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都市/地方差を利用したキャリアハック

キャリアチェンジ/キャリアアップの視点から、新しい地方の役割像を提案してみます。キャリアチェンジ/アップのタイミングで地方を経由することによって、都市でのキャリアに大きくレバレッジをかけることができるよ!、というお話です。

地方におけるキャリアチェンジ/アップ=ポートフォリオを育む場としての地方

キャリアチェンジ=全く異なる領域に踏み出すのは難しいことです。それはなぜかといえば、ゼロイチの実績を作ることが難しいから。しかし、ひとつでもポートフォリオとして提示できるものがあれば、徐々に仕事の階段を登っていけるようになります。

さて、この「ポートフォリオを育む」という視点で地方を見てみましょう。まず、地方の都市と比較した大きな特徴のひとつは、コストの低さです。具体的には、以下2点が小さいのです。

・自分で新しい仕事を始めるコスト
・新しい仕事を請け負う/依頼するリスク(こちらは小規模事業者ならどこでもそうですが)

都会で、ローコスト・ローリスクな仕事が回ってくる=仕事を持っている人に出会うことは難しいと思います(その理由は、都市のネットワークは同質性のコンテクストに回収されがち――つまり、同じ会社、同じ大学…の仲間の数が多いから、それ以外の友人や関係性をつくる必然性や偶然性が少ないのではないか、と僕は考えています)。

一方で地方はその逆の性質があります。ローコスト・ローリスクな仕事の数は多いか少ないかは分かりませんが、少なくとも地方はとても、こうした余白ある仕事にとても「出会いやすい」場だと思うのです。

例えばうちの同居人は、僕たちが取り組んでいるRENEWという地域イベントを通じて出会ったある企業のInstagramの運用を、まるごと引き受けています。恐らく、彼女にとって企業のSNS運用の仕事は初めての仕事だと思うのですが、こうした仕事をやわらかく発注/受注できる素地がある。やりたい!と伝えていると、じゃあ一回やってみる?というようなことが明らかに起こりやすいのです。(もちろん、これは「金額は低い」ということも同時に意味しているのですが)

これによって、都市部より比較的簡単に「ひとつめのポートフォリオ」をつくることができる。これが地方部の特徴だといえるのではないでしょうか。

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上記では仕事に「出会う」という話ですが、地方はコストが低いため、仕事を「生み出す」ことも比較的容易に可能です。

例えば僕は教育畑へのキャリアチェンジを求めて、「ハルキャンパス」という探究型学習塾を立ち上げ、2017年〜2019年までおよそ3年程度にわたり(リサーチ・プロトタイピングまで含めれば2016年から4年にわたり)取り組んできました。

「立ち上げた」と聞くとなんだか大層に聞こえますが、はじめに僕が取り組んだプロトタイピングプロジェクト「CUE」は、半年間にわたって当時の家の一室を開放して取り組んだプロジェクトでした。要するに固定費が一切かからなかった(起業なので、人件費もかからなかった)のです。これが東京だったら、半年間もプロトタイピングをやっていたら、家賃が20万かかり、敷金礼金、水道光熱費…、半年もあれば200万はかかりそうなものです。

僕が踏み出した歩みは極めて小さな一歩だったのですが、こうした「移住者が地方で新しいプロジェクトを立ち上げた」という文脈は、人口の少ない地方ではマスコミにも取り上げられやすく、CUEのプロジェクトは福井新聞等でも取り上げていただいています。

その後2017年4月に、探究型学習塾「ハルキャンパス」を正式にスタート。駅徒歩3分、交差点の角に面する2階建ての建物をまるごと借りましたが、家賃は5万円/月でした。(ちなみにそのときの自宅家賃は1万円)

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ほぼ僕一人の塾ですから、生徒が仮に一人もいなかったとしても、5万円さえ払えれば塾は続けられると思えば、地方では新しいことをはじめるリスク(失敗するハードル)が極めて低いことがよくわかっていただけるのではないかと思います。

ところで、こうして塾をはじめると、今度は周囲から「そういえば教育といえば、森くんに話してみたらいいのでは」という案件がどんどん舞い込んでくるようになります。結果として、企業インターン案件のメンターや、夏期合宿のまなびのプログラム企画・運営、ワークショップのファシリテーション…といった案件に至るまで、相当多様な現場に触れさせていただきました。教育をはじめて、まだ1年足らずにも関わらず、です。

このようにして、地方ではキャリアチェンジ=「ひとつめのポートフォリオ」を簡単につくることができるのです。

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上記の2事例は、キャリアチェンジ=新しい仕事を始める、という視点から記述しましたが、キャリアアップ=より難しい仕事に挑戦する、という視点ではどうでしょうか。

この側面でも地方には、「ちょっと難しい(抽象的だ)が、規模が小さい」仕事、つまり、丁度いい最近接領域(チャレンジゾーン)が、たくさん転がっているように思います。

例えば僕はコンサルタント/プロジェクトマネージャーとして東京で1年半働いてきました(研修期間を除けば、たった1年ですが)。その経歴は、相当福井でキャリアアップさせることができたなと感じています。

例えば僕が取り組んできたものを列挙してみます。

・RENEW=76社・32,000人が関わるプロジェクトの全体プロマネ(事務局長)
・ある企業の中期経営計画策定支援
・ある企業の経営理念策定プロセスのリード
・複数社に対する行政補助金・助成金の資金調達支援
・県庁の政策デザインプロセスのリデザイン

こう書くと突然すごそうに見えますが、RENEW以外は相手企業の規模も仕事の規模も、伴って金額も小さい(いずれも10万以下で受注しています)プロジェクトです。そして、これら全てがこのまちに来て初めて取り組んだプロジェクトです。

例えば、「中期経営計画策定」なんて、相当の知識とスキルがないと挑戦してはならない、できない、と思われているような気がします。しかし、本来はそのレベルにも色々あるはず。僕はその企業の社長が友人だったため、そこからオーダーを受注。社長の話を聞き、業界分析をし、整理し、資料に落とし込むという作業を行いました。

おそらく、地方部ではそれぞれの役割の人が少ない(特にクリエイティブセクターに顕著だと思いますが、デザイナー、カメラマン、ライターなど、思いつく人の頭数が非常に少ない)ため、難易度が高い仕事も、次々に入ってくる状況が地方にはあるのではないでしょうか。

地方のポートフォリオとレバレッジ

さて、上記のようなポートフォリオを都市に持っていくと、地方での実績は極めて大きなレバレッジが効く、つまり難易度はまあまあですが、めっちゃすごそうに見えることが、すぐに分かるのではないでしょうか。

都市において「ある企業のSNSを全て一人で運用していました」だとか、「探究型の学習塾を3年にわたり経営していました」だとか、「企業の注記経営計画策定を実施しました」みたいな文章は、極めて「すごそう」に見えます。

なぜなら、都市においては、上記のような仕事が「簡単な仕事」であることはほとんどないから、です。

このようにして私たちは、地方でのポートフォリオを経由して、都市でキャリアチェンジ/キャリアアップを図ることで、給与面・内容面で相当のキャリアハックをすることができるのです。

このようにしてみると、地方の新しい役割像、ひいては新しいキャリアデザインのあり方が見えてくるのではないでしょうか。つまり、都市と地方を往来しながら、

・地方では、模索し、実験し、ポートフォリオを育む
・都市では、それをより大規模に実装し、規模感を育む

という、ループ型のキャリアデザイン像を定義できるのです。

特に地方は、生活コストの低さから、生活資金を持ちつつも、実験していっていいのだ、新しいことをはじめられるのだ、どんどん変わっていいのだ、という空間を提供しています。

こうした地方の場を通じて、私たちはより主体的に、私たち自身のキャリアデザインを引き出していけるのではないでしょうか。

地方におけるキャリアデザインのネガティブポイント

地方におけるキャリアデザインの欠点は、フィードバックをしてくれる人がいない/少ないというリスクです。

例えば僕の周囲に、プロジェクトマネージャーを名乗っている人は一人もいません。これは、僕のことをプロマネ視点で怒ってくれる人は誰もいない、ということを意味します。自分の領域に関するPDCAは自助努力で行わざるを得ません。

こうした働き方は、常に「現状の自分ができること」の限界を消費していくような、自分のスキルを切り売りするような働き方になってしまう。逆に言えば、自分自身のできる限界をどんどん引き上げてくれる環境ではないことには、注意を払うべきです。

競合がいないブルーオーシャンを(本当にいないのです)甘受するのも悪くはないのですが、自己批判を行いながら、相当意識的に、知識が古くならないようアップデートを続けたり、主体的にフィードバックを受け取ったりしていく必要があるでしょう。

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それでも、常に実験しながら自分なりのポートフォリオを作っていけるのは、すごくおもしろいなと思っています。

僕は福井に来てから、本当にたくさんの領域に挑戦させていただきました。ライティング、WEBデザイン、WEBコーディング、簡単なデザイン、簡単なプログラミング、写真の編集、空間のデザイン、組織運営(というかシェアハウス運営)…。こうしたことは都市にいたらできなかった(やらなかった、でもあるのかもしれませんが)ことなのだろうなとすごく感じます。

今のところ、僕は都市に戻る気はそんなにないかなあという気がします。地方にいて、地方の「全体を見れる感」が気に入ればそこにいればいいし、やっぱり都市が良ければ都市に行けばいい。そんな風に、私たち自身が自律的主体的に、新しい地方のあり方を"つかっていく"、ということが大事なのではないでしょうか。

もちろん、上記に述べたような利点は、うまく都市をハックできれば、必ず都市の中にもある余白ではあります。結局、いい"やくどころ"を見つけられるかどうかなのかもしれないなあ、という気もするのですが。

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