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ハワイで父に殺されかけた思い出(エッセイ)

ハワイに対して、どんな印象があるだろうか。南国、リゾート、海、コナン君が親父にいろいろ習った場所、人それぞれだと思う。しかし、筆者のハワイのイメージは違う。筆者にとってハワイは、父親に殺されかけた、という印象しかない。

小学生時代、ハワイ旅行に行った。ハワイ旅行というと大体の人間がオアフ島に行くが、何故かハワイ島に行く事になった。ハワイ島は、日本人が少なく、異国感に溢れていて、結構面白かった。

しかし、ある日天気が悪くなってしまった。ハワイにとって天気が悪いというのは、致命的であると言っていい。コナン君から、博士の道具を全部奪うのと同じくらい致命的だ。

だが、我が家の人間は自分含め割とアホだった。雨が小雨の範疇という理由で、父と二人で泳ぎに行ってしまった。海、といってもホテルの備え付けビーチだったが、客は自分たち含め四人しかいなかった。確か、雷がなかったので、ギリギリ閉鎖は免れていたと思う。

小学生なので、浅瀬でぱちゃぱちゃなっていたのだが、ある事に気がついた。波が荒れているのだ。子供にとって、波が荒れているというのは、絶好のスリルだ。早速少し奥に行き、わざと波に流される遊びを始めた。父親やライフセイバーも止めなかったので、言うほど危ないところにはいなかったのだろう。

何回か繰り返していると、とてつもなく大きな波が来た。子供目線なので、言うほどではないだろうが、その場にいた大人も軽く尻餅をついていた。筆者はというと、思いっきり体ごと流されて、水中でムーンサルトを決めるような状態になっていた。もがいて、なんとか地上に着こうとして、体が砂浜に触れた。良かった良かったと顔を上げようとした時だった。頭が動かないのだ。頭上にずっしりとした重みを感じ、顔は砂についたまま、びくともしない。

腕に力を込めて見ても、全くダメ。当然、呼吸ができなくなる。そもそも、ムーンサルトの時点で酸素が足りなくなっていたので、いよいよという状態だった。焦ってジタバタしたのも、よくなかった。体がだんだん動かなくなってきた時、不意に頭が軽くなった。最後の力を振り絞り、頭を上げる。何とか助かった。それにしても、あの重みは何だったのか。眼前に飛び込んできたもので、理由が分かった。父の尻だ。

おそらく、父も尻餅をついたのだろう。その尻が、運悪く自分の頭部と重なってしまったのだ。父曰く、なんか丁度いい石があるなと思い、よく見たら息子の頭だったらしい。そんな事ある?

波が高くなったという理由で、ビーチは閉鎖となった。帰る途中、頬についた砂を撫でた。あれは夢ではなかった。そしてこの時、この後どんな思い出があったとしても、この体験が一番鮮烈に記憶に残るだろうと確信した。

皆さんは自分のお子さんの頭を、お尻で踏んづける事がないようにご注意ください。お子さんの旅行の思い出が、それ一色になっちゃいますよ。

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