見出し画像

アメリカン少年野球の盗塁王(エッセイ)

アメリカで少年野球をやっていた。

と言うと、ものすごい事のように聞こえるが、実際はほぼなんの役にもたっていない。15試合で打ったヒットは1本だ。

野球を見るのが好きだったので、なんとなくチームに加入したのだが、初日の練習から心が折れた。チームメイトの体格もピッチングマシーンの球の速さもまるで違う。あ、これ無理だわと普通に思った。

さて、アメリカと日本の少年野球の最大の違いは何か。ベンチメンバーでも打席が回ってくるのである。つまり15人いるチームなら、大量のDHの存在により、15番まで打順があるという事だ。これは、少年たちにより多くの機会を提供したいという親たちの思いらしい。

という訳で試合の日、お荷物の自分にも打席が回ってくる。相手投手は身長もあって、角度がついた球を投げてくる。物凄く打ちづらい。

唖然としていると、ファーボールが取れた。1塁ベースまで行くと、ある事に気がついた。あれ、これ盗塁出来るんじゃね?

そこで、初球から走りに行った。普通にセーフ。3塁も狙ってみる。こちらもセーフ。味方の犠牲フライで本塁へ帰還。チームに貢献する事が出来た。

これは未だに何故だか分からないのだが、盗塁する選手はあまりいない。昔、村上春樹が「少年野球はファーボールと盗塁ばかりだ」と言っていたように、少年野球では積極的に盗塁を仕掛けた方がいい。何故なら、きちんと刺せる捕手がほとんどいないからだ。しかし、走る選手はほとんどいない。これはチャンスだぞ、と思った。

この日から、何故だか筆者はチームの盗塁王になった。バットを振るのをやめた。欲しいのはファーボールだからだ。打順が1番下位の自分が盗塁し、3塁まで行けば上位打線にチャンスが生まれる。これも立派なチームプレイだ、と思った。

学んだ事がある。勝てない勝負はしなくていい。あの時、体格が違うチームメイトとバッティングで真っ向勝負していたら、勝てなかっただろう。しかし、どんな人でもウィークポイントは存在する。何故か盗塁が出来なかったりする。そこを見つけ、特化する。すると、居場所が出来ている。ずるい策だが、これも1つの解だ。

そうして、地区のリーグを2位で終え、我々のチームは州の大会まで行くことが出来た。打ち上げで、監督が全員にメダルをくれた。ホームランキングとか、1番声を出した人とか、メッセージを添えて。メッセージは何かな、と見てみるとこう書いてあった。Most inproved player(最も上達した選手)。…盗塁以外、特に何も上手くなっていない気がする。多分、最初よほど下手に見えたんだろうな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?