせられますが、これを社会レベルに広げるにはどうすべきか。
Ezio Manzini(2015)は、コラボレーション組織が気軽に挑戦したり、失敗したりできるような、「社会全体が実験室」という状態になることはありえるだろうか?という問いをたてて、そのためには以下のような、3つの要素があるのではないかといいます。
- 寛容性 Tolerance
- 開放性 Openness
- 学習能力 Learning Capacity
それとは具体的にはなんなのか、ということが重要なのですが、彼はその例として「エラーフレンドリーなアプローチ」の採用や、局所的な「ラボ」をつくり、それを増殖させていこう!と述べるに留まっています。
そこから先のところが、私の具体的な探究テーマになるということなのでしょう。社会全体を実験室にするとはなにか、その要素とはなにか?プロセスとはなにか?なんとなくこれまでの自分の実践のなかから、ゆるさであったり、自己変容であったり、主客融解であったり、さまよいであったり、いくつかのキーワードが萌芽しつつあって。それらを重ね合わせながら、問いを深めていくことになりそうです。
-
さて、自分の話を長々としてしまいました。とはいえ、これは単なる推測でしかないのですが、この往復書簡を届けあう3人になにか共通の線があるとしたら、それは個別具体的な空間や時間における、人間のwholenessと向き合おうとしていることではないかな、という気がします。つまり、例えば生活の尖端としてのアプリやサービスを、極めて人々に寄り添う形にアップデートしていくという方向性もありますが、それよりもう少し抽象的な形で、人々の内的な状況や経験や変容に関心があるというか。……まだ全くお二人のことがわからないので、あたっているかわかりませんが、笑 いかがでしょうか?笑
もちろん人類学では、それが当たり前なのかもしれませんね。デザインが人類学に接近しているというのであれば、それはデザインリサーチが人類学的なエスノグラフィーと類似しているのだ、というツールレベルの話には留まらず、イリイチがその分断を批判するように、その総体性と向き合う姿勢、エスコバルが指摘するようなデザインの二元論的姿勢を超えた転回こそ、デザインが(あるいは西洋中心主義が)欲しているコンセプトなのだろうと思います。おそらく、今私自身がフィンランドで感じ始めている(よかれ悪しかれ)個人主義的な断片化も同じ流れの中にあるはずで、もう少し認識が深まっていくなかで、見えてくるものがあるのだろうなあと考えているところです。
-
一旦、こんな感じでどうでしょうか、とりあえずバトンを回してみることにします。
日を追うごとに、一日の長さがどんどん短くなっていくフィンランド。8月半ばは15時間ほどあった日照時間ですが、今はもう11時間もないようです。来たときにはまだ緑色だった木々も既に相当が散ってしまい、なんとなく秋が過ぎていくのも足早に感じます。
また一段と寒くなってくるころ、お二方の書簡を受け取ることを、楽しみにしています。
*
Björgvinsson, Erling, Pelle Ehn, and Per-Anders Hillgren. 2010. “Participatory Design and ‘Democratizing Innovation.’” In Proceedings of the 11th Biennial Participatory Design Conference on - PDC ’10. New York, New York, USA: ACM Press. https://doi.org/10.1145/1900441.1900448.
Ehn, Pelle. 2008. “Participation in Design Things.” In Participatory Design Conference (PDC), Bloomington, Indiana, USA (2008), 92–101. ACM Digital Library.
Escobar, Arturo. 2018. Designs for the Pluriverse. Duke University Press.
Illich, Ivan. 1973. Tools for Conviviality. Harper & Row.
Manzini, Ezio. 2015. Design, When Everybody Designs: An Introduction to Design for Social Innovation. MIT Press.
Star, Susan Leigh, and Karen Ruhleder. 1996. “Steps Toward an Ecology of Infrastructure: Design and Access for Large Information Spaces.” Information Systems Research 7 (1): 111–34.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?