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私は消耗品の女にならない

ヨーグルが私をモデルに書いた小説が文庫化された。
それを読んだ友人が「もしかしてあの小説のヒロインって凜ちゃん?」ときいてきた。ヒロインの名前が私の本名(旧姓)だから、わかる人にはわかるようだ。

「そうだよ。200%美化されてるけれどね。ほとんど別人レベルよね」と笑ったら、友人が「あれは凜ちゃんだよ」と言う。

「凜ちゃんはおとなしそうで物静かだけど、すごく芯の強い子だし、天然でぱっと見はぼーっとしてるけど(……え?)実はしっかり者だったりするし。あれ、まさに凜ちゃんやわ」

ちょっと複雑な気持ちです(笑)

確かにヨーグルには自分の意見をずばずば言うし、おとなしい女性とはいえないだろう。むしろ気の強い女性だと思われてるかもしれない。

ヨーグルは私の話をよく聞く。
私に「どう思う?」と、仕事を含めいろいろ意見も求めてくる。
饒舌に語る姿に頭の良さを感じる人もいるだろうけど、私は逆。頭のいい人は語る以上によく聞く。

さて。
ここで突然だが、私の苦手なものの一つにアルコールがある。
学生時代も社会人になっても一滴も飲まなかった。体質的に飲めないのではない。精神的に飲めないのだ。
結婚してから少し嗜むようにはなったが、やはり好きにはなれず今では全く飲まない。

お酒をみると、毎晩狂ったように飲み続け、大声で騒ぎ続ける父を思い出す。私にとってアルコールを体内に取り入れることは、父のような人間に近づくという意味をもっていた。

でも、ある日「違う。私は父にはならない」と気がついた。
もし私がなるとしたら父みたいな人間じゃない。母みたいな女だろう。

母みたいな女というのは、例えば頭がよくて学歴が高くて、仕事ができて稼げる女性。
思慮深く、我慢強く、常に一歩ひいて父に従う。父の言葉に「yes」と言い続け、父の無茶な行動をしっかりサポートし、父をフォローしながら生きて行く。
本当は父よりも圧倒的に賢いのに、高い学歴や豊かな知性を父の前では隠し、父の語る内容のない話に耳を傾け父の自尊心を満足させる。

絶対に嫌だ。

私はこんな女性になりたくない。
母のことは大好きだし、尊敬もしてるけど、私は母みたいになりたくなかった。

母が父の無茶ぶりを文句も言わず受け入れていたのには理由がある。
幼い頃、両親が喧嘩をするのをみて傷ついていた母は、自分は子供にそんな思いはさせまいと思っていたらしい。確かに父と母が私の前で喧嘩をしたことは数えるほどしかない。二人が喧嘩をするのは私が寝たあとだ。ただ父の怒鳴り声があまりにも大きいので起きちゃうんだけどね(笑)
もし、父がもう少し人を慮ることができる人だったら、母のそんな思いを汲んで二人で協力し合い素敵な家庭が育まれたんだろうけど、残念なことに父は「あれ、まだきいてくれるの?じゃあ、もうちょっと無理言っちゃおうかな」とどんどんエスカレートし、子供からみたら我儘放題の父をひたすら我慢して受け入れ続ける母、みたいに映ってしまった。

私の母は極端な例かもしれないが、少なくとも私のように昭和世代の母親に育てられた周囲の女友達は、多かれ少なかれ母親を通して「男性に抑圧される女性」を感じた子が多かったのかもしれない。

父は当然のように友達と飲んで遅くに帰ってくるのに、母がたまにそういうことしたら激怒するなんて勝手、と憤っていた友人。
母は父にいつもニコニコして服従してるけど、陰では父の文句を私に言ってる、と母親の二面性に嫌悪感を示していた友人。
そんな女性の二面性に気がつかない男性のお目出たさを笑う子もいた。

社会が急速に共働きへと流れが変わる中、女が稼ぐことは歓迎するが自分の年収は超えてほしくないという男性の心情に対して「男って下限だけでなく上限まで決めてくるんだね」とウンザリしていた友人。

昔、私がヨーグルの仕事に口出しをするのをみて母に注意されたことがある。
母にしては珍しく強い口調だった。

「素人の凜ちゃんが、ヨーグルさんの仕事にあれこれ口を出すのは生意気やわ」

言葉通りの意味なんだと思う。
でも母の口からそれを聞くと、私には「男の仕事に女は口を出すな」と言われているようで気分が悪かった。

私は確かに生意気かもしれない。厚かましいのかもしれない。

でも、私は男性の自尊心を満たすためだけの女になりたくないのだ。
若さや美しさで彼らを楽しませたり、聞き触りのいい言葉だけを並べて喜ばせるためだけに存在したくない。
男性が疲れたときに癒したり甘えさせたり、人生の合間のちょっとした息抜きのためだけに必要とされたくない。
一時期の熱情で盛り上がって楽しんで、二、三年したら飽きられて必要なくなるような扱いなどごめんだ。

私は、そんな消耗品のような女にだけはならない。

私がちゃんと私でいられる人。
私を本当に必要とし、私を認めてくれる人。
私を一人の人間として尊重してくれる男性がいい。

だから嬉しかった。
ヨーグルが小説で私を力強く書いてくれたことが嬉しい。
友人があのヒロインを「あれはまさに凜ちゃん」と言ってくれたことが嬉しい。

以前、ヨーグルに「私のどこが好きなの?」ときいたことがある。

「自分をしっかりもっているところ。自分の意見をちゃんと伝えることができる聡明なところが好きだよ」

ありがとう。
その言葉を誇りに、もっともっといい女になろうと思います。