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他の誰でもない。あなたでないとだめなんです

「結婚するね」と報告したとき、みんなにびっくりされました。「誰と?」とキョトンとした友人もいたし、「は?」と言ったきり固まってしまった子もいました。

私と夫は2回目に会ったとき「彼女にしてほしい」という私の言葉でお付き合いが始まり、4回目に会ったとき「結婚しよう」という夫の言葉で一緒になりました。とにかく出会ってから結婚まで早かったので周囲に心配されました。

あれから20年近くになります。

昨夜、出会ってからまだ数年ぐらいしか経っていない感じがするね、という話を夫としていました。時間の感覚って不思議なもので、特に子供が生まれてからぐーんと時間の流れが加速した気がします。

それでも思い起こすといろいろありました。その中で、私が最も後悔していることを書いておきたいと思います。

義父が亡くなる数日前、私は夫に大変つまらないことで激怒しました。

夫の親戚の一人が、娘の前でタバコを吸ったんです。家に帰ってから、私は夫に怒りました。こんな小さな子供の顔にタバコの煙を吹きかけるなんて非常識にもほどがある。そんな親戚に対して黙っているあなたが私には信じられない。父親として子供が大事じゃないのか?と。

夫は一言「ごめんね。次はちゃんと注意するから」と言ったきりでした。

あっけないやりとりに怒りがおさまらない私は、知り合いのみフォロワー、知り合いのみ公開の閉鎖的SNSで怒りをぶちまけます。振り返っても「何もそこまで言わなくても」という剣幕で書き散らかしました。

「書いてスッキリ~」と思った数時間後のことです。突然、キョウからメールがきます。

「お願いがあって連絡した」とありました。

キョウが私にお願いだなんて、珍しいこともあるもんだなと思いながらメールを読みました。

「あなたが怒る気持ちもわかる。それでも、今はとにかく◯◯さん(夫のこと)に優しくしてあげてほしい」

その一文から始まるキョウのメールは今でも残してあります。それまで「学生時代からの知り合い」だった彼を「私にとって大切で必要な人」にさせたメールでもあるからです。

「今、◯◯さんは人生で最も辛いときを迎えている。それは、父親をすでに亡くしているあなたなら容易にわかることだろう?」

数年前、キョウもお父様を亡くしました。メールを読みながら、あのときキョウと交わしたやりとりを思い出して胸が痛くなりました。

そして私が父を亡くしたとき、夫がどれほど優しくしてくれたか、どれほど私を支えてくれたかも思い出します。胸はますます痛くなりました。

「他の誰が優しくしてもだめなんだ。こういうとき、奥さんであるあなたに優しくしてもらわないと〇〇さんはだめなんだよ。だから優しくしてあげてほしい」

後悔しました。どうしてもっと夫に優しくすることができなかったのかなぁと。

親戚がタバコを吸ったぐらい何だというのでしょう。そんなこと、親との別れに比べたら些細なことです。自分を一番最初に愛してくれた人、自分の一番最初の理解者であった人が、この世から去ろうとしているときにどうして私がその人に代わり夫を最も愛し、夫を最もよく理解する人であろうとしなかったのか。

泣いて夫に謝りました。自分の過ちをあれほど後悔したことは初めてでした。

夫婦といってもいろいろです。それこそ「愛している」にもいろいろあるように、10組の夫婦がいれば10組の夫婦像があります。だからこれから書くことは、ある一組の夫婦の言葉としてきいていただければ幸いです。

いくら他の人に優しくされてもだめです。あなたが優しくしてくれないと、私は強くはなれません。

いくら他の人が私の味方をしてくれてもだめです。あなたが私の味方でいてくれないと、私は孤独です。

いくら他の人が私を理解してくれてもだめです。あなたが私を理解してくれないと、私は前には進めない。

いくら他の人に愛されてもだめです。あなたが私を愛してくれないと、私は寂しい。

あなたでないと私はだめなんです。