ブラジルのサーモンはめちゃくちゃ美味い(エッセイ)

 自分で自分の魅力に気付くのは難しい、という話をしようと思う。
 昔、ブラジルに住んでいた事がある。当然、現地で食事を取るのだが、肉料理が出される事が多かった。フェジョアーダという、豆と豚の端っこの煮込みや、鶏肉のステーキ。ご馳走として、牛を串刺しにして焼いたシュラスコ。魚料理を口にする事があまりないのだ。
 ブラジルで一番人気の魚料理は、なんといっても寿司と刺身である。スーパーでも見かけるし、市場では頼むと刺身を作ってくれたりもする。
 しかし、ブラジルに来たばかりの頃は、衛生面を気にして生物は控えていた。というのも、暑さに身体がついていけず、体調がずっとおかしかったのだ。これで、腹も壊したとなれば、とんでもない事になる。時々日本食屋に連れて行ってもらっても、食べるのは火の通ったものばかりだった。
 ブラジル生活にも慣れた頃、そろそろ大丈夫だろうと寿司を食べに行った。マツバラホテルという上等な店で、久しぶりの寿司を楽しんだ。この時、どのネタも美味いが、特にサーモンが絶品だと感じた。しかし同時に、高級店だから美味いのは当然だろう、とも思っていた。
 その後、市場で魚を刺身にしてくれる事が分かった。この頃には、もう身体はピンピンしており、多少は大丈夫だろうと思い、サーモンとハマチを刺身にしてもらった。
 家に帰って、早速食べようとすると、ある事に気付いた。サーモンのサシの入り方が、日本のものと全く違うのだ。日本のサーモンを、オレンジ8対白2の割合だとすると、ブラジルの物は、オレンジ6体白4くらいの割合だった。油の乗り方が、尋常ではない。食べてみると、先のホテルと質は全く変わらず、とんでもなく美味しい。ハマチも、口の中でとろけるようだった。
 その時初めて、ブラジルは魚がとんでもなく美味い事に気づいた。その後、様々な店で海産物を食べたが、外した記憶はない。特に、サーモンはどの店でも絶品だった。
 こんな美味しいサーモンや海産物を、何故ブラジル人はそこまで食べないのか。どうやらブラジル料理は、ポルトガル人の奴隷だった人々が作っていた料理がルーツらしく、主人が食べ残した肉を調理していたらしい。先に挙げたフェジョアーダも、元々は主人が残した豚の尻尾などを煮込んでいたそうだ。ポルトガル人があまり魚を食べなかったせいで、ブラジルのサーモンは全く注目されてこなかった。
 それが、日本から寿司と刺身という文化がやって来て、ようやくブラジルサーモンのポテンシャルが知れ渡った。
 しかし、ブラジルサーモンの魅力は、ブラジル人だけでは気づく事は出来なかっただろう。あの油の乗ったサーモンは、焼いたり煮たりすると油が落ちてパサパサになってしまう。生で食べるのが、一番だろう。こういう形で、自国の物の魅力に気付く事もあるのだなあ、と学びを得た。
 そこで提案なのだが、牛や豚を知り尽くしているブラジル人に、普段捨てられがちな部位の活用法を教えてもらってはどうだろうか。もしかしたら、日本はブラジル人にとって、宝の山かもしれない...。

4月17日追記
 ブラジルのサーモンが美味いのは、どうやらチリが近いかららしい。チリが有名なサーモン大国で、そこに近いブラジルは新鮮なサーモンを手に入れられるという事だ。日本にも、チリ産サーモンはあるが、やはり新鮮さの面では勝てないだろう。その辺りの差が、筆者の感じた差なのかもしれない。

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