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ハルキャンパスを、しめました。

あまりに長くなったので、読みたいところだけ読んでください。笑

*

2017年4月に産声をあげた探究型学習塾・ハルキャンパス。
2019年12月24日をもって、すべての授業を終了しました。

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子どもたちが「よお、もりもり」と言って教室に飛び込んでくる、小さな小さな教室でした。

そんな僕と出会ってくれた小学生たちとともに、
ある日は、LGBTQの当事者の方が遊びにきて、取材する。
ある日は、まちに繰り出して、まちの好きなシーンを切り取ってみる。
ある日は、プログラミングでロボットを動かしてみる。
ある日は、撮影した動画の編集をする。

それが、ハルキャンパスにあった風景でした。


■概要:ほしい未来を自分でつくる人を育てる。

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福井県越前市、武生駅から徒歩4分。ハルキャンパスは「ほしい未来を自分でつくる人を育てる」をコンセプトにした、たぶん北陸初の探究型学習塾。当時の僕の願いが、まるごと詰まった場所でした。

ハルキャンパスのコンセプトを実現するためのアプローチとして、僕は3つの柱を掲げてきました。

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ひとつが「対話」。多様な価値観に出会い、多様性を受け容れる土壌をもってほしい。そして、自分なりの意見を持てるようになってほしい。

ふたつめが「思考」。好奇心を留めずに、社会の色々な物事に出会い、自分自身で問いを立て、深堀りする。そんな力を身に着けてほしい。

みっつめが「実践」。自分で発信したり、つくったり、ということを何度も繰り返していく、

その3つがぐるぐるとサイクルを描きながら、自分たちの興味関心からはじめて、自分たちで実際にやってみる、ということを何度も繰り返してみる。

そのサイクルを通して一番僕が実現したかったこと。それは、彼らのなかに

「つくっていいのだ、という確信」

をつくることでした。

自分のやりたいことがあるなら、実現させればいい。仕事であれ、人間関係であれ、自分の手でつくることができる。自分が所属する社会も、自分が生きるその人生も、自分の手で変えていけるのです。

ハルキャンパスで試みていたのは、そんなオーナーシップを持ってほしい、という僕の願いの実現だったのだろうと思います。


-概要:なんで、ハルキャンパスという名前なの?

なんでハルキャンパスという名前なのですか?とよく聞かれます。

まず大事なことは、HALCAMPUSという文字の「色」が好きだったこと。笑
僕は文字に色が見えるのだけれど(共感覚、特に「色字」というそう)、「HALCAMPUS」は黄緑と桃色と黄色がはじけたような色をしています。

一面の野原、桜、菜の花。浮き足だつ、あるいは春の木漏れ日のような。

そんな春のあふれて包みむような優しさを、まるごと写し取ったような言葉のいろ。それが僕にとってのHALCAMPUSなのでした。

春の景色にこめたのは、「自由に芽吹き、思いっきり咲いてほしい」という願いです。

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僕はハルキャンパスという場所が「春」であったらいいな、と願いました。ここは豊かな土であり、雨であり、太陽であり。ただ思いっきり遊ぼう、なんでも試してみよう、やってみよう。ここはそんな「環境」でありたいと思ったのです。


■授業:ハルキャンパスにあった景色

ハルキャンパスでは、多様なことに取り組んできました。

毎回、子どもたちにやりたいことをたずね、それを実際にやってみて、何らかの形に落とし込んでいく。そんなプロセスを何度も繰り返してきた。

2年と8ヶ月のあいだ、それはつまりハルキャンパスのはじめから終わりまで在籍していた、一人の小学生がいます。彼の名を、Aくんとしましょう。ほっぺたが白くてまるくて、不器用で甘えん坊で、でも僕が知る限り、誰よりも優しい少年でした。

彼との思い出を端緒に、ハルキャンパスを振り返ってみたいと思います。


-授業:2017年3月、体験授業のこと。

まだ物件すら借りていない僕は、でも、必ず塾を始めなきゃ、と思っていました。"ハル”キャンパスですから。絶対に4月のうちに始めねばと思っていたのです。

ハルキャンパスをひらく前年の2016年には「CUE」という、週2回の、半年間限りのロジカルシンキング塾を主催。その半年のあいだに、改善点だったり、目指すべき未来が改めて見えたりして。だから、2017年にはそれを形にしようと思っていたのでした。

でも、僕はみんなが思っているよりもずっとビビリで、踏み出すのが苦手です。

だから一番最初にやったのは、facebookで「体験授業のイベントページを立ち上げる」ということでした。見返してみると、一番最初の体験授業は3/19。そのとき決まっていたのはまだ、「ハルキャンパス」という名前くらいだったんじゃないかと思います。

するといつの間にやら、立ち上げたfacebookのイベントページに「参加予定」が。半分うれしさと、半分まいったな、という気持ちでした。そりゃ当たり前なのだけど、参加する方がいるとなれば、場所を決めねばならない、内容を決めねばならない。

急いで、お世話になっていたお寺の住職さんに連絡して場所を確保してもらい、内容を決定。そのはじめての内容は「フォント」というテーマでした。

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「あ」をゴシックや明朝など、いろんなフォントで大きく印刷して、「どんな印象?」をみんなで考えてみる。

そのあと、いくつかの書籍やパンフレットから、自分が好きなフォントを見つけて、それはなぜか、どういう感情なのか、深堀りしてみる。それが僕がつくった、はじめての授業でした。

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はじめての体験授業は、そりゃもう、さんざんでした。

「小学生」のことを全く知らない当時の僕は、小学生なら誰でも来ていいよ、と募集していたのです。でも、小2と小6が、同じ授業で、同じ進度で進めるわけがありませんでした。こちらは泣き、こちらは飽き、、、笑

そりゃもう、たくさんの反省点を持ち帰ることになりました。こりゃだめだ、ちゃんと改めて、やり直そう。ちょっとしゅんとしてしまっていた。

Aくんが叫んだのは、その体験授業の終わり際のことでした。

「僕、絶対、この塾はいる!!!」

なんやて。僕は震えました。

そうか。きみが、僕の最初の生徒か。


-授業:2017年4月、はじめてのプロジェクトのこと。

そうして物件を借りました。武生駅から徒歩3分。駅前商店街の十字路の角に位置する、ものすごい立地です(1,2Fまるっと、家賃50,000円+税です。どなたか借りませんか?)。

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一番はじめに取り組んだプロジェクトは、「オリジナル地図をつくろう」。ハルキャンパスのまわりのことを知ってみよう、好きなところをみつけてみよう、みたいなノリでスタートしたように記憶しています。

僕は「お店に入って、なんでもインタビューしてみてよ!!」と背中を押し、Aくんたちは次々に、近隣の呉服店、化粧品店、和菓子屋、傘屋などに突撃取材。はじめは緊張して「森が先に入れよ〜」などと言っていたのに、段々気分が乗ってくるとむしろドキドキするのはこちらのほうで。

当時四年生だったAくんたちは挨拶もなしに「ここは何の店だ〜!?」といって突撃していくものだから。笑

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一番ドキドキしたのは、近くにあった宗教団体の施設に飛び込んでいったとき。でも、知らないからこそ行くのです。押し留めてはいけないのです。なぜなら、ハルキャンパスだから!

でも宗教施設に入るのは僕にとっても、はじめての体験でした。施設の方から「今度、映画があるから見に来てね〜」とチラシを渡されたこと。終わった直後に、なんとなく慌てて親御さんに「今日は宗教施設に飛び込みました、ごめんなさい、でもこれがハルキャンパスなんです!」みたいな内容の連絡を送ったこと、よく覚えています。

そうして、できあがったのがこちら。

01おさんぽマップ

Aくんたちらしい目線のいくつかを目にすることができます。道端の散水栓に目がいったり。化粧品屋さんにいったのに、残っていたのがネコの写真だけだったり(ちなみに僕もプロジェクトメンバーなので、僕が書いているところもあります)。

Aくんが書いてくれた、ハルキャンパスの説明を引用します。

"25歳独身の森かずきが先生をつとめるかわったじゅくで、でんとうやいす、スペースも進化させ、自立しやすいかんきょうをじぶんで作った"

25歳独身の情報、いらんやろ。笑
いつの間にやら僕も、28歳になってしまいました。

Aくんたちが作ったマップは、しばらくハルキャンパスの窓にかざられていました。


-授業:youtuberになろう!

やっぱり印象深いのは、「Youtuberになろう」プロジェクトかな。一番、ハルキャンパスっぽいのかなと思っているプロジェクトです。

ある日プロジェクト決めをしていると、Aくんたちが「Youtuberになりたい」というのです。僕はすぐさま、なればいいじゃん、と返しました。

そうして始まったのが「Youtuberになろう」プロジェクト。Youtuberになって、福井の伝統産業の領域で挑戦を続ける人たちを取り上げ、PRしていこうとするプロジェクトでした。

おおまかなプロセスだけは僕の方で引いたのですが、以下は基本的に、自分たちだけでやり遂げています。僕は隣でサポートするのみ。

・事前リサーチ
・取材内容を決める
・取材&撮影を行う
・動画編集をする
・Youtubeにアップロードする

動画、いいよね。笑

このとき、Aくんたちはまだ小学4年生。僕のiPhoneで撮影しているのだけど、Aくんたちは撮影者じゃなくて、完全に「参加者」になってしまっている。近いんだよね、距離が。本当におもしろいシーンになると、撮影よりも自分が見たいという気持ちが勝って、一番撮るべきシーンが撮れていなかったりするのでした。笑

こどもって、こんな目線で生きているのだなあ、と思ったり。

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結構膨大な作業量で、やっぱり途中で飽きて、Youtuberばっかり見ちゃう時期もあって。3ヶ月くらいはかかったんじゃないだろうか。でも、こうして形になったこと、すごいなあ、と率直に僕は思うのです。

*

この動画制作を皮切りに、その後もYoutuberとしての活動が発展。和紙の工房に取材にいったり。

なぐられている。笑

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こちらは、打刃物の工房に取材にいった際のもの。

段々クオリティもあがってきている気がしませんか?どうだろう。笑


-授業:ECサイトをつくって商品販売

ECサイトを自分たちで制作し、自社商品をつくって販売してみる、というプロジェクトもやりました。このプロジェクトもおもしろかったな。

・自社商品を企画する
・ECサイトを立ち上げる
・商品を撮影する
・ハルキャンパスのWEBサイトにECサイトの情報を埋め込む
・実際に販売する・発送する

ということをやってみました。

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自社商品といっても、なにか大それたものをつくるのは難しい。僕たちの力で、どんなものが作れたら人は買いたいだろうか?ということを相談しながら、身の回りを眺めて、ハルキャンパスに置いてある植物を売ろうとしてみたり、笑 針金でオリジナルハンガーを作って販売しようとしてみたり。

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結局、なかなか形にはならず、折り紙でいくつか動物を作って、一旦販売してみることに。(なんやねん、折り紙つき折り紙、て。笑)

出品してみると、なんと一件、注文が!!

やった!と喜び勇んで、Aくんたちとありがとうの手紙を書いて同封。一緒に郵便局に行って商品を送ろうとしました。

するとなんとここではじめて、送料がかかることがわかります。笑

90円で販売したのに、送料120円。

「おーいもりもり、赤字じゃん〜〜〜!!!」

とAくんたちと笑いあったのを覚えています。
最高。こういうまなびが一番最高だよ。

結局、30円は僕が補填しました。


-授業:その他にも、いろいろ

その他にも、SONYの「KOOV」を使ってロボットを作り、それをプログラミングで動かしてみたり。

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オリジナルの重機を設計して、新しい林業のあり方を考えてみたり。

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自分たちで罠を制作し、魚を捕まえにいってみたり。

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この魚獲りプロジェクトも最高でした。罠の仕掛けは良かったのかもしれないけど、紙ひもでペットボトルをつなげたから、川につけたそばから罠が壊れて、流れていってしまうのでした。結局最後は、バケツで本当に小さな小魚と小エビを、一匹ずつ捕まえて帰ったよね。

他にも、いろいろ。

・LGBT当事者の方にインタビューしてみる
・越前市役所にアポをとって、武生中央公園改装の目的について現地視察・ヒアリングして、ポイントをまとめてみる
・自分でオリジナルのカードゲームをつくって対戦してみる
・自分が好きな領域をとことん探求し、みんなの前で発表してみる
・ECサイトを制作し、自社商品を製造し、販売してみる
・ペットボトルロケットをつくり、とばしてみる
・点字で目の見えない方のための案内板をつくる
・県知事選の候補者のマニフェストを読み、自分なら誰に投票するか考えてみる
・ハルキャンパスのチラシをつくってみる
・クリスマスパーティを自分たちで企画してみる
・ハルキャンパスに遊びに来てくれた人にインタビューしてみる

こうしてみると、結構色々やってきたなあ。


-授業:中学生や高校生とも

ハルキャンパスでは小学生だけじゃなくて、中学生や高校生にも授業を行ってきました。中高生になると、学校の授業ベースでやることを考えねばならない難しさもあったけど、クラドニ図形の実験なんかは、すごくおもしろかったなあ。

中学生の、ピアノが好きな生徒でした。「音って、どんな”かたち"をしているのだろう?」そんな疑問を皮切りにして、金属板の上に塩をまき、周波数を変えて、それぞれどのような形に塩が動くのかを実験したものです。

02クラドニ図形

この図形、めっちゃかわいくないですか?ヘルツをあげていくと、段々細かくなるのです。(金属板のうえで塩が踊る様子、すごくかわいいのです。よろしければぜひ!)

彼は野球が好きだったから、「カーブやスライダーでは、なぜ投げたボールの軌道は曲がるのか?」という疑問から、ボールを回転させるマグヌス効果について調べてまとめたりもしました。


-授業:どんぐりを転がすような営みでした。

はっきり言って、やってきたことやそのアウトプットだけを見れば、おお、なんか色々やっていて、すごいなあ!と思っていただけるのかもしれません。

でもその内実は、本当にどんぐりを転がして進むような、ゆっくりゆっくりと、進んだり戻ったり、右にいったり左にいったり。ずっとずっと、そんな営みでした。

1ヶ月間取り組んで、全然収穫がないプロジェクトや、失敗してしまったプロジェクトだってありました。遊んだり、しゃべっているうちに終わった一日もありました。子どもたちと喧嘩したこともたくさんあります。

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塾をやってみてわかったこと。

何か教えれば、常に前向きに食いついてきて、スポンジのように吸収していってくれる。そんな理想的な子どもなんていません。本当にまるっきり幻想です。笑

こどもたちって、本当に僕たちが思っているよりずっとずっと、一人の人間です。理不尽でこどもみたいな論理を振りかざしてくるくせに、大人と同じように敏感で、本当に面倒くさいのです。これは、こどもたちと本当に関わってみなければ、絶対に知ることはなかったことだろうと思います。

もうやだ、とか、ああ、今日も全然うまくいかなかったな、と、本当に何度も思いました。

そんな泥臭い小さな小さな積み重ねこそが、教育事業をやってみる、ということなのだろうと、今では思います。


■理由:どうしてハルキャンパスをしめるの?

見ての通り、ハルキャンパスはめちゃめちゃ楽しい時間でした。

一方で、ハルキャンパスをやっていくなかで、自分の力不足から、傷つけてしまった人もいました。ここは美談にしてはいけないから、本当にすいませんでした。申し訳ありませんでした。

そして、Aくんたちと一緒にプロジェクトに取り組むなかで、苦しさを感じたこともたくさんありました。

その苦しさは、大きくは以下の3つかなと思います。


-理由:1.自由と不自由の葛藤

ひとつめは、自由にしてほしい、という願いと、それじゃだめだという思いとの葛藤

僕は子どもたちに、思いっきり自由に過ごしてほしいと思っていました。
福井は宿題の量も多く、とにかく自由に、家でも学校でもできないことをやってほしいと願った。

だから、僕は彼らがハルキャンパスで、youtubeで動画を見始めたり、ウニの発生について語り始めたり、ポケモンをやり始めたり、プログラミングでロボットを作り始めたり、鬼ごっこや風船あそびを始めたり、こうした営みをなるべく止めたくなかったのです。

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別にプログラミングでロボット作ってるときなんて、最高なのでそのままにしておくのですが。やっぱりyoutubeを見続けているときは、そういう時間じゃないよ、と声をあげたくなるときもありました。

もちろん、こどもたちにとって自由な時間があるというのはすごく大事なことなのだけど、お金をもらっている限りは、その期待に応えなくちゃ、と僕も感じてしまう。本当はもっと、学童だとか、フリースクールのような形式で、彼らがいま向かいたい方へ、止めずに走り続けさせてあげられたらいいのだけど。

自由を大事にしてあげたい、という思いはきっと彼らにも伝わっていたし、だからこそ、すごく難しいのです。自由にしてていいのか、だめなのか。そのバランスが。


-理由:2.やりたいとやってほしいの葛藤

ふたつめは、これは本当に難しいのだけど、Aくんたちがやりたいことと、僕がやってほしいなと思うことの間の葛藤

僕はハルキャンパスで「Aくんたちがやりたい、と願うことを一緒にやっていくのだ」ということを言い続けてきました。

でも、実際に彼らの「やりたい」に触れ続けて気づいたのは、

・現状ベースでやりたいことを聞いても、今の彼らが知っている領域からしかアイディアは出てこない、ということ。
・だからまず、視野を広げる、好奇心を持てる分野を広げるところから一緒にやっていく必要がある、ということです。

考えてみれば当たり前なのだけれど、気づいたときには驚きました。

Youtuberになりたい、ゲームやりたい、動物を飼いたい…。彼らなりに色々考えて提案してくれます。

でも、彼らのそんな「やりたいこと」の範囲のなかでやっていては、3つの柱のうちの「対話」=視野を広げ、多様性を受容していく力や、「思考」=好奇心を持って、深堀りしていく力は身につかないのです。

だから何度か、「興味をもたせる」ところからやろうとしたことがあります。

・障害を持っている方って、どうやって日常を暮らしているんだと思う?
・男の人が男の人を好きなことって、変なことかな?
・まちのことって、だれが決めてるか知ってる?知らなくて、いいのかな?

きっと僕がやったことは、教育プロセスとしてはすごく正しく、重要なプロセスです。興味を持つプロセスがあって、はじめて小学生は分数の概念を身に着けたり、選挙システムを理解したりするのだと思う。

「問いを立て、興味を持つまでにいたる丁寧なステップをつくり、僕自身も大げさに面白がって場をエンパワメントしていく。」これはすなわち、演劇であり、エンターテイメントです。子どもたちと新しいことをまなんでいくときには、この演技がとてもとても、重要なのです。

(その「演技」については、探究学舎の宝槻さんの振る舞い(下記動画)をぜひ見てみてください。彼は上記の意味において、最高の教育者=最高のエンターテイナーだと僕は思っています。)

でも、その「演技」が、どうにも僕がやるにはわざとらしく、押し付けがましいなと感じてしまうのでした。

子どもたちも、一人の対等な人間だから、そういう感覚はどうしても伝わってしまう。Aくんにも一度、言われたことがあります。

「なんかこのプロジェクト、もりもりが作っていってるみたいじゃん!」

そのとおりなんだよ。難しいんだよなあ。

*

これは、ハルキャンパスだからこその悩みだなと感じます。

多くの子どもたちの前で、僕がリードして話を進めていいなら、すなわち「生徒と先生」の二項対立を前提とするなら、僕も演技することは全く気になりません。なぜならば、「興味をもたせるために演技をする」という行為は「先生」の役割として、当たり前に要請されることだからです。

でもハルキャンパスにおいては、僕は先生ではない。僕と子どもたちは、常に対等な一人の人間で、ともにプロジェクトを作っていくチームなのです。だから僕は「先生」とは呼ばれていませんでした。そしてだからこそ、僕はそこに演技を挿入するという振る舞いを選べなかったのです。


-理由:3.期待すること、しないこと

3つめ。1と2と被るところもいっぱいあるのだけど、たぶん一番大きかったこと。それは、僕は、期待したくなかった、ということ。

「ピグマリオン効果」というものがあります。その内容は、「期待をすることで、学習する人の成績があがる」というもの。実験の結果は近年否定されているそうですが、少なくとも僕の実感において、教育における「期待する」ことの効果は絶大です。

期待するという営みは子どもたちに対して、「自分たちが向かうべき先はここなのだ」ということを、無意識に信じさせる力を持っていると僕は思います。

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何かを成し遂げるには、ゴールを設定することが重要です。ゴール設定により、すべきことや至るプロセスが明確になるからです。

ゴール設定っていうのは「東京大学合格!」であったり、「5kg痩せる」であったり、「100人集客」であったり…、達成しようとするプロジェクトによって様々だけれど、それがあるのとないのとでは、全然違うのです。

しかし現実的には、子どもたちとゴールを握り合うことは非常に難しい。それはなぜかといえば、ゴールとは「未来に起きること」であり、あまりに目の前の具体性に欠けるからです。

この視点において「子どもたちに期待をかけること」とはすなわち、ノンバーバルな(言葉にしない)ゴール設定を意味しています。

ゴールっていうのは例えば「優しい子に育ってほしい」だとか「勇気ある子に育ってほしい」みたいなこと。それ自体が、期待であり、ゴール設定ですよね。これが、子どもたちにとってはものすごい力を持つのです。

きみたちならできる、絶対に大丈夫だ、きみたちを信じてる、、、!

こうした発言は「期待的な」発言です。そしてその期待(=ゴール設定)と、その後押し(=エンパワメント)の繰り返しが、子どもたちをゴールへと近づけてゆくのです。

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でも僕にはそれができない。期待する、ということをしたくない。これは僕の極端なわがままです。

Aくんたちが進んでいく未来に、Aくんはこうなっていったらいいなあ!!と確信を持って、向かうべき先を見定めて、後押ししてあげる。そういうことを、僕はどうしてもしたくなかったのです。

僕たちは同じ、一人の対等な人間です。僕がAくんの未来を定めるような傲慢な振る舞いは僕にはできないし、僕は彼らと、相互に一人の対等なただの人間として振る舞いたかったのです。

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僕のように(=対等に)関わる先生が良いとか。あるいは、生徒に期待をかけられる先生が良いとか、十把一絡げに言うことは不可能です。教育というものを俯瞰するとき、それもこれも、あるいはその他の役割を含め、教育には多様な役割を担う人が必要なのです。

とはいえ、ハルキャンパスにおいて「ほしい未来を自分でつくる人を育てる」という目的を掲げるなら、僕は絶対に「期待する(=ゴールを示す)」ということをし続ける必要がありました

できればそうしたかった。でも、それがどうしてもだめでした。

期待して新しい世界へ背中を押したり、あるいは手を引いて導いてく、のではなく。僕がハルキャンパスでやりたかったのは、彼らと「一緒にゆく」ということだったのです。

でもそれでは、彼らの視野は広がらないのだよね。そこがずっと、もやもやしていたのでした。

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そういう意味では、むしろこうしたプログラムは、中高生をターゲットにしていれば(僕にとっては)きっと楽だったのだろうと思います。

彼らはある程度大人になっているから、「遠くのゴールを設定して向かってみる」、「興味のないことでも取り組んでみる」ということが(わりと)可能だからです。塾だしな、なにかまなびがあるかもしれんしな、まあ先生がこう言ってるしな、と割り切って進めてみることができる。

でも、一方で中高生はビジネスモデルがほんとにむずかしんだよな〜。地方において、成績と関係のないところで、中高生(の親)からお金をもらってハルキャンパスのような事業を行うことは本当に難しい。宿題と部活とに追われて、彼らの可処分時間は既にゼロなのです。

この問題の解は、ハルキャンパスのような取り組みを、「部活動」や「サークル活動」にすること。でも、ちょっと今はまだはやい。もう少し部活が地域サークルとして地域に溶け込んでくれば、そんな未来はもう間もなくでしょう。実は、すごく楽しみにしていることのひとつです。

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とにかく、そんなもやもやを抱えてハルキャンパスと向き合うこと自体がよくないなと思ったし、自分の自然体に抗う振る舞いを続けていちゃいけないな、と思ったのです。

だから、ハルキャンパスをしめることにしました。

でも、やめることを決断するまで、1年近くもかかってしまいました。ふんぎりをつけられないたちなのです、ずっと。

子どもたちに、やめるよ、と伝えたのは、もう9月頃のことだったでしょうか。


■終わりに:最後の景色

最後のプロジェクトは、「クリスマスパーティをつくろう」にしました。

実はAくんとは、2年前に同じプロジェクトをやりました。自分たちでコンテンツを考えて、装飾を決めて。そのときは、散々だったんだよね。笑
低学年の子たちがいっぱいきて、彼らが集まるとやっぱり、派手に遊びはじめちゃって。

考えていたコンテンツもあったし、発表会とかも考えてたけど、うまくいかなかったよなあ。Aくん、悔しかった顔をしていた気がする。いや、そのときAくんがどう思っていたのかわからないけどね。

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だから、それをもう一回やってみようと思ったのです。ちょうどハルキャンパスの最後の授業の日が、12/24だったので。

今回はがんばったよなあ。

・スケジュールをひいて、
・収支計算をして
・当日の料金や、準備に使える費用を計算して。
・コンテンツや当日の担当者を割り振りして、内容を詰めて。
・当日の装飾物を洗い出しして、買い出しにいって、
・当日の料理を検討して、事前に注文して。
・当日のタイムテーブルをひいて、買い出しや装飾の必要物やスケジュールを詰めて…。

見てた?おれのプロマネの仕事の一端。笑
あんまり言ってなかったけどさ、普段、こんな仕事をしてるんだよ。おれ。

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2年前、こうやって必要物リストを書き出そうもんなら、なにやってるかわかんない!と叫んでたAくん。

今回は、受付は僕がやる!と前のめりに関わってくれたりさ。リースはここにあったほうがいいよ、入った人にすぐ見えるから。そういって自分の意見をきちんと伝えてくれたりさ。

すげえ大きくなったなあ。

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でも相変わらず、俺たちはいっつもぎりぎりだよなあ。
そりゃさ、12/24に買い出しなんていったらさ、ケーキ屋さんめっちゃ混むに決まってるじゃんね。笑

時間も帰宅ラッシュのまっただなかだしさ。買い出しにめっちゃ時間かかって、パーティ開始時間から20分くらい遅れたよね。笑

でも、そうやって一緒にプロジェクトができて、すげえ一緒にやってる感じがあって。準備してるだけで、俺はめっちゃ楽しかったよ。

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100円ショップで揃えた今日限りの装飾と、これまでのプロジェクトで撮った写真を飾った壁。当日は無事にピザとからあげとケーキが揃って、豪華なテーブルになったね。

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これまでのプロジェクトについて、Aくんたち自身の口から発表をしてもらったりしました。

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ああ、なんか、終わっていっちゃうなあ。

それは、なんか不思議な感覚でした。

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そうやって楽しんでいると、突然Aくんたちは、俺のよいところとわるいところをあげよう!!なんて言い出した。

ホワイトボードに、どちらかといえば俺の悪いことを書き出したね、笑

・悪徳商売をしているところ
・音痴なところ
・はげてるところ

おいおい、最後のパーティやぞ、やめろやめろ、人の悪口なんて。しかも音痴じゃないし、ハゲてもないからな。お別れの時間も、あともう少しなのにさ。

そう思って、作ってきた卒業証書を取り出して。

簡易版だけど、6年生の彼らに、少しだけ早い、卒業証書授与式を行いました。

さあ、卒業だよ。

「卒業証書、Aどの。

あなたは3年間にわたり、はじめから最後までハルキャンパスに通い、プログラミングをしたり、動画をつくったり、魚をつかまえたりと、たくさんのことをまなびました。そして本日、無事卒業となります。ここにこれを賞します。これからも優しく強く、生きていってね。たくさんありがとう。またどこかで。

令和元年十二月二四日
ハルキャンパス 代表 森 一貴。

卒業、おめでとう。」

じゃあ、もう時間だよ。
帰る準備をしよう、さようならだよ。

*

すると彼ら、突然ホワイトボードになにかを書き出すのです。

なんだよ、おまえら!悪口書いてたの、なんだったのよ。
さよならがさみしくて、強がってくれていたの。
ねえ。

帰り際、Aくんと抱擁をかわして、わかれました。
おお、A、泣かないんだな!と僕は思いました。大人になったなあ。僕はちょっと、寂しかったのだけど。

じゃあね、じゃあねと、Aくんたちは車から、いつまでも手を振ってくれるのでした。

*

会場に戻って、すんと静かになった教室を見回しました。

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静かになった教室のホワイトボードから、彼らの声が聞こえてくるようでした。

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なんだかその瞬間、2年と8ヶ月の思い出が、ぐわあと蘇ってきちゃってさ。

そんなん、泣いちゃうじゃんね。
どうすんだよこのホワイトボード。消せないじゃん。

*

後日、お母さんから連絡がありました。

帰りの車の中も帰ってからも、Aは泣いてました。強がることも出来るようになっていました。Aは良いところが悪いところにもなる大変な子で、先生はそんなAを大きく包み込んでくれる特別な存在でした。

なんだよ、A、結局泣いてたのかよ。

強がってくれていたんだね。いつの間にか、強がることも出来るようになっていたんだね。

俺もさよならのあと、泣いちゃってたよ。一緒やな。笑



じゃあね、ありがとうね。

またあう日まで さよならまたな



2020/1/25
ハルキャンパス 元代表・森一貴


*


ハルキャンパスに関わっていただいた皆様、これまで、本当に本当に、ありがとうございました。

場所を見つけてつないでくれた、でらさん。体験授業を支えてくれた大宝寺さん。ハルキャンパスの物件を貸してくれて、改装を支援してくれた、まちづくり武生のみなさん。はじめるにあたり、僕のwishリストからたくさんのプレゼントをしてくれたみなさん。改装に携わってくれたM工房さん。小規模事業者持続化補助金の支援をしてくれた、武生商工会議所のみなさん(持続しなかった、すいません!)。あまったの、なんていって美味しい料理を作ってくれた雲の井酒店さん。一緒にお祭りのとき声をかけてくださって、子どもたちとのワークショップを手伝ってくれた、玉村紙店さんはじめ、商店街のみなさん。村国山でのワークショップに関わってくれた、JCのみなさん、あかねえ。子どもたちの突然の来訪に付き合ってくれた、武生駅前にお住まいのみなさん。無茶振りの取材に対応してくれた、小柳箪笥・小柳さん、長田製紙所・泉ちゃん、山田英夫商店・西本さん、越前市のみなさん(動画、どうでしょう?)。僕のお昼や夕飯の、大事な時間を支えてくれた、ヨコガワ分店さん、いろは本店さん、マルシャンさん、スタジエールアトゥールさん、たかせやさん、れもん亭さん、その他たくさんのお店のみなさん。ごはんといえばなにより、僕の武生のおばあちゃんでいてくれた、森林食堂の森さん。大好き、またいくね。ロゴやデザインを担ってくれたTSUGIのみなさん。一緒に床を貼ったり、床を剥がしたりするのを手伝ってくれたり、ハルキャンパスにいっぱい遊びにきてくれた、あぶさん、かおちゃん、ぼくさん、僕の友達でいてくれるみなさん。名前は挙げきれないのだけれど、県内から県外から来てくれて、子どもたちと遊んでくれた、ワークショップをしてくれた、たくさんのみなさん。僕が挙げきることができていない、ハルキャンパスに関わってくれたみなさん。そしてどこかで、ずっと僕たちのことを見守ってくれていたみなさん。

ありがとうございました。


そして、一緒に走りだしてくれた、Eさん。ありがとう、迷惑かけてしまって、本当にごめんなさい。そして授業を手伝って、一緒に子どもとの時間を過ごしてくれた、ぼんちゃん、愛さん、あやちゃん。

僕の生徒になるよう後押ししてくれて、優しく見守ってくださった家族のみなさん。

そして何より、この塾に訪れてくれて、僕の生徒になってくれた全てのみんな。ずっと幸せで、笑っていてくれますように。

ありがとう。


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